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なむはちまん

おじいさんのありがた~い おはなし。

 大人たちの話を黙って聞いていた静円がおもむろに立ち上がった。

「それには、考えがあります。」

「静、何だ?」

「お父様、静円です。この廃寺の周囲を私、前鬼、後鬼、父上、明懐殿の五人で周囲から遮断して実体化させます。」  

「おい静、静円。私は術も経も読めないぞ。」

「父上、篳篥はお持ちですよね。それでいいです。」

「静円殿は噂に違わぬ天才じゃの。やはり複数の明王の呪を使われるのですか。」

「はい、明懐殿も使えますよね。」

「よくご存じで。でも私は不動様だけですよ。」

「前鬼、後鬼も修験の業を使えます。」

「おい、静…静円、何をするんだ。」

「周囲を浄化することで、不浄なものが浮かび上がりますよね。」

「多分、軽い悪心なら消し飛んでしまうかもしれませんね。」


「なるほど、それでも向かってくる奴が悪霊が憑いている奴ということか。」

「では、浄化が始まったら、私と保昌殿、クマラ、ヴィーナスさんで浄化された盗賊を連れ去って、頼義殿が悪霊の憑いた盗賊を切って、人質を救出する。ということにしましょう。」

「待て、何で俺?」

「それが、歴史の必然だ。」

 頼義以外の全員が黙ってうなずいた。知らぬは本人だけであった。



 廃寺の近くまでたどり着くと、静円たちは寺の周囲に五角形になるような位置に着き、それぞれに浄化を始めた。最後に教通が篳篥を吹き出すと、廃寺の姿が十兵衛の目にもはっきりと見えるようになった。

「今だ」  

 保昌、十兵衛、クマラ、ヴィーナスが突入し、その後ろから弓を構えたの頼義が続く。寺の中では、あちらこちらに盗賊らしき人が昏倒していた。

「これで、六人ですか。盗賊は五六人ということでしたから、これだけでしょうか。」

「悪霊は留守なのか?」

「人質はどこだ。」


 すると奥から一人の男が出てきた。

「みなさん、こちらです。」

「あなたは?」

「私は直方殿の使用人です。助かりました。」

 使用人は本堂の祭壇の方に向かった。

「祭壇の裏に隠し部屋か?」

「違う! 頼義殿、位牌を」

 中に入ってきた明懐が叫ぶと、その声を聞いて、慌てて使用人は駆け出したが、それより早く、頼義の矢が祭壇の上にあった二つの位牌を次々と射落とした。それと同時に堂内にあった仏像が崩れ、中から、三人の子供が出てきた。

「この男は、私がここで会った男です。」

 使用人は本堂の位牌が射落とされ、そちらに十兵衛とクマラが向かうのを見ると、出口の方へ向かおうとしたが、目の前にも頼義の矢が立ち、すくんだところ、外から入ってきた前鬼後鬼に行く手をふさがれてしまった。出てきた奥に戻ろうとしても、保昌が神通剣を構えている。

 頼義は、背後の本堂の朽ちた仏像の額に矢を放ち、それから弓を置き、腰に差した名刀「鬼切(真)」を抜いた。大仏は二つに割れ、中から身重の女性が出てきた。

 その時、静円の経が堂内に響き渡った。明懐もそれに和した。使用人は苦しそうな表情を浮かべ、うなっていたが、ぴたりと止まって昏倒した。


「頼義様、正面です。」

「南無八幡大菩薩!えい!」

 頼義が八幡様の名を唱えると、「鬼切(真)」が明るく輝き、空を切ったように見えた。その剣の奇跡が明るく輝き、何かが消滅する気配がした。


 その姿をきらきら光る眼で、直方の三人の子供たちが見ていた。



「ん、この位牌、血が付いているな。」

「そんな?」

「これが、ここに奴らを呼び戻していたのだな。」

 位牌にはそれぞれ蘇我入鹿、蝦夷の名が記されていた。

「明懐殿、よくわかりましたね。」

「ここに泊まった時にあそこにあるのを目にしていたんですよ。」

「なるほど、それでここだと」

「でも最初に生きている誰かがここに置かないと行けませんよね。」

「多分、あの滝夜叉姫だと思います。あの日の会話でそんなことを言っていた気がします。」

 教通は前回の事件の後、この廃寺を見つけて処分しなかったことを後悔していた。



 それぞれに、それぞれの場所に戻ることになったが、

「次に会うのは……。」

 それは、ほとんどのものが気づいていて、口に出したくないことだった。


 十兵衛たちが鎌倉に戻ると、偽明懐は姿を消していた。そして肝心の直方の娘は


「わたし、よりよしさんの およめさんになるの なむはちまん!かっこいい。」

「おれも、頼義さまの、お嫁さんになる。」

「あたしも!げんじ」

 何だか頼義は、直方の子供たちのヒーローになったらしい。


【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

流血が少ないことは良いことじゃの。

八幡様は源氏の守り神なんです。

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