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体育大学まるごと異世界転移 ~帝体大魂が世界を変える~  作者: はらっぱ


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第28章  真面目すぎる者たちの衝突

マジーナ王国の練習が始まってから1週間が経った。


マジーナ王国の兵士たちは、驚くべき速さで野球の基本を習得していった。

キャッチボールは正確で、バッティングのフォームも整い始めている。


だが、大賀と米倉は、ある"違和感"を感じ取っていた。


「……なぁ、気づいてるか?」

米倉が小声で大賀に囁く。


「ああ。あいつら、最初は少し楽しそうだったが、最近は全然笑わない」


訓練場では、兵士たちが黙々と練習を続けている。

声は掛け合うが、それは「指示」であり「確認」だ。

喜びや、楽しさはそこにはなかった。


「野球が"訓練"になってる」


大賀が静かに呟く。

「このままじゃ、ダメだ」


その日の午後、訓練場に緊張が走った。


レオニールが、ひとりの兵士を厳しく叱責していた。


「何をしている!今のは明らかにフォームが崩れていた!」


「すみません、隊長……」


「謝るな!もう一度やり直せ!」


兵士は黙って頷き、再び投球動作に入る。

その顔には、疲労と焦りが浮かんでいた。


米倉は眉をひそめた。


「……レオニール、ちょっといいか」


「何だ?」


「お前、ちょっと厳しすぎないか?」


レオニールの目が鋭くなった。


「厳しすぎる?俺は正しいことを指導しているだけだ」


「いや、それはわかる。でもな――」


米倉が言いかけたとき、別の場所でも声が上がった。


「違う!今の出るのが早すぎる!もっと見極めてからボールを追え!」


ひとりのベテラン兵士が、若い兵士を叱りつけている。


「ですが、先ほどはフライが上がったらすぐ走れと……」


「毎回同じではない!臨機応変に対応しろ!」


「わかりません……どうすれば……」


若い兵士の声が震えていた。


さらに別の場所では――


「シリル、お前の投球は正確さを求めすぎている!もっと力を込めろ!」


「いや、力だけでは制球が乱れる!正確さが必要だ!」


兵士たちが口論を始めていた。


訓練場は、次第に険悪な雰囲気に包まれていく。


大賀は静かに立ち上がった。


「……お前ら一旦練習やめろ」


その声は低いが、確かに響いた。


兵士たちが一斉に大賀を見る。


「何だ、帝体大の?」

ベテラン兵士が不機嫌そうに言う。


「お前たち、何のために野球をやってる?」


「……勝つためだ」

レオニールが即答した。


「そうだ。だから正しく、強く、完璧に――」


「違う」


大賀はレオニールの言葉を遮った。


「お前たちは"正しさ"を追い求めてる。でも、野球に絶対的な正解なんてない」


「何を言っている。理論があるだろう。フォームがあるだろう」


「ある。でも、それは"手段"だ。目的じゃない」


大賀は訓練場を見回した。


「お前たちを見てると、誰も楽しそうじゃない。それで本当に強くなれると思うか?」


レオニールの拳が震えた。


「……楽しむことが、そんなに重要なのか?」


「重要だ。真剣に楽しむ。それが勝利を掴む一番のポイントだ」

米倉が答えた。


「俺たちだって、帝体大だって、最初はバラバラだった。でも、野球を楽しんだ。一緒にボールを追いかけて、失敗して、支え合って、そうやって強くなった」


「それは……」

レオニールが言葉を詰まらせる。


「それは、お前たちだからできたことだ。俺たちは軍人だ。規律と秩序が全てだ」


「なら、お前たちに野球の面白さを感じてもらう」

大賀が静かに言った。


「本当の野球の面白さを」


大賀は兵士たちを集めた。


「今から、練習試合をする」


「練習試合?」

兵士たちがざわめく。


「そうだ。レオニールたちのチームと、シリルたちのチーム。二つに分かれて、実際に試合をする」


「だが、まだルールも――」


「いい。わからないことは、その場で教える。まずは野球自体を体験しれもらうことが目的だ」


大賀は有無を言わさぬ口調で続けた。


「ただし、一つだけ条件がある」


「条件?」


「全力で楽しめ」


兵士たちは戸惑いの表情を浮かべた。


だが――


レオニールが一歩前に出た。


「……わかった。やろう」


シリルも静かに頷いた。


ダイヤモンドが描かれ、帝体大から持ってきたベースを置き、試合が始まった。


最初は硬い空気が漂っていた。

みんな、"正しく"プレーしようと必死だった。


だが――


「あ、ボールが逸れた!」


「待て、俺が取る!」


エラーが出た瞬間、仲間がカバーに走る。


「ナイスカバー!」


「助かった!」


自然と、声が飛び交い始めた。


そして――


「打った!走れ!」


「おお、速い!」


「セーフだ!」


兵士たちが笑い始めた。


レオニールがヒットを打ち、一塁に駆け込んだとき――


「よくやった、隊長!」


「ナイスバッティング!」


仲間たちが称賛の声を上げた。


レオニールは、初めて笑った。


「……なるほど、これが楽しむということか」


シリルも、三振を取る度にピッチャーマウンドで静かに微笑んでいた。


米倉は大賀に囁いた。


「……やっと、笑ったな」


「ああ。ようやく、野球になった」


試合は続いた。


エラーをしたら誰かがカバーに入る。

失敗しても、責めるのではなく、励まし合う。

成功したら、一緒に喜ぶ。


それは、もう"訓練"ではなく"野球"だった。


試合が終わると、兵士たちは汗だくで、しかし笑顔だった。


レオニールが大賀の前に立った。


「……すまなかった」


「何が?」


「俺は、正しさばかりを追い求めていた。でも、本当に大事なのは――」


レオニールは仲間たちを見た。


「一緒に戦うことの、楽しさだった」


大賀は静かに頷いた。


「野球は、ひとりじゃできない。仲間がいて、初めて成り立つ」


「……わかった。これから、もっと学ばせてくれ」


シリルも静かに頭を下げた。


「ありがとう、ございます」


米倉は笑って手を挙げた。


「よし、じゃあ明日からも頼むぜ。今度はもっと楽しくやろう」


兵士たちが「おう!」と声を上げた。


訓練場に、初めて心からの笑い声が響いた。


夕日が王国を照らす中、マジーナ王国の兵士たちは、ようやく、野球の本当の面白さを知り始めていた。

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