残る一柱は?
おじいさんのありがた~い おはなし。
源頼信は、鎮守府将軍の印綬を見せ、平直方に京への帰還命令書を手渡した。
「家族を救出していただいてありがとうございます。このご恩は子々孫々忘れません。」
「全ては、この頼義がやったこと、出来れば今後は頼義を支える力になってください。」
「それは願ってもない話です。将門公以来の坂東平氏の中では頼義殿が人気でしてな。ぜひ傘下に入りたいというものが多いのです。」
「それは光栄です。」
そこに直方の三人の子供たちが駆け込んできた。手に手におもちゃの弓を持っている。
「よりよしきた!」
「きた。」
「たあ~」
八歳の維方と五歳と三歳の女の子が、頼義の回りに集まってペタペタと触っている。
「ちちうえ、わたし、よりよしの およめさんになる。」
「父上、ぼくも、頼義殿の……。」
「いや、維方は男の子だから無理じゃ。頼義殿に負けない立派な武者となるのだ。」
「じゃあ、弟子になる。」
「たあ~。」
「いやお前はまだ三歳だからなぁ。」
頼義は苦笑いするしかなかった。が、父の頼信は乗り気であった。
「では、上の娘さんと」
「いや、これも願ってもない話です。これで坂東の武者たちも納得しますよ。」
「そうですねわが河内源氏が、将門公につながる桓武平氏と縁ができれば、武家はまとまりますね。」
「早速、婚約したことを、関東の武家たちにも知らせましょう。」
「そうしていただけると、このあとの進軍も楽になります。」
肝心の頼義抜きで、親同士が勝手に話を進めている。
「徳や、おまえが、いい子にしてたら、頼義どのが、嫁にしてくれるそうだぞ。」
「わーい、わたし、よりよしのおよめさん!」
「いいなぁ。女だからってずるい。」
「だから、維方は頼義殿の味方になればいいのじゃ。」
「頼義にも嫁ができてよかったな。」
「父上、私は光源氏ではありません。もちろん大人になってからですよね。」
「まあ、関東が落ち着いて、京に帰ってからだろうな。頼義が関東の国司に選ばれればいいのだがな。」
そこに十兵衛と明懐(真)が戻ってきた。
「偽明懐を捕えました。」
「この人たちは、どなたですか。?」
直方は、見知らぬ片目眼帯の男と僧形の男が公成に連れられて入ってきたので訊ねた。
「この方が本物の興福寺の明懐様、それから十兵衛さん。」
公成が紹介すると、直方は、明懐が偽明懐に偽物だといわれていた僧であることに気が付いた。
「それで、偽明懐は?」
「いや、捕えたんだが、何も覚えていないようだ。」
「もともと京にいた下級の僧で、こんな遠くまで来ていて驚いていましたよ。」
「と、いうことは、どういうことなのだ?」
事情が分からない直方に、今回の誘拐は京を騒がした悪霊たちの仕業であったこと、そしてその悪霊達が、直方の使用人と偽明懐を操っていたことを説明した。
十兵衛が懐から「かめさん」を取り出すと、細くまっすぐな煙が立ち上った。
見た目は小型のカメさんの形をした香炉にしか見えない。しかし、十兵衛の見た目と香炉という組み合わせに違和感があったので、頼信が訊ねた。
「十兵衛殿、その香炉は持ち歩き用なのですか?」
「香炉ではないのです。歴史が正しい方に戻りつつありますね。」
その意味が理解できたのは頼義だけだったが、なぜ戻ったのかは理解していなかった。
「それが、静円殿に渡した香炉なんですね。」
「いや、明懐さん。どこまで知っているんだ。」
「藤原家に関することで興福寺の諜報網にかからないことはないんですよ。」
「なんか明懐さんってすごくできるお坊さんみたいだけど、何で身ぐるみはがされたの?」
「わたしは荒事は苦手なんですよ。」
「それで、残りの悪霊はどこに行ったのだ?」
「あの後、教通さんたちと話したんだけど、蘇我入鹿、蘇我蝦夷のどちらかが消えて、どちらかが、ここにいた奴。入鹿が残ったなら房州、蝦夷なら奥州ではないかって」
「私は、残ったのは蝦夷の方で、奥州に行ったと思いますよ。」
「明懐殿、なぜですか?」
「入鹿であれば、あの僧の姿で逃げましたよね。あの位牌は蝦夷とだけ刻まれてました。」
「『蝦夷』という名前か。」
「頼信殿たちは房総の武家をまとめるという役目がありますから、私がクマラと奥州に向かい、能信殿、鬼一と合流します。」
「私も行きましょう。」
「明懐殿も?」
「興福寺もこの件に力を尽くすことが必要なんですよ。」
「わかった。それでは頼信殿、頼義殿。柳生十兵衛参る!」
「かっけー、十兵衛!」
八歳の維方が、片目に銭を括りつけた眼帯をつけていた。中2心が芽生えたらしい。
「おれ、十兵衛のお嫁さんになる!」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
運命の赤い糸というのがあるんじゃ。
平直方の子、維方の将来が心配ですw




