叡山の決意
おじいさんのありがた~い おはなし。
十兵衛は、20個の異界返送器「おかえりなさい」と2つの香炉型歴史改変感知器「かめさん」を持って六百年前の世界に戻った。
早速、稲荷山に着くと、藤原保昌邸に向かった。
「保昌殿、頼義さん達の情報は入ってますか。」
「甲斐から動けずに駐留しているらしい。兵糧の都合らしい。」
「兵糧?」
「直方殿に与えられた兵糧米徴収権を悪用する京畿の武士団と、荘園を取り込もうとする貴族や寺社が跋扈して、安房、下総、上総の三国はとんでもない状態になっているそうだ。」
「戦は起きないのか?」
「それは収奪しつくした後になるだろうな。」
「なぜ貴族や寺社がいるんだ。」
「それだけ安全だということだな。忠常の残党である良文流平氏の領地を奪いつくしてから、終戦にするということだろう。」
「そんなことが許されるのか。」
「源頼信殿が事態の解決のため、関東の武家に納税を条件に領地を管理させることと、その任免権を頼信殿に与えることを求めている。能信殿が同行しているからその知恵だな。」
「武力よりも政治の戦いになっているんですね。」
「ああ、もう常忠の残党はとっくに戦意を失くしている。今、戦いは荘園を増やしたい貴族や寺社が、朝廷内で起こしているのさ。」
朝議は紛糾していた。
能信を通して送られた源頼信の提言を、「征夷大将軍」としての職務権限内であるとして荘園改革を進めたい内大臣の教通と、四納言。それに対して権益を求める公家衆や寺社は老齢の太政大臣藤原公李、右大臣藤原実資を担ぎだして抵抗した。一番の権力者、関白右大臣藤原頼通は双方に挟まれて決断しかねていた。
最終的には十六歳になったばかりの後一条帝の裁可を求める形となっていた。後一条帝には春宮大夫であった藤原斉信から状況の説明が行われていたが、反改革派の巻き返しもあり、帝自らの聖断は下せずにいた。
一旦休憩を取って控えの間に戻った頼通に教通が食い下がった。
「兄上、なぜ認めないのですか。」
「教通よ。寺社からの反発が強いんだ。父の法成寺を認めないとか、仏罰で破門するとか。それに便乗してくる数代前に摂関だったという藤原の一族。簡単に決められないよ。」
「能信兄がいれば、反対派をまとめてくれるのでしょうけど、能信兄も頼宗兄も謹慎中。」
「荘園整理は利権が絡む分、本当にもめるな。」
そこに官人が来客が面会を求めていることを告げた。
「だれですか?」
「比叡山の院源僧正だよ。いつもは代わりのものが来るが、自ら来たようだな。まあ、関東の利権だろうな。」
「果たして、そうでしょうか。」
「まあ、話を聞いておこう。」
院源僧正は部屋の前まで付き添いの僧に支えられて現れたが、殿上ではよろよろとしながらもしっかりと歩いて二人の前に座った。
「これは僧正、遠いところをわざわざおいでいただき申し訳ありません。」
「教通殿もいらっしゃるとは好都合ですな。」
「いかがなさいました。」
「いくつかお二人に話しておくことがございましてな。」
「はい、どのような。」
「まず、わが比叡山延暦寺は所有する荘園の管理を朝廷にお任せいたします。」
「管理を朝廷に任せる?」
頼通は考え込んだが、教通はもちろん理解できていた。
「では、朝廷が管理し、そこから上がる税から延暦寺に納めるということですね。」
「それはどういうことになるのだ。」
「比叡山に朝廷が報酬を支払う形になります。また、荘園の管理取り締まりという名目で入山させていた僧兵が必要なくなります。」
「僧兵がなくなるのか。」
院源が教通に軽く頷いてから後を継いだ。
「彼らには、国や民に奉仕することで徳を積ませます。今、元僧兵たちは道を普請し、橋を架け、荒れ地を耕し、水路を築いています。」
「それは墾田を寺所有にするということか?」
「いえ、荘園も墾田も朝廷に寄進いたします。」
「そんな利益にならないことを」
「彼らはそれが功徳を積むことになるのです。そうやって寄進されたものを私有しようとする公家は……。」
「仏罰があたるというか、仏敵になるな。」
「兄上、その荘園の管理は、将軍が指名する武家に管理させましょう。」
「朝廷に寄進することで国としての保護を受ける。他の寺社も続くでしょう。」
「荘園の公地化、朝廷が指名する将軍、将軍が指名する武家、武家が管理する荘園か。僧兵の廃止。なるほど、教通が考えていることと……そういうことか。」
「はい。しかし院源殿自ら動いてくれるとは思っていませんでした。」
「まあ、あの僧兵たちが納得して、勤労奉仕に励んでいるとは驚きだな。一体どうやって納得させたんだ。」
「全て、静円殿の御働きです。」
「静円?」
「静さまですよ。」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
いつの世も利権に群がるものは多いが
世間の目には弱いものじゃ。
日本の仏教改革始まる。




