歌枕
おじいさんのありがた~い おはなし。
さて、陸奥に向かった能信たちを追いかけて陸奥に向かった十兵衛一行は、携帯扇風機型転送器を使って、先行したクマラが、後から追いかける十兵衛と明懐を一定の区間で転送するという尺取り虫移動法を使って、かなりの速さで白河の関まで到着した。
ここで、大男を連れた貴族が、数日前に旅の僧を伴って多賀城に向かったことを知った。
「多分、能信一行だよな。しかし旅の僧って誰なんだ?」
「ん、そうだな。おっ、やっと糸電話に反応が……。」
「糸電話?」
「鬼一に渡しておいた『天狗の糸電話』さ。これで、離れているところと話ができるんだ。」
「だったら初めから使えばよかったじゃないか。」
「いや、あまり遠いと反応がないんだ。」
「ということは、反応があるということは近いということか。」
「いや、まだ遠いな。もっと近づけば話もできるはずだ。」
「ふん、天狗というものはいろいろと便利な道具を持っているのですね。」
天狗(祖先は金星人)の科学力は、この時代の人間である明懐にとっては便利な道具としか理解できなかった。もちろん江戸時代の人間である十兵衛にも理解はできなかったが、もう今までにいろいろあって慣れていたというか、考えるのをやめていた。そもそも自分がこの時代にいるのもおかしいし……。
十兵衛一行が白河の関を出て、また尺取り虫移動法で多賀城まであと半日というところまで到着したところで、やっと『天狗の糸電話』で話ができるようになった。
「こちらクマラ、鬼一、聞こえたら返事しろ。」
「はーい!」
「おっ、声が聞こえるぞ。鬼一、今どのあたりにいるんだ。」
「えーと、山だ。」
「山?どの山だ?」
「いや、ずっと山だ。」
「ずっと山?どの山がずっと山なんだ?」
「いや、ずーっと山だ。」
「だから、どこがすーっと山なんだ。」
十兵衛と明懐はこのボケボケの会話を聞いていたが、クマラに西の方に連なる山脈を指さした。少なくとも陸奥の国府がある胆沢に行くには山をいくつも越えることはない。
「クマラ、能信さんに代わってもらってくれ。」
鬼一が能信に代わると、こちらも十兵衛に代わった。
「能信殿ですな。私は先日お会いした保昌殿の客人、柳生十兵衛です。」
「ああ、十兵衛殿か。応援に来てくれたのか。」
「ええ、そちらに最後の悪霊が逃げたようなのです。」
「なるほど、それでか。いや蝦夷の霊たちが阿弖流為に会いに来て、このまま胆沢に向かうのは危険だというのだ。それで一旦、先に出羽の清原光方を訪ねることにした。」
「しかし、この山々を越えるのは大変でしょう。」
「いや、多賀城から出羽に向かう桟道を昔、田村麻呂殿が造らせていて、案内してくれている。今でも使えるようだ。」
「なるほど、わかりました。それで、旅の僧とは何者ですか?」
「ああ、能因法師と白河の関で会ってな。多賀城まで同行した。松島と姉歯の松を見て帰るそうだ。」
「帰るなら、伝言を頼めますかね。」
「あいつの足で都まではかかるだろう。」
「いや、常陸近辺まで行けば、頼義殿に連絡が付くと思います。」
「多分、今ごろは松島についていると思うぞ。」
「わかりました。捜して伝言を頼んだら、そちらに向かいます。では後ほど。」
そこで、十兵衛一行は多賀城まで向かうと、そこから松島へ向かった能因法師を捜索することにした。能因はクマラが容易に発見した。能因は松島全景が見下ろせる高台で、ぼーっと座り込んいたのであった。面識があった明懐が声をかけることにした。
「能因殿ですね。」
「ん、あなたはもしや興福寺の明懐様ですか?」
「そうですよ。」
「どうしてこのようなところまで? 松島を見にいらっしゃったんですか。」
「いえ、あなたを探しにですよ。しかし、本当に絶景ですな。」
「そうなんです。私はこの感動をどのような言葉にしたらよいか。うまく言葉にできないのです。」
「それで、こうしていたのですね。」
「私はこの歌枕の旅で、心に湧き上がる感動を言葉にすることの難しさに気づかされました。今まで安易に行ってもいない歌枕を歌いこんでいい気になっていました。」
「旅は自分を見つめなおすいい機会になりますからね。これからの能因殿の歌に期待ができますね。」
この絶景に十兵衛も感動して言葉も出なかったのであるが、こうしてもいられないので、明懐たちの話に加わった。
「そういえば、芭蕉が『松島や ああ松島や 松島や』って詠んだって聞くぜ」
「あなたは、どなたですか?」
「私は時空の旅人、柳生十兵衛です。」
「芭蕉が何者か知りませんが、まさにそのように詠むしかないのかもしれません。」
「そこで、感動のところ申し訳ないのだが、帰りにこの手紙を房総にいる源頼義殿に届けてほしいのですが」
「急ぎなら、間に合いませんよ。私はこれから姉歯の松まで行かねばなりませんから」
「たぶん、常陸の武家に渡せば届くとは思うのです。お願いできませんか。」
「いや……。あ、あれー!」
渋る能因を見ていたクマラが、突然、能因を抱えて飛んで行った。
「ちょっと、行ってくる。」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
真の感動はうまく言葉にできないものじゃ。
真の感動は無言を迫る。小林秀雄の言葉ですね。




