第7章 カーミラの罠
帝体大とマジーナ王国が会談を終えた翌日。
キャンパスはお祭りのような空気に包まれていた。
「これで帝体大も正式に国際デビューだな!」
矢田がボールを蹴り上げながら声を上げる。
「スポーツ外交ってやつだ!」
「お前、意味わかって言ってんのか?」
神宮寺が呆れ顔をしつつも笑う。
避難民や学生たちは皆、安堵の色を浮かべていた。王国との関係が一歩進んだことで、未来に希望を抱けるようになったのだ。
だが、その裏で、異なる思惑を抱く者がいた。
***
森の影に潜む赤髪の女――カーミラ。
その背後には黒衣に身を包んだ部下5名。魔王軍の諜報部隊である。
「……あの肉体、あの統率。正面から叩き潰すのは容易ではない」
カーミラは口元に笑みを浮かべる。
「ならば――内側から崩すまで」
部下たちは無言で頷き、変身の術をかける。次の瞬間には、避難民の男や母親、少年の姿へと変わっていた。
***
昼下がりの食堂。
栄養学ゼミと食堂のおばちゃんが炊き出しを回し、学生と避難民が列を作っていた。
「次の方どうぞー! 一人二杯までね!」
「おーい、こっちにも配って!」
和気あいあいとした雰囲気の中、ひそやかな声が混じる。
「最近、俺たち避難民は豆ばかりだな……」
「本当だ。昨日はチア部の子がステーキ食ってたって噂だぞ」
実際には、狩りで捕ってきた肉が何者かによって盗まれ、学生も口にしていない。
だが、その囁きは避難民の間で次第に膨らみ、事実のように広まっていく。
食堂の柱の影で、カーミラはマントを羽織り、くすりと笑った。
***
その頃、剣道部の黒崎翔は武器庫へ向かっていた。
冒険者から譲り受けた剣を点検するためだ。
だが――鍵が壊されていた。中の剣は影も形もない。
「……おかしいな」
黒崎は眉をひそめる。
翌日には「避難民が帝体大の武具を盗んでいる」という噂が流れ始めていた。
「俺たちは何のために彼らを守ったんだ……」
黒崎が仲間に愚痴をこぼす背後で、窓辺に赤い瞳が揺れていた。
***
グラウンドでは、ラグビー部とアメフト部がスクラムを組み、相撲部とレスリング部がぶつかり合っていた。
その様子を見た避難民の少年がぽつりとつぶやく。
「……結局、俺たちを守るんじゃなくて、自分たちの遊びをしてるだけなんじゃないのか?」
母親が慌てて口を塞ぐ。
「しっ! 守ってもらってるんだから……!」
だがその母子もまた、カーミラの部下が変身した姿であった。
***
夜。
学生会室には重苦しい空気が漂っていた。
「避難民からの不満が急増してる。食料の配分、武具の管理、学生たちの態度……」
土屋会長は机を叩く。
「全部デタラメだ! 逆にあいつらの方が盗んでるって噂だぞ!」
小畑教授が眉間に皺を寄せる。
「怪しいな……誰かが意図的に帝体大を貶めているのではないか」
「誰かが? なんのために……?」
真田教授が低くつぶやく。
「マジーナ王国……いや、魔王軍…か?」
場の空気が凍りつく。
神宮寺は椅子を蹴って立ち上がる。
「卑怯だ……! 正面から来いよ!」
だが小畑教授は静かに言った。
「戦は正面からだけではない。心を乱し、内部から崩す……これもまた戦の一つだ。兎に角警戒しておこう。」
その時――窓の外で赤髪がふっと揺れたように見えた。
だが気づいた者はいなかった。
廊下の闇に身を溶かしながら、カーミラは笑みを深める。
「さあ、帝体大。お前たちの“団結”とやらが本物かどうか――試させてもらおう」
夜風が吹き抜け、窓がきしむ音が不気味に響いた。
帝体大に迫る脅威は、まだ始まったばかりだった。




