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正義

おじいさんのありがた~い おはなし。

 それから一時ほどして、クマラは能因を連れて戻ってきた。

「行ってきたぞ。」

「どこに?」

「姉歯の松だよ。」

能因は初めての空の旅で、行きも帰りも到着したら気絶していた。クマラが頭を叩くと

「あっ、ここは松島。気が付けば松島見ゆる天狗かな姉歯の松を一飛びすれば ってこんなの発表できませんね。」

「まあ、歌枕は二つは入れられませんからね。」

 明懐の言うように歌枕もだが、天狗と空を飛んだなんて発表できるわけがない。

「また嘘だって言われますよね。でも確かに見てきましたよ。」

「では、使いは頼めるか?」

「わかりました。急ぎましょう。」

 能因は十兵衛から手紙を受け取ると、もう一度松島を見て、ため息をついた。

「この風景をよくよく目に焼き付けておきます。」


 能因を加えた一行は、先行したクマラによって、多賀城まで転移すると、それぞれ南と西に分かれて行った。



 その夜、静円は修行を終え、眠りにつこうとしていた。最近は前鬼の力を借りて、朝から熊野三山で修行をし、昼は比叡山の庵で読経したり、院源座主を訪ねたりして、夜はやってくる最澄や空海から密教を学んだり、曼荼羅を書いたりしていた。 

「静くーん。おやつだよ。」

 そして、眠りに着こうかという時間になると、なぜかいつものようにヴィーナスがやって来る。そして、いろいろな歴史や科学、宇宙のことを話してくれる。まだ会ったことのない他のど〇ぎつねのこともいろいろと教えてくれるので、身近に感じられるようであった。今夜は西洋の賀東翔子等(ガトーショコラ)というものを持ってきてくれていた。なんでも仏蘭西(フランス)という地球の裏側の国で賀東翔子さん()が作った菓子らしい。六百年後には地球の裏側で活躍する日本人がいるらしい。

「静くん、やっぱり仏蘭西のお菓子は最大巴里(マキシムドパリ)のものが最高ね。」

「地球の反対側の仏蘭西ってどういう国なんですか。」

「今はまだ、欧羅巴(ヨーロッパ)の小さな国ね。でも六百年後には絶対王権を持つ君主の下で大国となって、文化の中心、巨大で豪華な城も建てられるのよ。」

「文化の中心か。進んだ思想がありそうですね。」

「そうね。人権とか。法とかいろいろな思想家があらわれるわ。」

「それって、唐国の春秋時代のようなものでしょうか。」

「そんな昔には人権なんて意識はなかったわね。でも自由に様々な考えを発表できる自由な雰囲気は同じかな。まあ宗教って面倒くさいものもあるけどね。」

「宗教って面倒くさいもんなんですか。」

「そうね。この国と違って西の方の国では一神教なのよ。だから正義は一つ。」

「でも、正義って立場によって代わりうるものですよね。」

「そう、でもあの時代の西洋では、神の代行者である教会のいうことが正義だったの。」

「それが間違っていてもですか。」

「そうね。教会の意見と違う意見を持つと異端者として殺されたり、私たちのように月や金星から来た者たちは、悪魔や魔女として火あぶりにされたわ。」

「それって、鬼は悪という考えと似てますね。」

「そう、西洋に行った天狗たちの中には悪いことをした者もいたわ。でもほとんどは悪魔という理由で殺されたわ。」

「『鬼退治は正義』と同じですね。」

「そうなのよ。他の神を信じているものは弾圧してもかまわない。肌の色や民族の違いで差別したり弾圧する。あと七十年もすれば、神の名のもとに聖地奪還という名の異教徒の土地の収奪戦争が起こるわ。」

「神様が戦争ですか?」

「そうね。教会で一番偉い人が神の名のもとに欧羅巴中に命令するの。そして神の名のもとに土地を奪い、財産を奪い、女性をさらい、子供を奴隷として売り飛ばすの。もちろん教会の人はそんな命令はしないけど、戦争に行く人は異教徒は悪だから何をしたって許されると思っているの。」

「うーん。どんなにひどいことをしても、自分は正しいことをしているって思っているところが恐ろしいな。」

 静は考え込んだ、正義とは、悪とは……。


 気が付けば周囲が明るくなっていた。静円は朝が来たのかと思ったが、そうではなさそうである。狭い部屋の隅のクマラや霊たちがやってくる転移門から明るい光がさしていた。


「静円よ。時が来ました。すぐに小式部内侍の下に向かうのです。」

 中性的な気高さを感じさせる声が響く、その声は優しく、それでいて抗えない強さを持っていた。

「われら明王衆もついておるぞ。」

 力強い男たちの声もその後ろから聞こえてくる。


 いつのまにか「かめさん」から太い煙が立ち上がっていた。

 静円は前鬼後鬼、そしてヴィーナスを伴って、懐かしい母の下へ出かけようと、庵の外に出た。


「静円殿、先ほどの光は、もしかして如来様では……。」

 院源座主がお付きの僧たちに担がれて急いでやってきた。自分の足で歩いては間に合わないと思ったのであろう。そのあとに如来の光を感じ取れた高僧たちが集まってきた。

「はい。『時が来ました。』とおっしゃいました。」

「うむ。そういうことですか。皆さん退魔の祈りを捧げるのです。それから石清水と興福寺にも急ぎ使者を送るのです。」


【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

正義とは何だろう、常に考えることが肝心じゃ。

いよいよ始まる。

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