第10章 魔王への報告
闇の奥深く。
漆黒の城に、赤髪の女の影がひとつ。
カーミラは玉座の前に跪いていた。
その頭上から降り注ぐ声は、低く、地を震わせるような響きだった。
「戻ったか、カーミラ。――帝体大とやらは、どうだ?」
玉座に座すのは魔王。漆黒のマントをまとい、瞳は燃えるように赤く光っている。
カーミラは息を整え、静かに言葉を紡いだ。
「はい……報告いたします。奴らは、想像以上に強力です。肉体、統率、そして――精神力。正面から攻めれば、我らの兵でも相当な犠牲は避けられません」
「ほう……貴様がそこまで評するか」
魔王の口元がかすかに歪む。
カーミラは一瞬、あの夜のバレーを思い出す。
声を掛け合い、笑い合い、敵味方なく肩を組む彼らの姿。
――心の奥に残ってしまった熱を振り払い、彼女は顔を伏せた。
「真正面から叩き潰すのは得策ではありません」
「ではどうする?」
玉座の声が低く響き渡る。
「奴らの城を落とす策があるというのか?」
カーミラは唇をゆがめ、目を細めた。
「……奴らの誇りは“スポーツ”です」
「スポーツ…?」
「奴らの世界の遊び…いや、様々な技術を試し合う競技の総称のようです」
「ほぉ…」
「奴らは剣でも魔法でもなく、球遊びや格闘術の試し合い、レースに己の魂を賭けています。ならば――そのスポーツで叩きのめせばいい」
「スポーツ……」
玉座の間にざわめきが走る。側近の魔族たちは一斉に顔をしかめた。
「ふざけたことを……!」
「遊戯に過ぎぬものに、我らが兵を付き合わせる気か!」
だが魔王は手を挙げ、沈黙を強いた。
燃える瞳が、じっとカーミラを射抜く。
「……続けろ」
「彼らは、勝利を信じて疑わない。スポーツで人をまとめ、心を高める。ならば、その信仰を逆に利用するのです。試合で完膚なきまでに敗北させれば……帝体大の誇りも、団結も、一瞬で瓦解するでしょう」
しばしの沈黙。
やがて魔王は低く笑った。
「面白い。つまり奴らの“フィールド”で心を折れ、ということか」
「はい。こちらが挑戦状を叩きつければ、必ず奴らは、その挑戦を受けます」
魔王の目が紅く燃え上がった。
「よかろう。ならば我が軍からも“精鋭”を選び出す。剣も魔法も使わず――その場に立つだけで人を震え上がらせる猛者たちだ。奴らが崇める“スポーツ”とやらで、奴らを潰せ」
カーミラは胸の奥に妙なざわめきを抱えたまま、深々と頭を垂れた。
「……御意」
玉座の間に低い笑い声が響き渡る。




