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「男の人って、どうしてこう……愚かなの?」
舞の出て行った後の静寂の食堂で、グウェンがひとりごちた。フレデリックに聞こえるくらいの声量で。
「人がせっかく幸せへの道をお膳立てしてあげても、フルスイングで棒に振るんだもの。ある意味見事としか言いようがないけれど……」
最後に、ふう、と聞こえよがしに大きな息をつく。あからさまな嫌味に、フレデリックがジロリとねめつけても、異世界生活十六年目のグウェンは意に介さない。滑るように歩き出して扉へ向かう。
「どこに行くんだ?」
「決まってるでしょ? マイを追いかけるの。手助けしなくちゃ。あなたは覚えていないだろうけれど、私はマイがここに来た一番初めからずっと、いつでもマイの味方だから。今回も、マイに付くわ」
「……別に、彼女とは戦ってない」
「そうかしら? 今まさにここで開戦したと思ったけれど。気のせい?」
肩をすくめられ、フレデリックは黙り込む。返す言葉がなかった。しかし、あんなに喧嘩腰に来られたら、建設的な話し合いなんてできるはずがなくないか?
仏頂面のフレデリックに、グウェンは生暖かい目を向ける。
「早いとこ降参したほうがいいわよ。マイは徹底的にやるタイプだから」
「ふん……どうだか。すぐに音を上げるさ。城を出て一人で生きていけるほど、世界は甘くない」
「あら、いやだ。フレデリックったら、あの子を甘く見てると後悔するわよ。あなたが思う以上にガッツがあるんだから」
「だが、女性が一人きりで何ができる?」
グウェンはスウ、と目を眇め、自信ありげに返した。
「なんでもよ。――私たちは、なんでもできる」
「グウェ、」
呼び止めようとしたフレデリックを無視して出て行こうとしたグウェンは、「あ、そうだ」と最後に思い出したように振り返った。
「もう一つだけ。あなたの記憶喪失はミスでも、罪悪感からでもないわ」
「だが、」
「聞いて。……あなたはマイを本当に愛してたのよ。あなたがそれを、どんなに認めたくなくても」
グウェンの言葉は、フレデリックには実感が湧かなかった。自分が恋をすることもそうだが……よりによって、あんなに喧嘩っ早くて、いつも怒っていて、すぐに手が出る過激な女性のことを?
「それじゃあね、フレデリック。まあ、友人として、一応幸運を祈っておくわ。ベーパのお恵みを」
お決まりの祈りの言葉と、投げキスを残し、グウェンはとうとう出て行った。フレデリックは思わずサジを見る。それまで必死に存在感を消していた薄情者の魔導師はその視線を受け、気まずげに目をそらした。
――本当に?
――本当に、自分が、誰かを愛して、身も世もなくなるなんてことが、現実に起こりうるのだろうか?




