第22章 魔王への報告
黒き城――。
その玉座の間は、静寂と冷気に満ちていた。
重々しい扉が開く音が響く。
篝火の炎が揺れ、長い影が伸びる。
跪いたのは、魔王軍の幹部たち。
血斧ガルド、幻影ヴァルナ、双牙のバルゴ&バルガ。
そして、その背後に控える数十の将たち。
全員の表情が硬い。
「……報告を、致します。」
ガルドが深く頭を垂れた。
「第1回ワールドカップ――我ら魔王軍は、帝国体育大学に敗北しました。」
玉座の奥、闇に沈む王の姿が微動だにしない。
低く、地を這うような声が響く。
「……敗北、だと?」
その一言に、城全体が震えた。
天井のシャンデリアがかすかに鳴り、
バルガの尻尾が無意識に震える。
「い、いかなる理由があろうと、敗北は敗北。貴様ら――」
轟音。
玉座の前に炎が立ち上がる。
その中から、漆黒の鎧をまとった魔王が姿を現した。
赤い瞳が、凍るような怒気を宿している。
「人間どもに、負けたと申すか?」
「……はい。」
「剣も、魔法も使わずに、球を蹴り合って?」
「……はい。」
沈黙。
空気が張り詰め、誰も息を吸えない。
「――愚か者ども!!!」
魔王の咆哮が響き渡った。
床がひび割れ、石柱が崩れる。
ガルドもヴァルナも立ち上がれず、頭を地に押しつけた。
「我らの軍勢を率い、戦いを遊戯に変えるとは……恥を知れ!」
「……申し訳ありません!」
しかしそのとき、静かにヴァルナが口を開いた。
「魔王陛下。……それでも、我々はあの戦いを悔いてはおりません。」
「何?」
ヴァルナの瞳はまっすぐに魔王を見ていた。
「剣も血も使わず、ただ体と心でぶつかる戦い――。
あれほど熱く、あれほど清々しい“戦”を、我は知らなかった。」
双子のバルゴとバルガも拳を握る。
「俺たちは確かに負けた。けど、心が燃えたんだ。」
「戦って、笑って、立ち上がって。……あんな戦い方、初めてだった!」
ガルドがゆっくりと顔を上げる。
「陛下。もしこれが“愚かな遊戯”なら……俺は、もう一度その愚かさに賭けたい。」
魔王の紅い瞳が細められた。
一瞬、怒気が揺らぐ。
「……貴様ら、どうかしておる。」
その声は低く、だが先ほどのような怒りは薄れていた。
「だが……その“熱”――確かに感じた。」
魔王はゆっくりと玉座を降り、巨体を立ち上げた。
「人間どもが創った“スポーツ”とやら。
我が魔族の誇りを揺るがすほどのものか……。」
ヴァルナが静かに頷く。
「ええ。あの炎は、戦場の血煙とは違う。魂を燃やす光でした。」
「……ふん。」
魔王は背を向け、窓の外に広がる夜空を見上げた。
遠く、帝体大の街の方角に、まだ篝火の光が見える。
「ならば――我が自ら確かめてやろう。」
その場にいた全員が息を呑んだ。
「次の大会、“ワールドフェスティバル”とやら――」
魔王は振り返り、口元に微かな笑みを浮かべる。
「魔王軍は、再び参戦する。
そして今度は、この“魔王”が自ら出場する!!!」
「「「な……なにぃぃぃぃ!!!」」」
玉座の間にどよめきが走る。
バルゴとバルガは目を輝かせ、ヴァルナは口元を押さえて笑い、
ガルドは拳を握りしめた。
「陛下……!」
「スポーツとやら、我がこの手で掴み取ってやる。」
魔王はマントを翻し、漆黒の炎をまとって玉座へ戻った。
その足跡が、まるで新たな戦の道を刻むように響く。
「準備せよ。次こそ我らの番だ。」
赤い瞳が煌めいた。
その光には、怒りでも憎しみでもない――
純粋な“闘志”が宿っていた。
***
こうして、帝体大との戦いを経て、
魔王軍に“新たな炎”が芽生えた。
それは、戦いではなく――競い合うための炎。
剣と魔法の世界に、再びスポーツの嵐が吹き荒れようとしていた。




