第18章 決戦前の作戦会議
第1回ワールドカップ――帝体大の勝利から一夜が明けた。
朝のグラウンドには、まだ昨日の歓声の余韻が残っていた。
だがその明るさの奥で、誰もが次の敵――魔王軍の影を意識していた。
翌朝、帝体大の講義棟三階。
戦略分析班、教授陣、学生会、そして主力選手たちが集まる。
テーブルには試合映像の記録板、ホワイトボードには魔王軍の布陣図。
緊張した空気の中で、神宮寺が立ち上がった。
「これが魔王軍の戦い方だ」
壁に映し出されたのは、マジーナ王国を蹂躙した魔王軍の映像。
画面の中で、双子の獣人“バルゴ&バルガ”が息を合わせ、王国兵を次々となぎ倒していく。
「見ろよ……あの連携」
黒崎が低く唸る。
「二人の動きが完全にシンクロしてる。片方が仕掛け、もう片方が守る。まるで一つの生命体だ」
「こいつらを崩さない限り、勝ちはない」
神宮寺がマーカーで二人を丸で囲んだ。
「他の連中は力任せの単独プレーだが、この双子だけは“連携”してる。あいつらが魔王軍の頭脳だ」
分析班の学生が手を挙げた。
「彼らの弱点は“互いの視界の依存”です。片方を視覚的に孤立させれば、もう片方も誤反応する可能性がある」
「つまり、連携を“逆手に取る”わけだな」
黒崎が頷いた。
「うちのスプリンターを囮に使おう」
矢田がホワイトボードに赤い矢印を描く。
「一人がスピードでかき回して、一瞬でもバルガの視界を奪う。そこを神宮寺と黒崎で潰す。全員が一つの動きで連動する」
「連携で、連携を壊すってことか」
真田教授が微笑む。
「実に体育大学らしい戦術だ」
「戦術も必要だが…」
矢田がボードを見つめながら言った。
「勝つには、“連携”だ。チーム全員が同じ魂で動く。それができたら、どんな魔族にも負けない」
教授陣の間に静かな熱が走る。
帝体大という“国”の理念が、今、言葉になっていた。
***
夕方、作戦会議のあと。
グラウンドでは特別練習が始まっていた。
陸上部のスプリンターが全力で走り、神宮寺と黒崎が連携してブロックする。
矢田はその裏でパスの角度を変え、タイミングを何度も確認する。
「右に流して……今だ、黒崎!」
「了解!」
バルゴ役の練習生を見事に引き離し、ボールがネットに吸い込まれる。
歓声が上がり、分析班が拍手を送る。
「よし、形になってきた!」
矢田が息を切らせながら笑う。
「これならいける! 戦術と“連携”――どっちも磨けば、勝てる!」
神宮寺が肩で笑う。
「いい言葉だな。……帝体大らしい」
彼らの足元に転がるボールが、夕陽を反射して金色に光った。
***
夜。
会議を終えた後も、教授陣と学生会は遅くまで残っていた。
各部のトレーナーたちはコンディションを整え、応援団は声を枯らしてリズムを確認している。
まるで大学そのものが“チーム”として呼吸していた。
***
一方そのころ、遠く離れた魔王軍の野営地では――
焚き火の赤が、双子の瞳に反射していた。
「人間どもが我らを分析しているらしい」
「愚かだ。見えたところで、止められはしない」
血斧ガルドが獰猛な笑みを浮かべる。
「分析、戦術、連携――好きにやらせろ。結局、勝つのは力だ」
赤髪のヴァルナが焚き火に手をかざしながら言う。
「ふふ、でもあの子たち、本気で“遊び”を信じてる。だからこそ壊す価値があるわ」
夜風が吹き、炎がゆらめく。
その中で、ガルドが短く言った。
「次で終わりだ。帝体大も、その理想も」
***
帝体大の夜。
グラウンドではまだボールが転がっていた。
矢田は一人、リフティングをしながら空を見上げる。
そこへ神宮寺が現れ、肩を並べた。
「なあ矢田。俺たち、ほんとに勝てると思うか?」
「勝てるさ」
矢田は笑ってボールを足で止めた。
「戦術でもなく、奇跡でもなく――“連携”でな」
二人の足元に転がるボールが、月光を受けて柔らかく光った。
その光はまるで、帝体大という国の心臓が鼓動しているかのようだった。
そして翌朝――。
決戦の鐘が、静かに鳴り響く。




