第29章 報告会
帝体大の会議室に、主要メンバーと野球部員たちが集まっていた。
マジーナ王国と魔王国への遠征から帰還した4人――大賀、米倉、速水、井戸川が、前に並んで立っている。
「じゃあ、報告を始めてくれ」
キャプテンの狩野が促した。
まず、大賀が口を開いた。
「マジーナ王国の状況から報告する」
大賀は腕を組みながら、少し苦笑いを浮かべた。
「正直に言う。あいつら、やばい」
「やばい?」
「成長速度が尋常じゃない。最初は野球を"訓練"として捉えてたんだが、途中から本当の楽しさに目覚めた」
米倉が続けた。
「レオニールって隊長がいるんだけど、そいつがチームを引っ張り始めてからは、もう止まらなかった。キャッチボールの精度、バッティングのフォーム、全部が日に日に良くなっていく」
「1週間でか?」
「ああ。しかも、あいつら元々が軍人だから、体力と集中力が半端じゃない。野球の楽しさを知った瞬間、その全てが野球に向かった」
部員たちがざわめく。
「そんなに強いのか……」
「強いというか……」
大賀が言葉を選んだ。
「伸びしろがえげつない」
続いて、速水と井戸川が前に出た。
「魔王国の報告をするぜ」
速水が軽く手を挙げた。
「結論から言うと、魔王国も相当やばい」
井戸川が補足する。
「魔族って、身体能力が人間より高いんだよ。投げる球は速いし、打球の飛距離もすごい。最初はルールを理解するのに時間がかかったけど、一度わかったら……」
「やっぱり、成長が早い?」
「早いなんてもんじゃねぇ」
速水が苦笑した。
「しかも、あいつらも野球を楽しみ始めてる。ガルドって奴がいるんだけど、最初は"棒きれの力を見せてみろ"とか言ってたのに、今じゃバッティング練習に夢中だ」
「あの"血斧"ガルドが?」
「ああ。目を輝かせてバット振ってたぜ」
会議室が静まり返った。
狩野が眉をひそめた。
「……お前ら、ちょっと強くしすぎたんじゃないか?」
4人は顔を見合わせた。
そして――
「「「「あはは……」」」」
全員が乾いた笑いを漏らした。
「いや、まぁ、そうかもしれない」
大賀が頭を掻いた。
「でも、あいつらが野球を楽しんでる姿を見たら、手を抜くなんてできなかった」
井戸川も頷いた。
「本気で教えたら、本気で返してきた。それだけだ」
狩野は深くため息をついた。
「……で、内部のことは調査したのか?」
4人の表情が固まった。
「内部?」
「お前ら、忘れたのか?帝体大に対しての敵視がどの程度か、戦争の危険性、軍の状況、政治的な動き……内部からしかわからない情報を見てきてほしかったんだが」
沈黙が流れた。
大賀が目を逸らした。
「……いや、その、なんというか」
米倉が続けた。
「そんな暇が……」
「なかった?」
「あいつらも野球の練習に熱心で……俺たちもつい……」
速水が頭を掻いた。
「魔王国でも同じで……練習が楽しくて……」
井戸川がバツが悪そうに付け加えた。
「気づいたら毎日野球のことしか考えてなかった……」
狩野の額に青筋が浮かんだ。
「お前ら……」
「「「「すみません!」」」」
4人が同時に頭を下げた。
部員たちから笑いが漏れる。
「まぁまぁ、キャプテン」
白石が冷静に言った。
「結果的に、両国とも野球を楽しんでるんでしょ?それって悪いことじゃないわ」
狩野は腕を組んだまま、しばらく黙っていた。
そして――
「……まぁ、いい」
4人が顔を上げた。
「野球の楽しさが、この世界に広がってるならな」
狩野の口元に、微かな笑みが浮かんだ。
「でも、次はちゃんと調査もしてこいよ」
「「「「はい!」」」」
大賀が付け加えた。
「ただ、一つだけ言わせてくれ」
「何だ?」
「俺たちも、うかうかしてられない」
大賀の目が真剣になった。
「マジーナ王国も、魔王国も、本気で強くなってる。このままいくと、帝体大が負ける可能性だってある」
会議室の空気が引き締まった。
「だから、俺たちももっと練習しないと」
速水が拳を握った。
「あいつらに負けるわけにはいかねぇ」
狩野は頷いた。
「わかった。明日から練習量を増やす」
部員たちが「おう!」と声を上げた。
報告会は終わった。
だが、帝体大の挑戦は、まだ始まったばかりだった。
マジーナ王国、魔王国、そして帝体大。
三つの勢力が、野球という競技を通じて、少しずつ近づき始めていた。




