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体育大学まるごと異世界転移 ~帝体大魂が世界を変える~  作者: はらっぱ


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第27章 魔王の練習参加と一波乱

翌朝、闘技場に速水と井戸川が姿を現すと、すでに魔族たちが集まっていた。


昨日とは明らかに空気が違う。

誰もが目を輝かせ、バットやボールを手にしている。


「おお、来たか人間!」

ガルドが豪快に手を挙げた。


「昨日の続きをやらせろ!」


「おう、やる気満々だな」

速水が笑って応える。


バルゴとバルガも駆け寄ってくる。


「俺たち、昨日ずっと素振りしてたんだぜ!」

「見てくれよ、このフォーム!」


双子が揃ってスイングを見せると、確かに昨日より格段に良くなっていた。


「おお、いい感じじゃん」

井戸川が頷く。


「じゃあ今日は、守備練習をやるか」


「守備?」

ヴァルナが首を傾げる。


「そうだ。野球は攻めるだけじゃない。攻守が入れ替わる野球は守りができなければ勝負には勝てないからな」


速水がグローブを取り出すと、魔族たちが一斉に集まってくる。


「まずはキャッチボールだ」


「キャッチボール?」


「まず、投げる側と受ける側に分かれる。投げる側は正確に、受ける側は確実に捕る。これが野球の基本だ」


ガルドがグローブを手に取った。


「これを手にはめるのか?」


「そうだ。魔族用に特注品作ってもらったから、それぞれサイズが合うグローブをはめてくれ」


「ふん、魔族なら素手でも――」


「やめとけ。結構痛いぞ」

井戸川が即座に止める。


「槍に比べたらこんなもの…」


「痛いぞ、マジで」


ガルドは渋々グローブをはめた。


「じゃあ、俺が投げるから受けてみろ」


速水が軽く投げる。

ボールはゆっくりとした放物線を描いて、ガルドへ向かった。


ガルドは両手で受け止めようとして――


ボールはグローブを弾き、地面に転がった。


「……!」


周囲の魔族たちが息を呑む。


だが速水は笑った。


「いいじゃん。最初はそんなもんだ」


「……もう一度だ」


ガルドの目に、火が灯った。


それから数時間、魔族たちはひたすらキャッチボールを繰り返した。


最初は誰もまともに捕れなかったが、次第にパシン、パシンと小気味いい音が響き始める。


「おお、捕れた!」

「今のいい音だったぞ!」

「投げるのも上手くなってきたな!」

「へへ。なかなか楽しいな」


闘技場は、魔族領とは思えないような喜びの声で溢れていた。


井戸川はその様子を見て、速水に言った。


「……なんか、帝体大の練習風景みたいだな」


「だな。楽しそうで何よりだ」


そのとき、闘技場の入口に影が現れた。


魔族たちが一斉に静まり返る。


ゆっくりとした足音。

圧倒的な威圧感。


そして――


「……何をしている」


低く、重い声が響いた。


速水と井戸川は振り返る。


そこに立っていたのは――魔王だった。


漆黒のマントをまとい、長大な角を生やした巨躯。

その瞳は紅く燃え、一歩踏み出すだけで空気が震える。


「ま、魔王様……!」

ガルドが慌てて跪く。


他の魔族たちも一斉に頭を下げた。


だが速水と井戸川は、立ったまま魔王を真っ直ぐ見ていた。


「……頭が高いな。人間」


魔王の声が、二人を押し潰すように響く。


「悪いけど、俺たち帝体大の人間だから」

速水が肩をすくめた。


「跪くのは、試合で負けた時だけだ」


「……ほう」


魔王の目が細まる。


だが、殺気は感じない。

むしろ――興味、とでも言うべきものが滲んでいた。


「貴様らが、野球とやらを教えている者か」


「帝体大硬式野球部、速水瞬」


「外野手の井戸川蓮。よろしく」


魔王は無言で二人を見下ろした。


やがて、口を開く。


「……見せよ。その野球とやらを」


闘技場が一瞬で静まり返った。


魔族たちが驚愕の表情で魔王を見つめる。


「ま、魔王様が……野球を?」

「信じられん……」

「いや、でも魔王様なら野球すらも完璧に……」


速水と井戸川は顔を見合わせた。


「……マジで?」


「マジだ」


魔王は一歩前に出た。


「カーミラから聞いた。この競技は、力だけでは勝てぬと。ならば俺も、その意味を知りたい」


速水は一瞬考え、やがてニヤリと笑った。


「……面白ぇ。いいぜ、やろう」


井戸川がバットを魔王に渡した。


「じゃあ、まずは打ってみてくれ」


魔王はバットを片手で持つ。

その手には、圧倒的な力が宿っていた。


「……これで、球を打つのか」


「そう。俺が投げるから、思い切り振ってみてくれ」


速水が構える。

魔王もバットを構えた――が、その握り方は明らかにおかしい。


「待った」

井戸川が手を挙げた。


「握り方が違う。魔王だろうが何だろうが、基本は基本だ」


「……」


魔王は一瞬、不快そうな顔をした。


だが――


「……教えよ」


その一言に、魔族たちが再び驚愕する。


「魔王様が……教えを請うた……!」


井戸川は魔王の手を取り、握り方を直した。


「こうだ。強く握りすぎるな。力を抜け」


「……力を、抜く?」


「そう。力を抜くことで、一番ベストなタイミングで力が最大限に伝わるんだ」


魔王は黙って頷いた。


そして、再び構える。


速水が投げた。


魔王がスイング――


カァァァン!!!


轟音が闘技場を揺らした。


ボールは信じられない速度で飛び、黒鉄の壁に激突して大きな穴を開けた。


「……!」


魔族たちが絶句する。


速水も井戸川も、呆然と立ち尽くした。


「……やべぇ」


「……規格外だ」


魔王はバットを下ろし、静かに言った。


「……これが、野球か」


その目には、確かな光があった。


「面白い」


それから、魔王も交えた練習が続いた。


最初は緊張していた魔族たちも、次第に魔王と共に笑い、汗を流すようになった。


「魔王様、今のナイスキャッチです!さすがでございます!」

「もう一球頼む」

「魔王様も楽しんでおられる……!」


魔王は無表情のままだったが、その体からは確かに"楽しんでいる"空気が漂っていた。


井戸川は速水に囁いた。


「……なんか、とんでもないことになってきたな」


「だな。でも、悪くない」


速水も笑って答えた。


夕暮れ、練習が終わると、魔王は二人の前に立った。


「……礼を言う」


「え?」

速水が目を丸くする。


「俺は、力こそが全てだと思っていた。だが――」


魔王は空を見上げた。


「野球は違う。力だけではない。技術、そして――楽しむこと。それが必要だ。それに、皆がこんなにも活き活きしているところは初めて見た」


井戸川が帽子を取った。


「……魔王、案外いいやつじゃん」


「……ふん」


魔王は背を向けた。


「明日も頼む。俺も、もっと学びたい」


その背中は、どこか少年のようだった。


速水と井戸川は顔を見合わせ、笑った。


「よし。じゃあ、明日も頼むぜ」


闘技場に、夕日が差し込む。

その景色は、初日よりも明るさが増しているように見えた。

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