謎の僧
おじいさんのありがた~い おはなし。
源頼信、頼義親子は京から宣旨を受け取ると、甲斐から鎌倉に向かった。
道中、武蔵国周辺の武士団は、忠常に従っていた武士団も、それ以外の武士団も早々に恭順の使者を送ってきた。頼信は甲斐在陣中に関東各地の有力な武士団に使者を送り、「朝廷から命じられた将軍である頼信に従うものは本領安堵とする。」との書状を渡していた。大江山戦役での頼信、頼光親子の戦いぶりは、超人的な伝説として関東各地の武士団に広まっていた。「三千の兵で約二万の兵を敗走させた。」という評判は坂東武者たちを熱くしていた。その英雄の傘下に入ることを命じてきたのだ。それに従わない武者はいない、しかも、現在の領地を保証してくれる。われわれは荘官や国司に従うのではない、朝廷が命じた将軍に従うのだ。我々は朝敵ではなく、官軍なんだと坂東武者たちは喜んで頼信の傘下に加わったのであった。
頼信が鎌倉に到着するころには、武蔵、相模、伊豆の有力な武士団のほぼすべてが、頼信の傘下に入っていた。
鎌倉に到着した頼信は、軍を休ませると、頼義を伴って、平直方の館へむかった。
案内を乞うて、直方に面会すると、館には何名もの貴族や、僧侶、神官と思われる者たちがいた。
「頼信殿、遠路はるばるの援軍お疲れさまでした。」
「直方殿、房総三国はどのような状況ですか。」
「もう私の手に負えないところまできています。」
「それほど抵抗が激しいのですか?」
「いえ、房総の各武士団は既に降伏を申し入れて来ているのですが……。」
「コホン」
直方の横に控えていた高僧が咳ばらいをすると、直方は黙り込んでしまった。
「なぜ解決できないのですか。」
そこで高僧が、話を遮って
「頼信殿、長旅お疲れでしょう。直方殿も長く続く戦でお疲れです。今日のところはゆっくりとお休みになって、また明日お越しください。」
「あなたはどなたですか。何の権限があって」
「私は興福寺の東金堂、五重塔の再建責任者である明懐。帝と摂関家の許しを得てこの度の褒賞として房総三国から再建費用を賜ることになっております。」
「なにをおっしゃるのですか。この度は、わが武士団の活躍にての勝利、その褒賞として荘園の受領を摂関家より認められておるのは我々ですぞ。」
「いや、わが大臣家の者の手柄ですぞ」
「何をおっしゃる、わが武士団こそ……。」
「わが神に奉納されることになっていますぞ。」
部屋の中にいた男たちが明懐と名乗った興福寺の僧に食ってかかっている。僧は、強引に話を中断させると、直方を奥の間へ連れて行ってしまった。
「父上……。」
「これでは、直方殿が解決できないわけだ。」
「それだけでしょうか。何か様子が明らかにおかしいですよ。」
頼信親子はとりあえず与えられた宿舎で休むことにした。その夜、頼義のところに一人の貴族風の男が訪ねてきた。
「頼義殿、聞いていただきたいことがあるのです。」
「私には荘園を与える権限などありませんよ。あなたは?」
「私は太政大臣藤原公季の孫、公成と申します。」
「ああ、そういえば、お会いしたことがありますね。確か大江山で」
「はい、小式部さん親衛隊やっていました。」
「その公成殿がなぜこのようなところまで?」
「私は祖父の公李の養子ということで代理人として来ました。」
「代理人とは?」
「私が、酒呑童寺を守るためにみんなと駆けつけたことを聞いた祖父が、あの集団を私が率いたとして、報酬を要求しているのです。そんなこと認められるならあそこにいた全員にその権利があります。でも私は太政大臣の孫なのだからその権利はあるからもらってこいと言われまして。」
公成(祝モブ脱出)は、ここで房総三国の荘園などの利権争いが起こっていることに憤りを感じていた。
自分たちが純粋に酒呑童寺を守りたいという気持ちで行動したことを政治的に利用しようとする祖父たち貴族、敬愛する小式部内侍の子、静が起こした奇跡を否定してわが神仏の手柄にする寺社。そのことに怒りを感じていながらも自分には何もできないという無力感。それでも公成は行動した。何かが変わったのだ。
「なるほど、それで?」
「頼義殿は直方殿に会って何か違和感を感じませんでしたか?」
「それは?」
「率直に言います。力を貸してください。」
頼義は鎌倉で暗躍しているであろう悪霊を警戒していた。早速接触を図ってきたかもしれないと警戒していたのだが、どうやらこの太政大臣の孫は信頼してもいいかもしれないと思った。
「あの興福寺の僧ですか?」
「頼義殿は小式部さんが信頼している人物だと聞いております。」
「小式部さんか。そろそろ子が生まれそうだな。」
公成は少し複雑な表情を浮かべたが、意を決したようにこっそりと言った。
「会ってほしい人物がいるのです。」
公成は、頼義を宿舎の外に連れ出すと、町はずれにある小さな庵に案内した。
「公成殿ここは?」
「ちょっとお待ちください。」
公成がそっと戸を開くと、中には一人の若い僧がいた。
「この方は?」
「私は興福寺の僧、明懐と申します。別当林懐様の命で参りました。」
「私は将軍源頼信が長子、頼義と申します。なぜこのようなところに?」
「ここに向かう途中で、夜盗に襲われまして、全てを奪われ命からがら逃げ出したところを、この公成殿の一行に助けられました。ところが、鎌倉に着くと私の偽物が直方殿のところにおりまして、私が偽物とされて追い出されました。」
「あなたの言うことが本当なら、あの僧が操られているということか。」
「どういうことですか?」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
興福寺は一番偉い人を別当っていったんだ。
お参りしようぜ。
若者は成長するにはきっかけがあるものだ。




