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ライトオブクラウン

築き上げた努力

作者: SUN3
掲載日:2026/04/27

カイゼルは努力していた。


朝は誰よりも早く起き、机に向かう。夜は灯りが消えるまで書物を閉じない。指先はインクで汚れ、紙の端は何度もめくられて擦り切れている。


政治、歴史、経済、外交、魔法理論。


理解できなければ繰り返す。覚えられなければ書き写す。


時間を積み上げれば、すべてをねじ伏せられると信じていた。


宰相家に生まれた。


将来は国を動かす側に立つ。


それは疑いようのない未来だった。


だから努力した。


誰にも何も言わせないために。



だが、一つだけ。


どうにもならないものがあった。


魔力の才能。


幼い頃に受けた魔力審査。


水晶に手を触れた時、風がわずかに揺れただけだった。


風魔法、一属性。


それ以上は何も起きなかった。


貴族は二属性が当たり前。


それが前提の世界で、一つしか持たないという事実は、どれだけ努力しても覆らない。



婚約者は、それをよく知っていた。


「カイゼル、あなた、風魔法しか使えないんですって?」


紅茶を傾けながら、楽しそうに言う。


「私は四属性も使えるのに?」


カイゼルは答えなかった。


テーブルの下で、手を強く握る。


「何か言ったらどう?つまらないわね」


「風魔法の制御なら負けない。君は先日、魔力暴走を起こしたと聞いたぞ」


一瞬、空気が止まる。


だがすぐに、軽い笑い声が返る。


「ふん。四属性で高魔力な私が特別なだけ。少しくらいの失敗で騒ぐなんて、小さい男」


周囲の視線がわずかに動く。


侍女や護衛も何も言わない。


それでも、空気は変わっていた。


カイゼルはそれ以上言わなかった。


確実に言えることは、カイゼルは、この婚約者が大嫌いだった。



やがて魔法学院に入る。


石造りの廊下。高い天井。足音が静かに響く。


その中で、一人の少女と出会った。


「勉強ばかりで世間を知らないなんて、真の政治家になれないわ」


振り返る。


まっすぐな視線だった。


「そうかもな」


自然と、否定は出なかった。


少女は少し驚いたように目を細め、それから小さく笑った。


「あなたの努力は認める。でもね、方向が違うの」


「方向?」


「人は理屈では動かない。最後に動くのは感情よ」


廊下の窓から光が差し込む。


少女の横顔が白く浮かぶ。


「カイゼルは正しい。でも、それだけじゃ足りないの」


その言葉が、頭に残った。



それから何度か言葉を交わすようになった。


短い会話。


すれ違いざまの一言。


それだけで十分だった。


気付けば、探していた。


姿を。


声を。


言葉を。


そして、それが恋だと理解した。



だが現実は変わらない。


風魔法一属性。


宰相家の嫡男。


四属性を持つ婚約者との結婚は、必要なものだった。


この婚約を破棄する事は出来ない。



二人は、少しずつ疲れていった。


言葉が減る。


視線が合わなくなる。


未来の話をしなくなる。


「今世で結ばれなくても、来世で結ばれるかも」


少女がぽつりと言った。


風が吹く。


髪がわずかに揺れる。


カイゼルは笑った。


力のない笑みだった。


「行くかい?」


わずかな間。


「来世に」



夜。


月明かりが水面を照らしていた。


池は静かで、風もない。


水面は鏡のように光を返し、周囲の木々が黒く沈んでいる。


二人は何も言わなかった。


ロープを取り出す。


互いの腰に巻く。


結び目を確かめる。


外れないように、強く締める。



少女が一歩踏み出す。


「最後くらい、踊りましょうか」


冗談のように言う。


カイゼルは少しだけ目を細め、それから頷いた。


手を取る。


指が触れる。


冷たい。


抱き寄せる。


ぎこちない動き。


それでも形を保つ。



水に足を入れる。


冷たい。


足首。


膝。


腰。


布が重くなる。


水が絡みつく。


それでも、手は離さない。


お互いリズムをとりながら揺れる。


顔が近い。


息がかかる。


二人とも笑っていた。



そのまま、沈んでいく。



二人の遺体は、二日後に見つかった。


池のほとり。


水に濡れた服が重く貼り付き、指先は固く絡まったまま。


離れないように結ばれたロープだけが、


最後まで、二人を繋いでいた。


築き上げた努力は泡と消えた。

この短編は、乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜の中に出てくるゲームの内容です。

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