第13章 決戦の舞台に向けて
帝体大のグラウンドは、もはやただのキャンパスの運動場ではなかった。
旗が立ち並び、王国の使者や商人、帝体大の国民がごった返し、祭りのような賑わいを見せていた。
「脂が乗ったミミぞーの焼き肉だよー!熱々の串焼き!」
「ミミゾーってなんだろ…買ってみようかな」
「マジーナ王国特性薬草茶!飲めば喉がすっきり!」
「これ美味しい!!ジャスミン茶みたい!」
「帝体大コロッケ!今日だけ一個増量だ!」
「おばちゃん太っ腹!」
「誰が太っ腹だってーーー!!」
異世界の商人たちがここぞとばかりに露店を広げ、炊き出しの鍋からは香ばしい匂いが立ち上る。子供たちは顔に校章を描いて走り回り、楽団が太鼓や笛で景気のいい音を鳴らしていた。
だがその熱気の奥には、緊張も漂っていた。王国の兵士、帝体大の学生、そして遠巻きにこちらを窺う魔王軍の影。三つ巴の大試合を前に、人々は心を逸らせずにいた。
「集まれー!」
グラウンド中央で矢田がサッカーボールを掲げ、声を張った。
学生も教授も王国兵も、さらには魔族の使者までが一同に注目する。
「これがサッカーボールだ!」
矢田はボールを軽く地面で弾ませ、蹴り上げる。
「学生たちは知ってるな?授業、球技大会、体育祭で散々やってきた。でも今回は普通のサッカーじゃない!」
声を張り上げ、矢田は続けた。
「本来ならサッカー部の独壇場だ。でも今回は違う。ファールなし、当たりあり、大袈裟に倒れたって笛は鳴らない。はい。ここ笑うとこね!まぁ、言ってみれば“総合格闘サッカー”だ!」
「総合……格闘?」
王国の将軍が目を細める。
「そうだ!ただ走って蹴るだけじゃ勝てない。体の強さもタフさも必要になる!」
矢田は肩で息をしながらボールを蹴り渡す。神宮寺が胸で受け、力強く地面へ落とすと砂煙が舞った。
矢田は詳しくサッカーのルールを説明した。
「なるほど……軍の陣形に近いな。十一人が一つの陣形を組んで戦うか」
宰相が感心したように顎に手をやる。
魔王軍の使者は牙を見せて笑った。
「面白い。つまり我らも、全力でぶつかってよいのだな?」
「ただし武器と魔法は禁止!」矢田が指を振る。「体だけで勝負だ!」
「フン、望むところだ」
帝体大の選手選考は熱を帯びた。
「サッカー部だけじゃパワーが足りないだろ」黒崎が言う。
「センターバックは俺たちラグビー部とアメフト部で壁を作る!」神宮寺が胸を叩く。
「球際の勝負なら俺ら相撲部とレスリング部が受けて立つ!」大江山が豪快に叫ぶ。
「土俵際じゃあるまいし…」と黒崎が冷静にツッコみを入れる。
「スピード勝負は俺たち陸上部に任せろ!」短距離選手が拳を突き上げた。
サッカー部は技術と司令塔としての役割を担い、キーパーも彼らに任された。
矢田がにやりと笑う。「つまり――全部の部活の総力戦ってことだ!」
一方、王国兵は練習に四苦八苦していた。
「右に蹴れ!いや、もっと低く!こっ!これじゃ届かない!!」
鎧を脱いで足元に慣れない兵士たち。だがその表情はどこまでも真剣だった。
「この競技……面白い!」
「軍の鍛錬にも使えるかもしれん!」
魔王軍はさらに荒々しい。
「ボールを蹴る?ならそのまま体ごと叩き込めばよい!」
巨躯の魔族がラリアットで突進し、腕にボールを当て全身でゴールに突っ込む。
「それハンドだって!手は反則だから!」矢田が頭を抱える。
「ふむ……ルールというものはなかなか人間らしくて、面白い縛りだな」
魔族の使者が笑い、観衆からどっと笑いが広がった。
いつの間にか魔王軍の兵たちも自然と笑顔になっていた。
夕暮れ、仮設の観客席はすでに人で溢れていた。
商人たちの店からは煙と匂いが立ち上り、王国兵は槍を脇に置いて串焼きをかじり、帝体大の子供たちは「サッカーごっこ」と称して小さなボールを追いかけていた。
「こっち帝体大ー!」「いや王国だ!」観客の声援が既に三方向に割れている。
露店の商人が笑いながら「応援の声が一番大きいチームが勝つんじゃないか?」と冗談を飛ばした。
リュミエラ王女も姿を現し、篝火に照らされながら学生たちを見守る。
「彼らが築いた文化……確かに人の心を繋ぐ力がある」
宰相は黙って頷き、だが同時に視線を鋭くした。
「それゆえに、敗北は許されぬ。」
神宮寺は肩を回しながら呟いた。
「どんな相手でも、俺たちは全力で勝つ。それが帝体大のやり方だ」
矢田が隣で大きく頷いた。
「そうだ!ワールドカップの初代王者は――帝体大しかありえねぇ!」
スタンドが再びどよめく。
「ワールドカップ!ワールドカップ!」
太鼓とラッパ、そして拍手が夜空に響いた。
こうして剣と魔法の世界における最初の“世界大会”、第1回ワールドカップの幕が切って落とされたのだった。




