第4章 宴
モンスターの群れを退けた夜。
帝体大のキャンパスには、大鍋とアルコールの匂いと笑い声が広がっていた。
食堂のおばちゃんと栄養学ゼミが中心となって作った料理が、次々とテーブルに並べられる。
焼いた肉、煮込んだ野菜、そして米の代わりに近隣の村から手に入れた穀物でつくったおにぎりもどき。
「こんな状況でも飯はちゃんと三食とる。これが帝体大の鉄則だ!」
炊き出しを仕切る土屋学生会長が声を張ると、避難民からも笑いが起きた。
広場には篝火が焚かれ、宴が始まる。
避難民も王国兵も一緒になって、木のコップに注がれた酒を回し合う。
「おまえら!!!宴を始める!!!!!リュミエラ王女にかんぱーーー!!!」
「「「「「かんぱーーーーーーい!!!!!」」」」
「乾杯…?」
リュミエラ王女がソワソワと辺りを不安そうに見回す。
「リュミエラ王女。乾杯とは杯を乾かすと書くんです。一気に飲み干す。これが帝体大の歓迎なんです。」
「おい…神宮寺…王女様に間違った文化を教えるな」
学生会長土屋が冷静にツッコミを入れるが神宮寺は聞く耳を持たずに会場のセンターに歩き出す。
「神宮寺さん!一気!一気!」
野球部が声を上げ、ラグビー部主将の神宮寺に木のジョッキを押し付けた。
「おう、見てろよ!」
ごくごくと飲み干す神宮寺。すると応援団がすかさず太鼓を鳴らし、チア部が合いの手を入れる。
「帝体大!帝体大!ゴーゴー神宮寺!」
「フレー!フレー!神宮寺ー!」
「異世界の酒も美味い!!!!」
「当たり前です。私が厳選して仕入れた酒ですから」
スポーツ経営学ゼミの田島が眼鏡を上げながら答える。
「ありがとな!!!!じゃあl田島に乾杯!!!!」
「うおぉぉおおおおお!!!」
リュミエラ王女は最初こそ呆然とその光景を見ていたが、やがて笑みを浮かべた。
「……戦場で見せた統率と同じですね。宴も戦いなのですね…」
横で護衛の騎士が首をかしげる。
「いや、あれはただの飲み会では……?」
さらに広場の真ん中では、相撲部とレスリング部がなぜか即席の腕相撲大会を始めていた。
「勝ったら肉ひと皿追加な!」
「おう、受けて立つ!」
大歓声とともに机がきしみ、避難民の子供たちまで「がんばれー!」と声を合わせる。
ダンス部とチア部は篝火の周りで即興パフォーマンスを披露し、吹奏楽部が楽器を持ち出してリズムを重ねる。
「せーの!」の掛け声とともに、全員の動きがぴたりと揃う。
それはまるで大規模な体育祭の集団演技そのものだった。
「なんだあれは……芸か?儀式か?」
王国兵たちはぽかんと口を開ける。
リュミエラは微笑んで答えた。
「いいえ……あれが彼らの“文化”なのでしょう」
避難民の老人がしみじみとつぶやく。
「あの若者たちは、なにごとにも全力だから見てて気持ちが良い。」
やがて神宮寺が立ち上がり、声を張り上げた。
「さて…そろそろ行くか!!!!」
突如、上半身は裸のマッチョの集団が登場した。
「キャッ!!」
「王女様を守れ!」
騎士が警戒する。
「ま…待たれよ。これも何かの余興なのでしょう」
ドンッ!!
太鼓の音に騎士の警戒心は更に高まる。
「姫!」
ドンッ!!!
上半身裸のマッチョ達が中央に集結する。
「エッサッサの隊形に開け!」
「オウッ!!!!」
「帝国体育大学!マジーナ王国王女リュミエラ様への歓迎の印としてエッサッサを用意!!!」
「オウッ!!!!」
「始め!!!!!」
「「「エーーー!!!サッサ!エッサッサ!!エー!!!サッサ!エッサッサ!!エー!!!サッサ!エッサッサ!!」」」
統率された動きで雄叫びが地鳴りのような声が夜空に響き渡った。
「これが俺たち帝体大名物の“魂のエッサッサ”です。」
リュミエラは思わず立ち上がった。
「す……すばらしい……!」
護衛の騎士は耳を押さえながら、涙目で言う。
「姫様……鼓膜が震えます……」
やがてエッサッサが終わると、学生も避難民も兵士も、みな笑顔で拍手を送った。
その光景を見て、真田教授は静かに呟いた。
「戦う力だけでなく、人を惹きつける力……これこそ帝体大の本当の強さかもしれんな」
リュミエラは頷いた。
「ええ……この国と共に歩むべきだと、改めて感じました」
篝火の夜は更けていく。
剣と魔法の世界に、スポーツと学生ノリがもたらした奇妙で温かい宴は、人々の心を確かに一つにしていた。




