第19章 帝体大 vs 魔王軍 ― 前半戦
試合開始の笛が鳴った瞬間、空気が爆ぜた。
歓声、怒号、呻き声、様々な音がグラウンドに響き渡る。
帝体大と魔王軍の真っ向勝負が今、幕を開ける。
グラウンド中央、矢田のキックオフ。
軽やかに転がったボールを黒崎が受け、サイドへ流す。
観客席からは帝体大の応援団の声が響いた。
「いけーっ!帝体大ーっ!」
「スポーツの力、見せてやれーっ!」
しかし、その熱狂はすぐに押し潰される。
魔王軍の前線が速すぎた。
「来るぞッ!」
神宮寺が叫ぶより早く、双子の獣人バルゴとバルガが矢のように突進。
二人の動きは一切の無駄がない。
黒崎がパスを出そうとした瞬間、ボールが風を切って消えた。
「……え?」
気づけばボールはすでにバルガの足元にあり、帝体大の守備陣が混乱していた。
矢田が急いで戻る。
「戻れ!中を締めろ!」
だが双子は縦横無尽に駆け、まるで二つの嵐が交差しているかのようだった。
一人をマークすれば、もう一人が死角から刺す。
二人が連動するたび、空気が裂ける音がする。
「くっ……速すぎる!」
黒崎がスライディングで止めに入るが、まるで読まれていたかのように軽くかわされた。
ガルドが中央で待ち構え、不敵な笑みを浮かべる。
「終わりだァ!!!」
ドゴォッ!!
ボールが砲弾のように飛び、ゴールネットが大きく膨らんだ。
観客席から轟音のような咆哮。
「魔王軍先制ィィィ!!!」
実況席の学生が叫ぶ。
帝体大サイドの応援団は一瞬、声を失った。
「大丈夫、焦るな」
神宮寺がチームを鼓舞する。
「作戦通り、まず双子の連携を崩すんだ!」
だが次の瞬間また同じ形で崩された。
「やばい!また抜かれた!」
「視界を切る角度が甘い!囮のタイミングずれてる!」
魔王軍の動きはすでに帝体大の戦術を“学習”していた。
双子はマークを逆利用し、まるで獲物を誘うように動線を操ってくる。
「まさか……奴ら、俺たちの戦略を読んでやがる!」
矢田の額から汗が滴る。
「面白ぇじゃねえか、人間!」
ガルドが笑いながら突っ込む。
「スポーツがお前らの誇り?……なら、このフィールドで叩き潰してやる」
巨体がぶつかり、神宮寺が吹き飛ばされる。
地面に倒れながらも彼は笑った。
「スポーツマンシップ…これは俺たちの武器なんだよ…」
だがボールはまた奪われ、スコアは0対2。
***
前半残り10分。
帝体大は息を切らせながらもボールをつなぎ続けていた。
それでも、パスの一本一本が命懸けのように重い。
黒崎が矢田へパスを出す。
「矢田、前へ!」
「任せろ!」
だが、その瞬間――背後からヴァルナの声がした。
「見えてるわ」
赤髪の魔族がまるで影のように現れ、軽く足先でボールを奪い取った。
「スピードがあれば良いって訳じゃないのよ」
「ちっ……!」矢田が歯を食いしばる。
魔王軍のボール支配率は、もはや7割を超えていた。
観客席では帝体大の応援が次第に小さくなり、重い空気が漂う。
***
ハーフタイム。
スコアは――帝体大 0 - 3 魔王軍。
ロッカールームでは誰も口を開かない。
汗と土の匂い、息遣いだけが響く。
矢田がタオルで顔を拭い、静かに言った。
「……なあ、神宮寺。やっぱ、通用しねぇのかな」
神宮寺は少し考え、笑った。
「通用するさ。ただ、今の俺たちは戦いを避けてる」
「?」
「連携を信じるのはいい。だが、戦う勇気も必要だ。避けるだけじゃ、スポーツにならねぇ」
矢田は拳を握る。
「つまり、正面から……ぶつかれってことか」
「あくまで俺たちはスポーツマンシップに則った戦いだ」
「それじゃ…同じじゃ?」
「違う。魂をぶつけるんだ」
その神宮寺の言葉に、沈んでいたチームの表情が少しずつ変わっていく。
矢田がボールを掴み、立ち上がった。
「後半は攻める。戦って勝つ。俺たちのルールで!」
神宮寺が頷いた。
「いいな。勝負はここからだ」
ロッカールームを出た瞬間、外の歓声が再び響いた。
その中で、帝体大の選手たちはまっすぐフィールドへと歩き出す。
相手のフィジカルに対して、魂でぶつかる。
これから、帝体大の本当の戦いが始まろうとしていた。




