第23章 黒き招待状と野球部
帝体大の会議室には、異様な緊張が漂っていた。
机の上には、黒い蝋で封じられた封筒が一通。
封印に刻まれた紋章――王冠に二本の角。
それは、魔王軍の紋章だった。
土屋学生会長が封を切り、羊皮紙を取り出す。
真紅のインクで書かれた筆跡が、どこか燃えるように光っている。
「帝国体育大学よ。次なる競技――“ワールドフェスティバル”において、我が魔王自ら参戦する。
貴様らが競技を選べ。ただし、退屈な勝負であれば……その国ごと灰にする。」
読み終えた瞬間、部屋の温度が数度下がった気がした。
ざわめきが広がる。
「……魔王本人が出るってマジかよ」
「競技を選べって……どうすりゃいいんだ」
「剣とか格闘とかになったら、勝てる気がしねぇぞ……」
沈黙が支配しかけたそのとき――
ガラッ!とドアが豪快に開かれた。
「おいおいおいおい、なに暗ぇ顔してんだよ!!」
現れたのは帝体大硬式野球部の主将、狩野陣。
日に焼けた肌、ユニフォームの袖をまくり上げ、白い歯を見せて笑っている。
その背後から、屈強な男たちがぞろぞろと現れた。
「お前ら、サッカーばっか盛り上がってんじゃねえよ。
今度は――俺たちの番だ!!」
会議室が一瞬静まり返る。
土屋が呆れたように言う。
「……狩野、今それどころじゃない。魔王が――」
「だからこそだろ!」
狩野が机をどん、と叩いた。
「魔王?上等だ。次は野球で勝負だ!!!」
その勢いに呑まれた全員が、目を丸くする。
「……や、野球……?」
狩野は不敵に笑う。
「サッカーで世界を熱くしたなら、次は野球で世界を繋ぐ番だ!」
彼の背後で、5人の仲間が名乗りを上げた。
大賀真
エース投手。最速160kmの剛腕。理論派で真面目、狩野とは対照的。
米倉新
捕手。冷静沈着な司令塔。狩野とは犬猿の仲だが信頼は厚い。
速水瞬
ショート。陽気でムードメーカー。身体能力は帝体大随一。
井戸川蓮
外野手。チャラくて軽口ばかり叩くが、バッティングセンスは天才的。
白石美桜
マネージャー兼データ分析担当。
冷静で毒舌。選手たちを影で支える参謀役。
狩野は腕を組み、堂々と宣言する。
「お前らだけだいい顔してんじゃねーぞ。
今度は俺たちが見せてやる“スポーツの底力”ってやつを!」
教授たちは顔を見合わせ、やがて真田教授が口を開いた。
「確かに……野球は日本の文化でもある…今回の大会にピッタリかもしれん」
矢田が笑いながら頷く。
「いいね。異世界野球、面白そうじゃん!」
神宮寺は腕を組み、ぼそっと呟く。
「……ま、誰も野球知らねぇんだろ。教えんのが大変そうだな。」
そこで静かに口を開いたのが、マネージャーの白石だった。
「それなら、交流制度を作ればいいんじゃない?
帝体大から選手を派遣して、各国にルールと技術を教える。
ついでに情報収集もできるし、一石二鳥。」
その提案に、真田教授が目を見開く。
「……なるほど。“スポーツ外交”か。」
狩野がニヤリと笑う。
「面白ぇ。俺らが教師ってわけか。」
「“教師”ってより、コーチね。」白石が冷ややかに返す。
矢田が机を叩き、勢いよく立ち上がった。
「よし決まりだ!次の競技は――野球だ!」
「うおおおおおおおおお!!!!」
会議室が歓声に包まれた。
窓の外では夕焼けがグラウンドを照らし、金色の芝生が風に揺れる。
その夜、野球部は早速グラウンドに集まり、練習を再開した。
カキーン!という金属音が夜空を切り裂く。
白球が月明かりを弧を描いて飛んでいった。
狩野が笑いながら呟く。
「剣も魔法もいらねぇ。
バットとボールだけで、世界を震わせてやる。」
白石はノートにペンを走らせながら、静かに微笑んだ。
「野球が、異世界の共通言語になるかもしれないわね。」
その日は帝体大の夜空に、野球部たちの声がいつまでも響き渡っていた。




