第24章 派遣メンバー
帝体大の会議室には、まだ朝の冷たい空気が残っていた。
狩野は腕を組んだまま口を開かなかった。横では白石がタブレット越しに資料を確認し、淡々とした声で言う。
「派遣するのは四人。マジーナ王国へ二人、魔王軍へ二人。それで決めるわ。」
静寂の中、野球部5人の視線が集まる。
「帝体大に残るのは?」と矢田が問うと、狩野はようやく顔を上げた。
「俺と白石だ。大会全体の調整役は必要だし、お前たちを鍛えなければならないからな」
「他の野球部はどうしたんだ?」
「すまん神宮寺。あいつら異世界来てから異世界ライフを堪能したいとか言って、ここから去っていったんだ」
「野球部のメンバーもか…」
帝体大の学生の中には、帝体大を出て自由に冒険をしたり、ハンターとして生活している者もいる。
その異世界謳歌組と言われる面々も、たまにふらっと帰ってきて、情報の共有などをしてくれているので、
無碍にはできない存在である。
白石も静かに頷く。「謳歌組の情報だと、最近魔物がかなり活性してるらしいの。魔王が動く所為なんじゃないかって」
「それなら、尚更気合いを入れないとな」
大賀が手を挙げた。「行く先は……どう決める?」
狩野は迷いなく、二枚の紙を机に置いた。
一枚はマジーナ王国の紋章。もう一枚は魔王軍の黒い紋章。
「大賀、新。お前らはマジーナ王国だ。真面目だからな。」
米倉は小さく肩をすくめる。「真面目だからマジーナ?まさかダジャレで決めたんじゃないだろうな」
「違うわ。規律を重んじてるマジーナ軍に肌が合うだろうってことよ」白石が即答した。
そしてもう一方の紙に視線を向ける。
「速水、井戸川。お前らは魔王軍だ。」
「……マジかよ。」速水が乾いた声を漏らす。
井戸川は苦笑しながら帽子を深くかぶった。「死なない程度に頑張るよ。帰ってきたら、なんか奢ってくれよな。」
狩野は目を細めた。
「いいか、ただ、教えに行くんじゃない。野球の精神を伝えてやれ」
その言葉に、全員の表情が引き締まる。
出発の朝、妙な緊張感が正門に拡がっていた。
馬車の荷台には木箱がいくつか積まれている。中身はバットとボールとグローブ。見慣れたものばかりだ。
それを見て、速水は少しだけ笑った。
「まさか、これ持って魔王の国に行く日が来るとはな」
「行ってくる。」
大賀が短く言うと、狩野はただ拳をコツンと合わせた。
「しっかりやれ。」
「魔王とよろしくやってくるわ」井戸川は軽口を叩くが、手は少し震えていた。
速水がふと空を見上げる。「……あっちの空も、青いのかな。」
「空は繋がってるわ」白石が淡々と返す。
馬車がゆっくりと動き始める。
誰も大声は出さない。ただ、誰も目を逸らさない。
徐々に小さくなっていく四人の背中に、狩野が低く呟いた。
「頼んだぞ」
風が吹き抜け、まだ湿った朝の土の匂いが立ちのぼった。
帝体大の次なる挑戦は、静かに――しかし確かに、動き出していた。




