第21章 勝者と敗者の宴
ワールドカップの熱狂が去った帝体大グラウンドには、夜風が吹いていた。
篝火の残り火が揺れ、焦げた芝の匂いがかすかに漂う。
勝利の余韻を胸に、学生たちはまだグラウンドに立ち尽くしていた。
その前に、ゆっくりと魔王軍のキャプテン・血斧ガルドが歩み出た。
巨体の影が揺れる。
彼の背後には、双牙バルゴ&バルガ、幻影ヴァルナ――魔王軍の猛者たち。
その表情には怒りも憎しみもない。ただ、戦いを終えた者の静かな光があった。
「……人間ども。」
低い声が響く。
「お前たちは、俺たち敗者に――何を望む?」
会場が静まり返る。
宰相も、王国の兵も、学生も息を呑んだ。
矢田が一歩前へ出る。
その顔には笑み。
「そうだな……」
一拍置いて、拳を高く掲げた。
「とりあえず――宴だ!!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
グラウンドが割れんばかりの歓声に包まれた。
王国兵が笑い、教授陣が顔を見合わせ、魔族たちが一瞬ぽかんとする。
「……宴、だと?」
ガルドが唸る。
「ああ、そうだ!勝っても負けても、やることは決まってる!」
矢田が胸を叩く。
「うまい飯と音楽と笑い!一緒に戦った相手が隣にいる、それでいいじゃねぇか!」
神宮寺が頷いた。
「俺たちは敵じゃない。今日から、同じスポーツの仲間だ。」
***
数時間後――
帝体大の広場は、再び光と笑いで満ちていた。
鉄板の上で肉が焼け、甘いソースの匂いが風に乗る。
炊き出しの大鍋では王国の料理人がスープをかき回し、
その隣で魔族の料理人が巨大な骨付き肉を振る舞っている。
「うおっ、この肉うめぇな!」
「ふん、我ら魔族の狩りの獲物だ。人間の舌に合うとは思わなんだ。」
「何言ってんだ、帝体大コロッケだって負けてねぇぞ!」
「こっちは肉汁で手がベタベタだぁ!」
グラウンドの中央では、応援団と魔族の太鼓隊がリズムを刻み、
チア部とヴァルナが即興のダンスバトルを繰り広げていた。
「おい、動きキレすぎだろ魔族!」
「あなたたちこそ、体幹がいいわねぇ!」
王国の将軍アレクサンドロスはジョッキを掲げ、神宮寺の肩を叩いた。
「今回はお前たちの勝利だ。だが……次は負けんぞ!」
「上等だ!今度はラグビーでもやるか?」
「ふはは!なんだか知らんが面白そうだな!」
そこへ、ガルドがゆっくりと現れる。
彼の巨大な手には、帝体大のジョッキが二つ。
ひとつを矢田に差し出した。
「……本当に、何も望まぬのか?」
その目には、まだ戦士の光があった。
矢田は笑い、ジョッキを受け取った。
「そうだな……」
泡が弾け、夜空へ消える。
「強いて言うなら――またやろうぜ。」
「……やる?」
「マジーナ王国と、魔王軍と、俺たち帝体大で!ワールドフェスティバル開催だ!!!」
矢田が拳を突き上げた。
「おぉぉ!!!次は、もっと派手にいくぞ!!!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
ガルドが噴き出すように笑い、
ヴァルナが微笑み、双子のバルゴ&バルガが尻尾を振る。
「お前たち……本当に変な連中だな。」
「そうか?」矢田が笑う。
「でも、これが帝体大だ!」
***
夜空に、無数の花火が打ち上がった。
赤、青、金――三つの旗の色が、光の軌跡となって交わる。
人間も、王国兵も、魔族も肩を組み、笑いながら歌をうたう。
「帝体大!帝体大!」「ワールドカップ!ワールドカップ!」
その輪の中心で、矢田が空を見上げて呟いた。
「戦いじゃなくて、正々堂々と競い合う世界。……それでいいんだ。」
神宮寺が隣で言った。
「ああ。スポーツってのは、勝敗だけじゃねぇ。お互い高め合い、認め合う“心”だ。」
篝火が燃え、笑い声が響く。
剣と魔法の世界で、人々が初めて“競い合う喜び”を知った夜。
こうして、帝国体育大学による――
異世界初の“スポーツの祭典”は、
笑いと友情の中で幕を閉じた。




