討伐完了
おじいさんのありがた~い おはなし。
能信は教通の娘、真子が書いたという呪符を急いで取り出した。自分の身を案じて何枚かの呪符を書いてくれたのだそうだ。教通が言うには初めて書いたものらしいから効き目はわからないが、お守りと思って持っていくようにとのことだった。やっと最近、真子とも話ができるようになっていたのだが、その心遣いはありがたかった。
蝦夷の霊たちは、阿弖流為と母禮が戻ってきたことを喜んでくれた。が、ここから先に向かうのは危険だと告げた。特に安倍頼時が支配する奥六郡は大変なことになっているのだそうだ。なんでも坂上田村麻呂が蝦夷遠征の際、退治した鬼たちの彷徨う魂が、恨みを持った蝦夷たちの魂と結びつけられて怪異となっているそうなのだ。
<わしが退治したのは、岩木山の大武丸一味だけだ。あれは人を襲う悪い鬼だった。>
<アノトキ エミシノ ミンナモ キョウリョクシタ。>
<それが、高丸とかいう知らない鬼を退治したことになったり、あの後、鬼だという理由で多くの鬼が鬼退治で殺されたと聞いている。それが全部、わしがやったことになっている。>
<ココニイル エミシハ タムラマロ ウランデナイ。タムライイヤツ、ミンナシッテル。>
「この地域の蝦夷は、全国に配流され、この地には関東から多くの移民が入ったと聞く。その恨みもあるのか。」
能信が思ったのは、全国各地に配流された蝦夷たちの魂が、恨みに染まっていたら全国に怪異が広まっている可能性があるのではないかということであった。
<ミナミニイッタ ナカマタチハ アタタカイトコロデ ヨロコンデイル。>
「では他では怪異に取り込まれたものはいないのだな。」
<ナカニハ ウランデイルモノハ イルトオモウ。デモ ココヨリスクナイ>
「つまり、ここで退治された鬼たちの魂と、蝦夷の恨みを持つ魂が取り込まれたのか。」
能信は大江山の酒呑童子の魂が、阿弖流為の魂と合わさって大災害をもたらす虞があったことを聞いていた。自分がとんでもないことに加担していたのだと教通から聞かされて自分の不明に冷や汗が出た。もし成功していたらどんなことになっていたのか。そのことから考えると、この陸奥でおこっていることは容易に想像がついた。この地に住み着いてきた鬼たちの魂と、弾圧され滅ぼされた蝦夷の魂が合わされば……、この地に争いや、反乱が多く、朝廷も容易に手を出せないでいる理由が理解できた。
<オオタケマルノ タマシイガ ウバワレタ。キット アテルイヲ マッテイル>
<大武丸の魂は彷徨っていたのか。酒呑童子の代わりというわけだな。>
「このまま、無策で胆沢に向かうのは危険だということだな。まずは多賀まで行って様子を見て、出羽に向かうとしよう。」
能信は、直接、安倍頼時がいる胆沢に向かわず、かつて鎮守府があった多賀城(宮城県多賀城市)から、出羽(秋田県)にいる清原光方を訪ねることにした。能因法師には目的地の姉歯の松(宮城県栗原市)より北には近づかない方がいいと警告して、共に近くに末の松山がある多賀城に向かった。
源頼信、頼義親子が率いる征討軍は、既に多くが臣従を誓っている武蔵、相模の武士団、豪族を引き連れ鎌倉を出発した。途中、さらに多くの周辺の武士団、豪族が次々と合流した。
更に坂東平氏の嫡男である平直方の娘と頼義との間に婚儀が成立したという知らせが届くと、常陸平氏の諸族からも使者が参上し、また応援の軍勢を率いて頼信軍に合流した。
大江山近郊の戦いでの頼信の軍略、頼義の弓の腕前は、関東遠征に参加した武士たちから広く、尾ひれが付いた形で広まっており、坂東武者の中に大きな源氏ブームが起こっていた。縁者に源氏がいる武士団はその縁を頼り、新たに縁が出来た平氏の一族もその縁を頼って、次々と臣従を誓ってきた。
頼信はそれらの武士団の所領を確認すると次々と本領安堵の証紙を渡した。
頼信軍は隅田川を渡河し、下総に入ると、常陸と挟まれる形になった上総の武士団も臣従を誓い。更に忠常の所領であった下総、安房の武士団も、忠常の長子である平忠将が自ら頼信の陣に投降し、一斉に降伏した。
頼信の陣に参上した平忠将は、父の忠常と共に大江山の戦いで降伏しており、抵抗するつもりは元々なかったと言った。事実、忠将の軍が他領に攻め込んだ形跡はなかった。
降伏した忠常の領地に、討伐と称して京から多くの武士団、僧兵が現れ、忠常の領地を襲い略奪を繰り返しているというのであった。抗議すると、朝廷から兵糧の徴収を許可されていると言い張り、逆らうならば、討伐すると乱暴を繰り返すのであった。忠常は悪、その悪者の領地は滅ぼしても略奪しても構わない、 なぜなら、自分たちが正義であるからだというのであった。
「父上、これって鬼は悪っていう忠常の考えと変わりませんね。」
「ああ、自分は正しいと思って行動するものほど恐ろしいものはないな。」
頼信は、下総、上総、安房の三国での略奪を禁じ、一切の戦闘を認めなかった。その後略奪を繰り返す武士団は、京の公家が送り込んだ武士団であろうとも容赦なく取り締まることにした。
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
それぞれに自分が正義だと思うから争いは起こるんじゃ。
また自分勝手な正義の話になりますね。




