第6章 会談
翌朝。
帝体大の3号棟は急遽「国際会議場」と化していた。
壁に掛けられた横断幕には、でかでかと「帝体大×マジーナ王国 友好会談」と書かれている。
「……なんかゼミの発表会みたいだな」
神宮寺がぼそりと呟くと、矢田が「確かに教室だからね」と笑った。
壇上には土屋学生会長と教授陣が並び、背後には各部の部長が控える。
王国側からはリュミエラ王女を先頭に、宰相や将軍たちが姿を現した。
絢爛な衣装に身を包んだ彼らは、教室の椅子と机を見て少し戸惑っている。
「こちらへどうぞ!」
学生会の役員が元気よく案内し、宰相は苦笑いを浮かべて腰を下ろした。
会談はまず、リュミエラの口から始まった。
「帝体大――貴国は突如としてこの地に現れ、民を救い、秩序を築いた。マジーナ王国はその行いを高く評価します」
土屋学生会長が立ち上がり、深々と一礼する。
「ありがとうございます。我々もまた、この地で生き延びるために必死でした。しかし今は……お互いに協力できる道を探したいと考えています」
教授陣が順に口を開く。
小畑教授は慎重に言葉を選んだ。
「我々には兵器も魔法もない。ただ体力と知識があるだけです。それでも国と呼んでいただけるのなら、責任を果たす覚悟はあります」
真田教授は逆に前向きに微笑んだ。
「スポーツは、競い合うだけでなく、人をつなぐものです。剣と魔法の世界においても、きっと役に立つでしょう」
将軍の一人が眉をひそめた。
「スポーツ?そのような遊戯が戦に何の意味を?」
すかさず神宮寺が割って入る。
「遊戯じゃねえ。あれは俺たちにとって一番大切なことなんだ。スポーツで心技体全てを鍛えている。」
その言葉に兵士たちは互いに顔を見合わせ、否定できずに黙り込んだ。
リュミエラは微笑んで頷いた。
「確かに。あなた方の団結と技の数々は、我が国の軍にはないものです」
宰相が机を軽く叩いた。
「だが問題は、君たちと我が国でどのような同盟を結ぶかだ。」
その瞬間、学生会役員が用意した紙束が配られた。
表紙には大きく――「友好条約(案)」。
裏にはなぜかイラスト付きで「帝体大×マジーナ国 体育大会」と書かれている。
宰相は呆然と紙をめくった。
「体育大会の開催?条約に絵とは…全く意味がわからない」
「いやぁ、わかりやすい方が…っ!」
矢田が軽い口で話し出すのを、土屋が頭を押さえて止めた。
「私たちが元々いた世界では、平和のためにスポーツで競い合う祭典があります。是非この世界でも行いたい。」
リュミエラは真剣な眼差しで告げた。
「私は、この帝体大を友としたい。スポーツの祭典とやらもとても興味がある。」
将軍の一人がまだ渋い顔をしていたが、宰相は深く息を吐いた。
「……よかろう。戦争するよりは遥かに平和的な話だ。条件のすり合わせは必要だが、正式に交渉を始めよう」
会場に拍手が起き、学生たちは「やった!」と歓声を上げた。
その陰で――。
赤髪の女がひっそりと会場を覗いていた。
カーミラである。
「……同盟か。だが甘い。どれほど固く手を結ぼうとも、すべて我々が壊してやろう」
彼女は静かに笑みを浮かべ、闇の中へと消えていった。
帝体大と王国の同盟は、表向きには大きな一歩を踏み出した。
しかし同時に、魔王軍という強大な影が忍び寄りつつあった。




