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頼信動く。

おじいさんのありがた~い おはなし。

 教通は数日前、院源から比叡山で起こっていること、起ころうとしていることについて話を聞いていた。静の入山についての報告もあったが、それよりも驚かされたのは、あんなに苦慮していた僧兵の問題を静が入山して七日で解決に導いたということだった。

 比叡山が荘園を朝廷に寄進して、国や民のために土木工事や警備を行う。そのことで国から報酬を与える。比叡山の国有化ともいえる。それは過激派を集め始めている興福寺をはじめとする奈良七大寺にも影響を与えるだろう。そのような面で競ってくれるということも期待できる。その上、広大な荘園を所有する比叡山が、その広大な荘園を朝廷に返還するのでなく、寄進することには大きな意味があった。

 この話は再開した朝議でも大きな衝撃を与えた。そして教通をはじめ、四納言、その上頼通がその持つ広大な荘園の大部分を朝廷が管理することを条件に寄進することを宣言した。これには反対派も朝廷に寄進し、管理を朝廷が宣下を行う将軍が管理する武家を指名するという考えに同意せざるを得なかった。関東の混乱を早急に解決するためにも、頼信の申し出を認めることとなった。

 その後、興福寺をはじめとする奈良の寺社も、その存在を誇示するように道を整備し、あれ地を開墾し、水路を引き、多くの荘園を朝廷に寄進しはじめた。僧兵はその力を民のために使うことを競い始め、その功徳だけで僧位を上げ、立派な勤労僧となって行った。


 甲斐に留まっていた源頼信、頼義親子は都から宣旨を受け取ると、能信と分かれ、平直方のいる鎌倉に向かうこととなった。能信は鞍馬山から鬼一法眼が到着すると、奥州へ向かっての旅に出た。


 十兵衛は、朝廷の決定を待つ間に、稲荷山の指定された18ヶ所と機能していない2カ所に「おかえりなさい」を設置して、鞍馬山に向かった。


「これは面白い装置だな。コピーしてもいいか。」

 クマラは十兵衛が持参していた香炉型歴史改変感知装置「かめさん」を複製(レプリケートー)した。

「本来の歴史からの変更の大きさで煙の出方が変わるんだな。」

「ああ、煙が少ない分には修復可能ということだ。」

「で、今回の忠常の乱は修復可能なのか。」

「発生が四年早くて、終結が七年早かった上、平直方の娘はまだ五歳。せめて頼義と婚約してもらわないと、十五年後に義家が生まれない。」

「頼義と直方には関りはあるのか?」

「本来は直方で解決しなかった『平忠常の乱』を源頼信、頼義親子が終わらせて、頼義の武者ぶりに直方がほれ込んだことになっている。」

「じゃあ、娘より直方か。」

「とにかく、義家をはじめとする三兄弟が誕生しないと、歴史が大きく変わる。」

「で、俺たちに監視させようってことかい。」

「ああ、できるなら歴史通り結婚させて、十五年後に義家を誕生させてくれ」

「わかった。最悪惚れ薬飲ませてでも何とかするよ。」

 十兵衛は、これから頼義を追って鎌倉に向かう前にもう一つ片づけておきたいことがあった。

「それで、静くんは今どこにいるんだ?」



 静円の僧房は修行していた岩場に近くにぽつんと立っている一間の小さな庵であった。

「十兵衛さん。お久しぶりです。」

 静は子供っぽさが残る顔と声で、大人びた口ぶりであった。

「話だと、この山まで浄化したらしいね。」

「浄化はわからないですけど、みんな親切にしてくれます。」

「それは良かった。それで静くんを見込んで六百年後のみんなからお願いがあるんだ。」

「静円です。話は聞いています。」

「え、誰から?」

「ヴィーナスさんが時々やって来て話してくれます。」

「じゃあ、これを」

「『かめさん』ですね。変な名前だって言ってましたよ。」

「あいつら元々なんかズレてるしな。それで、歴史の監視者の役割をお願いできるのか。」

「私もいろんな方から命じられています。」

「いろいろな方?」

「はい、如来様、明王様、観音様、空海様、最澄様、小角様……。」

「仏界最強だな。」

「仏界としても見過ごせない事態なのだそうです。」

「そうだろうな。」

「私はもっと修行を積んで法力を上げないと歴史の監視者の役割を果たせないそうです。」

「そうなのか。受戒までの間には実家に顔を出して安心させてやれよ。」

 それを聞くと静は一瞬、泣きそうな表情を浮かべたが、唇を強く引き結んだ。

「はい。母を無事天界に送ることが私の役割なのだそうです。」

「それは、辛い役目だな。」

 十兵衛の目にも小式部の臨月が迫っているのが分かった。静の弟の誕生、それが小式部の入滅の原因になることは史実であった。知らされていない静も修行を急がせる仏や霊たちによってそれを感じ取っていた。

「それが、役割ですから」

静は自分に言い聞かせるように、ぽつんと言った。


「十兵衛さんはこれからどうするのですか。」

「頼義殿の後を追ってから、奥州に向かうかな。クマラが手を貸してくれるそうだ。」

「悪霊に立ち向かう時には、呼んでください。」

 静は前鬼を通してクマラとは連絡がつくようであった。

「頼義殿がいて、奥州には鬼一殿が行くから、大丈夫だよ。」

そういって、十兵衛は山を下って行った。


【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

自分の役割を意識すると人は成長するものだ。

立場が人を作るって言うぞ。

事態が.動き始める。

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