入滅
おじいさんのありがた~い おはなし。
保昌は途中で出会う怪異たちを「神通剣」で切り倒しながら三条河原に向かった。
河原には十数体の怪異に囲まれて行成が立っていた。
「さて、どうするかな。綱殿。」
<なんだ、気づいておったのか。>
「それは、背後の怪異の気配が次々と消えていけばな。」
<それで、後ろは無警戒だったのか。>
「それに綱殿の気、忘れてないよ。」
その時、空が明るくなり京を清澄な光が覆った。明らかに怪異たちに動揺が走ったのを見て取った保昌は、その隙を逃さなかった。綱と二人で十数体の怪異を消滅させると、残った行成を川べりに追い詰めた。行成は何事もなかったように近寄ってくると。
「保昌殿、危ないところを助かりましたよ。」
「いや、正体はわかっているんだぞ。」
「怪異に追い詰められまして……。」
保昌には切るしか怪異を退治する方法がなかった。どうにかして行成の体から蝦夷を追い出したい。その時、聖なる光が強くなった。懐かしい優しい光である。
「静だな。」
すると、行成は苦しそうな表情を浮かべ、手に持った位牌を自らに向けると、そのまま倒れこんだ。綱が空を切ったようだが、間に合わなかったようだ。
「逃げられたか。」
保昌は、位牌を取り上げると「神通剣」で瞬く間に八つに切ると火をつけた。
<また、奥州に逃げたな>
「もう、他には逃げようがないだろう。」
行成を抱き起こすと、せき込みながら意識を取り戻した。
「保昌殿、助けてくれたのですね。」
「ああ、蝦夷は逃してしまったようだが、これで残るのは怪異だけだな。」
「いいえ、そうではないんです。」
「他にもあるのか。」
「ええ、位牌のほかに、呪符も書かされました。」
「呪符?それはどこにあるんだ。」
「多分、あなたの屋敷に投げ込まれたようなんです。」
「それで、わが屋敷に怪異が押し寄せているのか。」
「転移はできないようにしましたが、寄っては来るようです。警戒はしていたんですが申し訳ありません。」
「いえ、道風殿から聞きましたよ。何千体もの怪異が転送されていたら手の打ちようがなかったでしょうな。」
「とりあえず、私は家に戻ります。行成殿は気を付けてください。」
<俺が送るよ。>
「綱さん頼んだ。」
保昌は、自宅へ急いだ。
「……静が大変……、行かなきゃ………。」
遂にお産が始まって痛みに苦しむ小式部は外で静が自分を守ってくれていることに気づいていた。
「早く、助けに行かないと……。」
怪異たちの襲撃が始まって、何時間立ったのだろうか。すでに深夜を回っていた。京の町の人たちは近所の寺社に集まり、一心に祈っていた。怪異たちは数は減らしていたが、僧や神官たちにも、天狗たちにも疲労が出始めていた。
そんな中
「おぎゃー!」
元気な男の子だった。教通は小式部が陣痛に苦しむ間中、一心に篳篥を吹いていた。
そして、その声が聞こえると、笛の音がやんだ。
「生まれたか。」
「男の子ですよ。」
赤ん坊を抱き上げた母、和泉式部が小式部に告げると、小式部はにっこりと笑った。
それから………。
「静を助けなきゃ………。」
というと、小式部内侍の体が明るくまばゆい光に包まれた。
結界の維持に一心に護法を唱える静円は、体はまだ10歳の子供である。すでに肉体の限界は越えていた。明王たちはこのままでは静円の命が尽きてしまうことを警告したが、静円はここで休むと、比叡山だけでなく京の町中の人たちの祈りが無駄になることを恐れた。
「静、手を出しなさい。」
突然、如来様の声が静円の脳内に響いた。静円は合わせた手をそのまま伸ばすと、静円の手はあたたかなものに包まれた。そして、周りが全て白くなってしまうほどの光が、静円の周りから立ち上り、その光は次第に広がり、京の町中を包み込んだ。
この光に触れた全てのものは浄化され、怪異たちはみな消し飛び、異界のものの魂と蝦夷の人々の魂に分解されていった。そして、蝦夷の人々の魂は浄化され輪廻の輪に戻り、異界のものの魂は雪崩を打って京の南東にある伏見稲荷に向かって飛んで行った。異界返送器「おかえりなさい」が効果を発揮したのであった。
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
合掌。
小式部内侍 1025年 24歳で出産後入滅




