第16章 分析と調整日
マジーナ王国と魔王軍の激戦から一夜が明けた。
第1回ワールドカップは調整日を迎え、帝体大のキャンパスは一見いつもの活気を取り戻したように見えた。
だが、空気の奥には、昨日の戦いが残した衝撃が静かに燃えていた。
帝体大の分析班であるトレーナー陣と情報処理ゼミ、そして映像研究会が集まる教室では、魔王軍戦の映像が何度も再生されていた。
スクリーンに映るのは、圧倒的な体格差とスピードで王国を蹂躙する魔族たちの姿。
「見ろ、このタックルの角度。完全に人間の可動域を理解してる」
スポーツ科学専攻の佐久間准教授がレーザーポインターで動きを示す。
「動きに無駄がない。魔族ならではの戦闘本能ってやつか…」
真田教授が腕を組んだ。
黒崎がメモを取りながら呟く。
「王国の守りは悪くなかった。なのに潰された。つまり、パワーだけじゃない。ここの連携が異常に精密だ」
「双子のバルゴ&バルガの連携だな」
神宮寺が唸るように言った。「息が完全に合ってた。あれは日ごろから共に戦っている双子ならではの連携だ…」
矢田はその映像を見つめながら、拳を固めた。
「つまり、魔王軍は“勝つこと”に慣れてる。勝ち方を知ってるんだ……」
「だが次はお前たちの番だ」
小畑教授が微笑む。「最初の相手はマジーナ王国だ」
「俺たちにも負けという言葉はない」
神宮寺が立ち上がる。「あの王国に、帝体大流のサッカーを見せてやろう」
分析室の中に小さな拍手が起こる。
だが、全員の表情は引き締まっていた。
明日の対戦相手――マジーナ王国は、ただの人間の軍隊ではなかった。
その頃、マジーナ王国陣営。
昨夜の敗北は、彼らの心に深く刻まれていた。
「我らが……七点も……!」
副将が拳を握り、血が滲む。
キャプテンのアレクサンドロスは、闇の中で静かに剣を地面に突き立てた。
「屈辱だ。だが、終わりではない。次の試合で我らは必ず立ち上がる」
「しかし、相手は帝体大……昨日の観客席での熱狂、奴らは侮れませぬ」
「ならば尚更だ」アレクサンドロスは顔を上げた。
「奴らはスポーツのスペシャリストだ。だが、我らも“戦”のスペシャリストだ。戦は勝たなければならない」
夜のグラウンド。
王国兵たちは鎧を脱ぎ、裸足で走っていた。
筋肉に汗が光り、息を合わせた掛け声が夜空に響く。
「走れぇ!倒れても立て!帝体大は走りで勝つ奴らだ!」
「ボールを蹴れ!魂で蹴れ!足だけじゃ足りん!」
その姿は、敗北を知った軍人たちが見せる狂気にも似た執念だった。
アレクサンドロスが額から流れる汗を拭い、短く叫ぶ。
「魔族に敗れた屈辱は、帝体大にぶつける!」
「おおおおおッ!!!」
雄叫びが夜を裂いた。
王国陣営の炎は、帝体大が想像する以上に激しく燃えていた。
帝体大の夜もまた熱かった。
「おい矢田!お前フィジカル軽すぎ!」
「神宮寺、当たり強すぎだって!ラグビーちゃうぞ!」
「いいや、ファールなしなんだろ?だったら鍛えとけ!」
体育館裏の仮設グラウンドでは、深夜まで練習が続いていた。
各部活動からの選抜メンバーが入り乱れ、実戦さながらの練習試合を繰り返す。
陸上部の俊足ランナーがサイドを駆け抜け、相撲部の大江山が壁のように立ち塞がる。
帝体大のメンバーはスポーツのスペシャリストだ。
それぞれの個性を、この異世界サッカーにあわせて、技術を昇華させていく。
そして、次の相手は“怒り狂った”マジーナ王国。
矢田が息を切らしながらボールを抱える。
「勝つしかねぇ……。あいつら、次は命懸けで来るぞ」
神宮寺が頷いた。
「上等だ。なら俺たちも、それ以上で行こう」
篝火が照らす帝体大グラウンドの夜は、まるで戦場の前夜のように熱を帯びていた。
その頃、遥か北の森では、魔王軍の陣営が静かに笑っていた。
「次は人間同士の潰し合いか……実に興味深い」
赤髪のヴァルナが夜空を見上げ、艶やかに微笑む。
「どちらが勝とうと、我らが蹂躙するのはその後…ふふ、楽しみだわ」
三陣営、それぞれの夜が更けていく。
そして翌朝、再び笛が鳴り響く。
――次戦、「帝体大 vs マジーナ王国」。




