第32章 開幕セレモニー
帝体大の野球場は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
仮設の観客席はぎっしりと人で埋め尽くされ、立ち見まで様々な種族で溢れかえっている。帝体大の学生や国民たちに加え、王国からやってきた兵士や貴族、さらに魔王軍の観客までが入り乱れていた。
旗が風にひらめき、太鼓とラッパが鳴り響き、祭りの最高潮のような雰囲気だ。
「サッカーの時も凄かったけど……今回はそれ以上だな」
神宮寺が腕を組んで呟く。
矢田はその横で胸を高鳴らせながら頷いた。
「ああ。野球がこの世界に根付き始めてる証拠だ」
宰相の合図とともに、開幕セレモニーが始まった。
篝火に照らされ、中央に三本の旗が掲げられる。
青と白の「帝体大旗」、黄金の獅子が描かれた「マジーナ王国旗」、そして黒に赤い稲妻をあしらった「魔王軍旗」。
三枚が並ぶ様は壮観で、会場は一瞬静まり返る。
「今ここに、歴史に残る大競技会の幕が開かれる!」
司会役を務める小畑教授が張り上げる声は、もはやスポーツ実況さながらだった。
「サッカーに続く第二の祭典――ワールドフェスティバル野球の部、開幕です!」
会場から大歓声が上がった。
帝体大側は「帝体大!帝体大!」の大合唱、王国側はラッパを吹き鳴らし、魔王軍の観客席からは地鳴りのような咆哮が轟いた。
いよいよ、選手入場だ。
最初に姿を現したのは――帝体大チーム。
吹奏楽部が勇ましいマーチを奏で、チア部がポンポンを振りながら先導する。応援団の太鼓に合わせて帝体大コールの掛け声が響き、選手たちが胸を張って入場してきた。
「キャプテン、狩野陣!野球部唯一の生き残りにして、このチームの大黒柱!」
小畑教授の実況が響く。
「生き残りって…他死んだわけじゃないんだけどな…」と呟きながら狩野が大きく手を振ると、スタンドから割れんばかりの歓声が上がった。
「続いて、サッカー部から参戦!矢田翔!足さばきは野球でも健在だ!」
矢田がピースサインを掲げる。
「ラグビー部主将、神宮寺篤!そのフィジカルでサードを守る!」
神宮寺が拳を突き上げた。
「相撲部の怪力、大江山剛志!捕手として本塁を死守する!」
大江山が「どすこい!」と叫び、観客から笑いと歓声が起きた。
「剣道部エース、黒崎翔!反応速度でショートを守る!」
黒崎は静かに一礼した。
「ボクシング部、村瀬拳!動体視力でレフトをカバー!」
村瀬が軽くシャドーボクシングの構えを見せる。
「サッカー部から北野!キーパーの経験を活かしてセンターを守る!」
北野が手を挙げた。
「同じくサッカー部、小宮!右サイドの翼がライトを守る!」
小宮が駆け足で入場する。
「そしてレスリング部から、鷹野勇一!低い重心でファーストを守る!」
鷹野が力強く拳を握った。
「これが帝体大チームだ!野球部は狩野ひとり、あとは全員他部活からの助っ人!まさに帝体大の総力を結集した寄せ集め軍団!」
観客席から「寄せ集め上等!」「それが帝体大だ!」と声が飛ぶ。
帝体大チームは整列し、胸を張って観客へ一礼した。
続いて、マジーナ王国チームの入場だ。
黄金の獅子の旗を先頭に、鎧を脱いだ軽装の兵士たちが堂々と行進する。
「マジーナ王国チーム!キャプテンはこの男!近衛第二隊長、レオニール・ヘスター!」
レオニールがバットを掲げると、王国兵たちが「ウォオオオ!」と一斉に咆哮した。
「そして注目は、帝体大から派遣された二人!エース投手、大賀真!最速160kmの剛腕がマジーナ王国のマウンドに立つ!」
大賀が静かに手を挙げる。帝体大の観客席から複雑な声が漏れた。
「正捕手、米倉新!冷静沈着な司令塔が大賀をリードする!」
米倉が軽く頷いた。
「さらに、第七槍隊所属、シリル!寡黙な女性騎士は、投手としての才能を開花させた!」
シリルが無言で一礼する。その佇まいに、観客席がざわめいた。
「マジーナ王国は、帝体大の指導を受けて急成長!サッカーでの雪辱を果たすべく、今大会に臨む!」
王国の観客席から「今度こそ勝つぞ!」「王国の誇りを見せろ!」と熱い声援が飛んだ。
そして最後に現れたのは――魔王軍チーム。
黒と赤の旗が翻り、会場全体がざわついた。
重厚な足音が響き、巨大な魔族たちが次々と姿を現す。
「魔王軍チーム入場!キャプテンは"血斧"ガルド!サッカーに続き、野球でも魔王軍を率いる!」
ガルドが咆哮し、会場の空気が震えた。
「"幻影"ヴァルナ!その妖艶な動きは野球でも健在か!」
ヴァルナが艶やかに手を振る。男性観客から黄色い声が上がった。
「"双牙の獣"バルゴ&バルガ!双子のコンビネーションは野球でどう発揮されるのか!」
双子が同時に吠え、その迫力に子供たちが歓声を上げた。
「そして、帝体大から派遣された二人!ショート、速水瞬!陽気なムードメーカーが魔王軍を支える!」
速水が軽く手を振った。帝体大の観客席から「裏切り者ー!」と冗談交じりの野次が飛ぶ。
「外野手、井戸川蓮!天才的なバッティングセンスを魔王軍に伝授!」
井戸川が帽子を取って一礼した。
「しかし!今大会最大の注目は――」
小畑教授の声が一段と大きくなる。
会場が静まり返った。
「魔王軍の最後尾から現れるのは……まさか……!」
重い足音。
地響きのような振動。
そして――
漆黒のマントをまとった巨躯が、ゆっくりと姿を現した。
「ま……魔王本人だァァァ!!!」
会場が爆発したような騒ぎになった。
「嘘だろ!?」
「魔王が選手として出場!?」
「本気かよ!」
魔王は悠然と歩を進め、グラウンドの中央に立った。
その紅い瞳が、ゆっくりと会場を見渡す。
「我は、この野球とやらに興味を持った」
低く、重い声が響き渡る。
「速水と井戸川に教わった。力だけでは勝てぬ競技だと。ならば、この魔王自らその深淵を見極めてやろう」
会場が静まり返る。
そして魔王は、口元に微かな笑みを浮かべた。
「楽しみにしているぞ、人間ども」
一瞬の沈黙の後、魔王軍の観客席から地鳴りのような歓声が上がった。
「魔王様万歳!」
「魔王様がホームラン打つぞ!」
「人間どもを蹴散らせ!」
帝体大の観客席からも、驚きと興奮の声が漏れた。
「やべぇ……魔王と戦うのかよ……」
「でも、燃えてきた!」
「相手が魔王だろうが、帝体大は負けねぇ!」
狩野は魔王を真っ直ぐ見つめた。
「魔王が相手か……上等だ」
神宮寺が拳を鳴らす。
「面白くなってきたじゃねぇか」
矢田が笑った。
「最高の舞台だ。最高の相手だ。これ以上の試合があるか?」
三陣営の選手がグラウンド中央に並んだ。
篝火の炎が風に揺れ、三本の旗が夜空に翻る。
小畑教授が最後の宣言を行う。
「さあ――!これより三つ巴の大競技会、ワールドフェスティバル野球の部を開幕する!」
「第1試合は、帝体大 vs 魔王軍!」
帝体大の応援団が太鼓を打ち鳴らし、チア部が声を張り上げる。
「帝体大!帝体大!帝体大!」
魔王軍の観客席からは、獣のような遠吠えが響く。
「魔王軍!魔王軍!魔王軍!」
熱気と緊張と興奮が渦を巻く中、歴史的な一戦の幕が、いま切って落とされようとしていた。




