第3章 王国との接触
帝体大に国としての意識が芽生え始めてから数日。
学生会と教授陣を中心とした会議体は、自然と「政府」のように機能しはじめた。
部活動の精鋭は「軍隊」と呼ばれるようになり、食堂は「兵站基地」、グラウンドは「訓練場」として扱われるようになった。
だが、学生たちの根っこにあるのはやはり“日常”だった。
軍隊としての戦闘訓練が終わると、柔道部は道場で乱取り稽古を続け、サッカー部は広場でボールを蹴り、野球部はネットを張ってバッティング練習をする。
それを見た避難民の子供たちが真似して走り回り、老人たちは「笑ってしまうほど頼もしい」と頬を緩めた。
「結局、俺たちってこれが一番やりたいんだよな」
矢田がボールをリフティングしながらつぶやく。
「けど、案外モンスター退治にも役に立ってるんだよな」
神宮寺がラグビーボールをくるくる回しながら答える。
「え?このリフティングが?」
矢田の発言に神宮寺が肩をすくめ、周囲から笑い声がこぼれた。
訓練と遊び、戦いと日常。
その境目は、少しずつ曖昧になっていった。
そんな折。森の奥から、馬蹄の音が響いた。
帝体大の正門に現れたのは騎馬の一団だった。胸に王国の紋章を掲げた旗が揺れる。
「王国の兵だ……!」
「今度はなんだ……?」
「戦争か?」
学生と避難民の間に緊張が走る。
先頭に立つのは若い女性。銀色の髪を持ち、淡い青の衣装をまとい、毅然と馬上に座していた。
護衛の騎士が一歩前に出る。
「こちらにおわすは、我がマジーナ王国の第二王女――リュミエラ様である!」
広場が静まり返った。避難民は頭を垂れ、学生たちも背筋を伸ばす。
リュミエラは馬を降り、真っ直ぐに帝体大の面々を見渡した。
「使者から話を聞いた通り、これは立派な国ですね。使者はあなた達は敵ではないと報告を受けました。ですが私は、まだ判断できません。あなた方が我が国の友なのか、あるいは敵なのかを」
「だから、今回は直接確かめに来ました。」
その言葉が終わらぬうちに、森の奥から低い咆哮が轟いた。
黒い影が木々をなぎ倒し、狼のようなモンスターの群れが飛び出す。
「姫様、お下がりを!」
護衛の騎士たちが盾を構えるが、数は圧倒的。列が乱れ、避難民が悲鳴をあげた。
神宮寺篤が咆哮した。
「ラグビー部、スクラム組め! 相撲部、正門を固めろ!」
大江山剛志が「どすこい!」と声を張り、巨体でモンスターを弾き飛ばす。
レスリング部が組み伏せて地面に叩きつける。
「右サイドは俺らが抑える!」
矢田率いるサッカー部が飛び出し、俊敏な足技で脚を砕いた。足には特別性の防具が付けられている。
「ナイスキックだ矢田!でも無茶すんな!」
ボクシング部が笑いながら鉄のとげが付いたグローブで拳を叩き込み突進を止める。
「前回の襲撃から俺たちも色々準備してきたんだ」
後方から矢が飛び、モンスターの肩に突き刺さる。
「アーチェリー部、射線確保!」
土屋学生会長の声に応え、次々と矢が放たれた。
陸上部の投擲選手が競技大会の様に槍を構え、「フォームチェックやめろって!」と仲間に突っ込まれながらも正確に命中させる。
だが一頭が護衛の隙をすり抜け、リュミエラに飛びかかった。
「危ない!」
真田教授の声と同時に、神宮寺が飛び込んだ。
討伐用の肩当てで体当たりを食らわせ、獣を横へ弾き飛ばす。
「怪我はないか!」
リュミエラは驚きに目を見開き、震える声で「はい」と返した。
戦況は次第に帝体大優勢に傾く。野球部のバットが鈍い音を立て、剣道部の剣が鋭く振り下ろされる。
「あの剣どうしたんだ…?」
護衛の騎士が疑問を呟く。
「この前襲われた冒険者たちから貰い受けました。少し私たち用に加工しましたが。」
剣道部のエース黒崎翔が冷静に答える。
「帝体大! 帝体大! フレ!フレ!帝体大!」
チア部が後方から声援を送る。
やがて最後の一頭が倒れ、森に静けさが戻った。
騎士たちは呆然と立ち尽くしている。
「なんという連携とパワーなんだ…」
リュミエラは一歩前に進み、学生たちを真剣な眼差しで見つめた。
「秩序を保ち、互いに声を掛け合い、人を守るために戦う……これが、あなた方なのですね」
神宮寺は泥にまみれた顔で笑った。
「俺たちはただ、仲間と場所を守っただけだ」
王女はしばし沈黙し、やがてはっきりと言った。
「私は、あなた方を敵とするつもりはありません。帝国体育大学……私個人としてはあなた方を認めざるを得ません。」
その言葉に歓声が広がり、避難民が涙ぐみながら「帝体大!」と叫んだ。
神宮寺は「私個人。」その言葉に少しだけ引っかかりを覚えていた。
しかし、王女に認められた。これは帝体大にとっては大きな成果なのは確かだ。
「よっしゃ!宴だ!宴の準備をしろ!!王女様をもてなすぞ!帝体大のもてなし方でな!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
歓喜の雄叫びがグラウンドに響き渡った。




