第2章 学園は国家となる
モンスターとの初陣から数日。
帝国体育大学――帝体大のキャンパスには、周辺のモンスターから襲われた町や村から逃げてきた人々が少しずつ集まり始めていた。
「ここにいれば安心だ」
「奴らは魔物を素手で倒すんだろう?」
森の奥から追われてきた農民、家を失った子ども、戦いで傷ついた冒険者たち。
彼らにとって帝体大は、鉄壁の城にも等しい存在に見えた。
広大なグラウンドは一夜にして避難民のテントで埋まり、食堂は炊き出しの場となった。
教授や学生たちは混乱の中で声を掛け合い、自然と役割を分担していった。
「とりあえず避難民の整理は学生会が中心に頼む」
「栄養学のゼミ、学食のおばちゃん達は食料管理をお願い!」
「トレーナーチームを中心に応急処置の班をつくれ!」
「各部活から戦闘員、採集、狩猟の人員を出して!」
「登山部を中心に拠点作りを頼む!」
「学生会、教授、各部の部長は準備ができ次第、会議をするから3号棟103号室に集合してくれ」
まるで大規模な体育祭の準備のように、帝体大は統率を取り戻していく。
学生会と教授陣、部長の会議
臨時で設けられた“帝体大対策会議”には、教授陣と学生会、部活の幹部が集まっていた。
教室の机を囲み、窓の外には見知らぬ大地が広がっている。
「現状、我々は完全に孤立している。周囲は森と荒野、ここがどういう世界で、どこの国の領土なのかすら不明だ」
と小畑教授が神妙な面持ちで話を始める。
「今は自分たちの安全確保が最優先だ。」
「だが、現地の人々が避難してきているのも事実です。見捨てるわけにはいかないでしょう」
スポーツ科学部長の真田教授が冷静に言葉を続けた。
「言葉が通じるのが幸いだが…」
「避難民が言うには近年稀に見るモンスターの数らしいですよ」
「異世界かぁ…ちょっとワクワクするな」
サッカー部部長の矢田が嬉しそうに発言する。
「口を慎め。矢田」
学生会会長の土屋だ。
矢田が立ち上がり話を続けた。
「異世界に突如現れたデカい要塞。それに集まる避難民。彼らから見たらここはひとつの国だ。」
「何だって?」と誰かが息を呑む。
「学生と教授だけの共同体じゃない。避難民を受け入れ、守り、養っている以上、これはもう一つの組織。この世界にとっては国なんだよ」
その言葉に場が静まり返った。
だが誰も否定はしなかった。
帝体大=国家としての始まり
こうして帝体大は自然発生的に“学園国家”として歩み始めた。
教授陣、学生会の幹部を中心とした政府政府組織
各部活動の精鋭たちによる軍隊
幅広い知識を有している栄養学のエキスパートたちによる食糧管理部隊
グラウンドは今や訓練場兼迎撃拠点となっている。
全てが、戦いと生活を支える機能に変わっていく。
相撲部とレスリング部は門番としてキャンパスの出入り口を守り、陸上部は持ち前の体力と素早さを活かして森のパトロールに出る。
登山部やキャンプサークル、野草研究会等のアウトドア部隊が森での採集、軍隊がモンスターの狩猟を行い肉や素材の確保を行う。
大学内に栄養学の一環として設けられていた畑を利用して、本格的な農業も始めた。
スポーツ経営学の教授を中心に、近隣の街との外交手段を模索する。
吹奏楽部や応援団は避難民に演奏を届け、不安を和らげる。
帝体大は、もはや“大学”という枠を越えて、人々を守る都市国家の姿を帯び始めていた。
避難民の視点
「すげえ……」
農民の少年が、竹刀を振るう剣道部を見つめる。
「木の棒で魔物を倒しちゃうんだ……」
「チアのお姉ちゃん、笑ってるだけで元気出るよな!」
炊き出しの列に並ぶ老人たちは、鼻を伸ばしながら彼女たちを眺める。
避難民たちの目には、帝体大の活動が魔法にも等しい“奇跡”に映っていた。
だが学生たちにとっては、それは日常の延長線にすぎなかった。
ある日、森を抜けて騎馬の一団が現れた。
胸に王国の紋章を掲げる旗。マジーナ王国の使者だった。
「突如現れたこの国を私たちはまだ見定めることはできていない。貴公ら敵かそれを確かめに来た!!」
広場に集まった学生と避難民の前で、使者は高らかに告げた。
静寂。
そして、ラグビー部主将の神宮寺篤が一歩前に出た。
「俺たちは自分たちの意思でここに居るわけじゃない。俺たちから戦いを仕掛けることはない。だが、攻撃されたら反撃する。それだけだ。」
彼の声に呼応するように、各部活動のリーダーたちが立ち上がる。
帝体大の名を背負い、“一つの国家”として初めて世界と向き合う瞬間だった。




