表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪竜の私ですが、討伐に来たはずの王子がなぜか私を守ると言い出しました  作者: 臼田ゆわ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

第3話 王子と邪竜ともふもふ犬と

 アストレイド王国の王子として、王命を受けて討伐隊を率いてきたはずだったが

 崩落の衝撃から目を覚ました私の前にあったのは、黒き巨体だった。

 

 そして、目の前のソレは不思議そうに私を見つめている。


 邪悪なる存在を前にしているはずなのに、

 なぜか私は剣を取れなかった。


 崩落の中、私を押し潰すはずだった岩の雨。

 その直前、確かに私は見たのだ。

 広がる黒き翼を――。


 そして今、その翼の主は、

 どこか間の抜けた声で「おはよう?」などと言っている。

 ……状況が、理解できない。


「理由……とは、何だ」

 問いかけると、白銀の獣が鼻を鳴らした。


「せやから、王子はんが竜の言葉を理解できとるんは、

 リィネの加護のせいや」


「加護……?」


 思わず繰り返す。


 白銀の獣――フェンと名乗った聖竜は、

 呆れたように首を振りながら続けた。


「――つまり、や。

 王子はんに竜の加護を与えたんは、邪竜……リィネっちゅうことや」


 にわかには信じ難い話だった。


 幼い頃、この洞窟に迷い込んだ子供をリィネが助けたこと。

 その際に与えた加護が、今もなお私の身に残っていること。

 そして、その加護が崩落の中で私の命を繋いだのだということ。


「せや。王子はんは覚えてへんのやろうけどな。

 昔、死にかけとったアンタを助けたんは、こいつや」


「そうです、私が助けました!」

 リィネはむふーっと得意げに鼻息を鳴らし、

 大きな翼を広げて自分を誇示するような仕草を見せた。


 だが、その隣でフェンは小さな前脚を額に当て、

 深々とため息をついた。


「アホんだら竜調子に乗っとる場合か! さっきの話もう忘れたんかい!」

「ひぇっ。ご、ごめんなさい……」

 十メートルを超える黒き邪竜が、

 白い小型の獣に叱られて縮こまっている。


 見た目だけなら、どちらが上位の存在なのか分からぬ光景だった。

 災厄の象徴と聞かされてきた邪竜が、なぜこんなにも調子を狂わせるのか。

 本来なら剣を抜き、緊張すべき場面のはずなのに、気の抜けた二人のやり取りに飲み込まれてしまう。


 そして――。

 そのどこか気の抜けたやり取りを眺めながら、

 私の胸中も、静かに揺れていた。


 もしそれが真実なら、

 私はかつて“邪竜”に命を救われていたことになる。


 だが、まだそこまで断じることは出来ない。

 記憶の底に何かが触れかけている気はするのに、

 形になる前に霧のように散っていく。


「……私の王国では、邪竜の話は幼い頃から聞かされてきた。

 災厄をもたらすもの。

 人を喰らい、国を滅ぼす悪しき竜だと」


 それが当たり前だった。

 疑う余地などないほどに。


 だが、目の前の邪竜は、

 私が知る“災厄の象徴”とはあまりにも違いすぎる。


「お前は、私を助けたのか」


 真正面から問うと、リィネは視線を泳がせた。


「うーん……助けたっていうか……。

 寝床で死なれると嫌だったし。

 今回も、あそこで王子様が死んだら、あとが面倒そうだったから」


「面倒……」


「うん。だって、王子様が死んだら絶対もっと人が来るでしょ?

 ただでさえ静かに暮らしたいのに、すっごく困るし」


 あまりにも拍子抜けする答えだった。


 だが、そこに嘘があるようには思えなかった。

 少なくとも、私を庇った時のあの翼に、殺意はなかった。


「それに」

 リィネは少しむっとした顔で続けた。

「私、公国とかいうところには何もしてないよ。

 ここからほとんど出たこともないんだから」


 公国――エーデルシュタイン。

 その名に、意識が引き戻される。


 今回の討伐の発端は、隣国エーデルシュタイン公国における被害報告だった。

 山脈を挟んだ先にある彼らの国で、邪竜による襲撃が相次いでいる。

 そう聞かされたからこそ、私は王命を受けてこの地へ来たのだ。


「……私を助けた。

 そして、公国にも手を出していない。

 そう言うのだな」


「そうだよ。

 信じてもらえないかもしれないけど」


 私は、すぐには答えなかった。


 信じたいわけではない。

 だが、切り捨てることも出来なかった。


 崩落の中で私を庇った翼。

 言葉に出来ない違和感。

 そして今、目の前で言葉を交わしている邪竜。


 それらが、これまで信じてきた“邪竜像”とあまりにも食い違っていた。


「……はぁ。まぁそういうこっちゃ、王子はん」

 フェンが呆れたように尾を揺らす。


「とにかくや。このバカタレが気軽にアンタへ加護を与えてしもた。

 せやから、アンタに死なれるのは困るんや」


「私が死ねば、リィネにも影響があるという話か」


「せや。軽い話やあらへんで」


 私は無意識に、自らの胸元へ手をやった。

 崩落の中で感じたあの熱が、まだ微かに残っている気がした。


「……今ここで、お前たちの言葉をすべて信じることは出来ない」


 私がそう言うと、リィネは少しだけ肩を落とした。

 だが、それは当然だろう。

 私はアストレイド王国の第一王子だ。

 敵とされる存在の言葉を、その場で鵜呑みにするわけにはいかない。


「けれど」

 私は続ける。

「少なくとも、お前が今この場で私を害するつもりがないことは分かった」

 リィネがぱちりと目を瞬いた。

 フェンは前脚を組むような仕草で鼻を鳴らす。


「……ウチが言うのもあれやけど、王子はんも結構イカれてはるな

 まっ、話のわかる男ってのは分かったわ」


「フェン様、さすがに王子様にちょっと失礼じゃない……? 」


 緊張の残る場の中で、

 そのやり取りだけが妙に自然だった。


 私は立ち上がる。

 体にはもう痛みがなかった。

 それが余計に、加護というものの異様さを物語っているように思えた。


「私は一度戻る」

 洞窟の外へ視線を向けながら言う。

「兵もいる。王国にも報告が必要だ」


「そっか」


「だが」

 私はリィネを見た。

「このまま終わらせるつもりはない」


「……どういうこと?」


「私は、自分の目で確かめたい」


 そう言うと、リィネは小さく首を傾げた。


「何を?」


「お前が本当に、災厄そのもののような存在なのかを」


 しばしの沈黙。

 それからリィネは、どこか困ったように笑った。


「私、いちおう邪竜って呼ばれてるんだけどなぁ……」


「あぁ、だからこそ、"君" を見定める必要がある」


「うわぁ、真面目だなぁこの人……」


 心底そう思っていそうな声だった。

 だが、笑えなかった。


 この洞窟で起きたことを、私はまだ整理しきれていない。

 王国に戻れば、英雄として祭り上げられるだろう。

 だが、私の中にはそれよりも重い疑念が残っていた。


 洞窟の出口へ向かいながら、私はもう一度振り返る。


 黒い翼。

 紅の角。

 そして、どこか気の抜けた眼差し。


 あの翼を、私は知っている気がした。

 ――だからこそ、確かめねばならない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


もし

「リィネとシグルド、ちょっと気になるな」

「続きも読んでみたいな」

と思っていただけたら、↓の評価(★★★★★)やブックマーク、感想やリアクションなどで応援していただけると嬉しいです。


皆さまからの反応は、執筆を続けるうえで大きな力になっています。

これからも楽しんでいただけるよう更新頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
怠惰なドラゴンというリィネと、それを叱りつけるようなフェンという関係性が小気味よいテンポ感があって掛け合いがよかったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ