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邪竜の私ですが、討伐に来たはずの王子がなぜか私を守ると言い出しました  作者: 臼田ゆわ


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第4話 英雄の帰還

 シグルド王子の帰還は、歓喜という言葉では足りぬほどの熱狂をもって迎えられた。

 仲間の窮地を救うべく身を挺して邪竜に一人で立ち向かったシグルド王子が奇跡的に生還したのだ。まさに彼らにとっての英雄である。

 第一次邪竜討伐作戦は失敗と終わったが、彼らの士気は下がるどころか高まるばかりだった。


「邪竜討つべし、英雄のシグルド王子と共に進め!」

 その騒ぎはアストレイド王国城内にも響き渡っていたのである――。


 ***


 アストレイド王国城内 シグルドの部屋


「シグルド様、ご無事だと信じておりました! 」


 どこか幼さの残る顔立ちに、ふわふわと揺れる金髪。

 南国の海のように澄んだ碧眼を輝かせ、その少年――隣国エーデルシュタイン公国第二王子、ユリアンは私の手を取り、身を乗り出した。


 邪竜討伐の任のため、隣国エーデルシュタイン公国より連合部隊に参加している若き王子なのだが

 その仕草は公国の代表という重責を担う者ではなく、

 まるでおとぎ話の英雄を目の当たりにした少年のように感じられた。


「あの大崩落の中、味方の騎士を身を挺して守られた様には感動いたしましたっ!

 このユリアン、必ずやシグルド様のご活躍を語り伝えると誓いましょう!」


 人当たりのよい、柔らかく高めの声が興奮気味にセリフを紡いでいく。

 邪竜のため二国間の連合討伐隊という作戦が行われているのを忘れてしまうかのごとく、彼だけはまるで純真な子供のように目を輝かせ歓喜を振りまいていた。


「……あぁ、心配をかけて申し訳ない。ユリアン殿」

 私は曖昧に微笑み、彼の手を優しく握り返す。


 そんなユリアンの背後に控えていた一人の男が静かに歩みを進めた。


「ユリアン様、あまり騒がれてはシグルド様もお疲れでいらっしゃいましょう」


 興奮気味のユリアン王子を諌めるかのごとく

 氷のように冷たいながら耳に心地よい低音の声が響き渡る。


「シグルド殿下、直接のご挨拶が遅くなり申し訳ございません。

 エーデルシュタイン公国にて国務大臣を務めております、グスタフ・ヴァイリッヒでございます。

 我が国の王子が大変失礼を――」


 グスタフと名乗った大臣は、完璧な角度で一礼に伏した。

 ユリアンも自分の立場を忘れていたと我に帰り、バツの悪そうな顔をこちらに向けている。


「いえ、ユリアン殿のお言葉は励みになります」

「左様でございますか。……とはいえ、ユリアン様がああして心を動かされるのも無理はございません。

 あの崩落の中で被害はゼロ。まさに神がかり的な奇跡。

 ――公国の兵も、多くをシグルド様に救われましたゆえ」


「グスタフ殿、おやめください。

 我らアストレイド王国とエーデルシュタイン公国は、対等なる同盟国。

 今こそ、手を取り合うべき時でしょう」


 これまで我が国に、邪竜による被害の報告はなかった。

 だが、山脈を挟んだ隣国――エーデルシュタイン公国では、

 近頃、邪竜による被害が急増しているという。


 その報を受け、ユリアン王子自らが使者として訪れ、

 二国連合による討伐作戦が実施されたのだった。


「ありがたきお言葉……。ですがご安心くださいませ

 我が国に甚大な被害をもたらしている邪竜を討つべく

 シグルド様の武勇に負けぬよう、我々も次こそは力を発揮させていただく所存でございます」


「……次こそは "確実に" 邪竜には消えてもらわねばなりませんからな」


「ああ、もちろんだ。グスタフ!

 我がエーデルシュタイン公国の精鋭部隊が、必ずや成功させてみせよう!」


 グスタフの声を遮るかのごとく、ユリアンの明るい声が部屋に響く。

 悪気がないのは分かるが、英雄像に寄っているような幼さを感じる。だからこそ、今回の討伐任務の本質から少しズレているようにも思えた。


「シグルド様、次は私の活躍をぜひお見せいたしましょう! ――公国の名にかけて!」


 自信に満ちた様子で語るユリアンは、熱を込めた言葉で私に約束してみせる。

 しかし、熱っぽく私に語りかける彼の言葉は今の私には、どこか遠くの出来事のように感じられた


 ユリアンに握りしめられていた両手の感触以上に

 崩落の闇の中で、あの黒い翼に触れられた場所から脈打つ静かで力強い「熱」と共に

 邪竜から聞いた話が頭の中で反復していたからである。


 ***


 扉が閉まり、部屋に静寂が戻る。

 かと思えば大柄な影が窓を横切り、私の前にぬっと現れた。


「ハッハッハ……いやはや、若も随分と“好かれて”おりますなぁ!」


 野太くも明るい通りのよい声が響く。右目の黒い眼帯が彫りの深い顔達を険しく見せていたが

 私と視線が合うと、目尻にシワを寄せながら、どこか穏やかな笑顔を浮かべる。

 彼はバルトロメイ・ガルド。アストレイド王国の騎士団長であり私の師でもある男だ。


「バルトか、騎士団長のお前にも心配をかけたな。

 ……ユリアン殿も悪気があるわけではないのだろうが、少し熱意がありすぎるかもしれぬな」


 バルトは見た目の通り豪傑な男ではあるが

 他国の王子を従者に例えるとは怖いもの知らずと言えよう。だが、相手を選ばず正直に語るのが彼らしくもあり、私のこわばっていた表情も少し綻んでいた。


「"熱意"ですか、ハハハ。うまいことをおっしゃいますな。

 ですが、まるで昔の若を見ているようです。私は微笑ましく思いますぞ」


「……私がか?」

 訝しげに見る私の視線に気がついたバルトは

 顔を緩ませながら昔の思い出を語り始める。


「えぇ、覚えておりませぬか? 若にもあのように英雄に憧れた時期があったことを」

「そんなこと……あっただろうか?」


「えぇ、ありましたとも! そして我々の肝を冷やした行動でもありました。

 王妃様が体調を崩された際に、山脈に薬草を探しに一人で出かけていったのです」


 自分の母の病のため薬草を探しに山脈へと向かう。

 なるほど。確かに冒険譚に語られそうな行動だ。確かに幼少期に読み聞かせてもらった騎士の物語に似たような話があったかもしれない。

 ユリアンに妙な懐かしさを覚えたのは、かつての自分を重ねていたなのかもしれない…と妙な納得感を覚えた。

 

「まだ若が幼い頃でしたから覚えていらっしゃらないのかもしれません。

 若の熱意には王はもちろん、我ら騎士たちも大慌てでしたよ。

 季節柄、あの山々は狼達の狩り場となっていましたからね」


「狼たちが?」

 ちくりと胸に熱に走る。忘れていた記憶を思い出そうとすると

 何かが抜け落ちているような、そんな感覚を覚える。


「えぇ、そうですとも! 流石の私も肝を冷やしましたが、

 思えば、あの時も王子は傷一つなくお戻りになられたのでしたな」


 冗談交じりに昔の思い出を語るバルトだったが

 私が忘れていた記憶が少しずつ呼び起こされていくような気がした。


「……私が子供の頃にも似たようなことがあったのか?」


「えぇ。王妃様は泣きながら若を抱きしめて 『神の奇跡だ!』と騒がれておりました。

 若はきっと、大いなる加護によりお守りいただいているのかもしれませんな。

 アストレイド王国の未来は明るいですな。ハッハッハ!」


 野太い声で私の生還を喜んでいるバルトの思いとは裏腹に

 だんだんと私の表情は固くなっていく。そして蓋をしていた記憶がゆっくりと輪郭を取り戻していく。



 母のために薬草を探し山脈を駆け回った私は

 狼たちに追い立てられ、血まみれで洞窟に逃げ込んだ。

 腕や足に食いつかれ、もう駄目だと思った時に

 私を包み込む、温かな翼があったのだと。


 ―そう。どこか懐かしく感じたあの大きな翼。

 私は、以前にも邪竜に助けられたことがあったのだ。


 邪竜の言うことは本当だったのだ。

 なぜ忘れていたのだろう、竜の加護のせいなのか。生死の境を彷徨ったからなのか……。




 ……だが、納得できない。

 今回の邪竜討伐の発端も、隣国エーデルシュタイン公国に多大な被害もたらしたとのことに起因する。

 それに、我が国の伝承にも邪竜は災厄をもたらしてきた、悪しき存在と伝え聞く。

 人を助けるような存在では……。


 その時、邪竜討伐の際の記憶の違和感がするっと抜けていくのを感じた。


「直接狙えば多くを殺せていたはず……攻撃を外したのではなく

 誰も巻き込まないようにした……? 初めから邪竜に攻撃の意図はなかったのか――」


 邪竜の意図を理解した私は、一つ決意していた。

 やはり、真実を見極めねばならない。

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― 新着の感想 ―
読ませていただきました。 題名とあらすじに惹かれて読み始めたのですが、とても読みやすい文章で、キャラの会話が面白くて可愛くて、読めるところまで一気に読んでしまいました! リィネ、とっても可愛いですね…
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