田村麻呂
おじいさんのありがた~い おはなし。
そこに大きなお腹をした小式部が真子と共にやってきた。
「頼義さんいらっしゃい。関東遠征ですって」
「ええ、挨拶に来ました。」
真子が大人の女官の姿をしているのを見て頼義は目を見張った。
「真ちゃん九歳で内侍になったって聞きましたが、本当だったのですね。」
「ええ、今は真子と呼ばれております。」
頼義まだ幼い声で大人のような返事をされて、思わず笑みを浮かべながら
「道鏡を封印したって聞きました。お手柄でしたね。」
「頼光さんや四天王さん、それに晴明様が助けてくれましたの。」
「みんな故人じゃないか。それで真ちゃんの手柄になったんだ。」
「天狗さんたちが、おっきな石の柱作ってくれて、吉平さんが封印の札貼ってくれたの」
いつの間にか普段の言葉遣いになったこともおかしかったのだが
「吉平さん以外は口に出せない人ばかりだな。」
頼義は苦笑いするしかなかった。
「そうそう、田村麻呂様がどうしても話がしたいんですって。」
「私とですか?」
「いいえ、阿弖流為さん。」
頼義は八幡様のお守りを握り、真子はそっと十兵衛の手に触れた。
<阿弖流為、そこにいるのだろ。返事をしてくれ>
<アッ、タムラマロダ。ゲンキカ>
<いやもう死んで百年以上たってるぞ。>
<ソウカ、モレモイルゾ>
<お前に頼みがあってきたのだ。俺と一緒に蝦夷に向かってくれ>
<エゾニカエリタイ、デモ ハチマンサマト ヤクソクシタ>
<その守る源氏のためにもお前がいるんだ。>
<ゲンジマモル ドウヤッテ>
<悪霊たちが、蝦夷の民を利用して反乱を起こすんだ。それを止めたい。>
<エゾノ ミンナ オコッテルヨ トメラレナイ>
<利用するのは大和の奴らだ。>
<ヤマトニ リヨウサレルノカ>
<それで、この国が滅びてしまう。>
<ヤマト ホロビルノカ>
<蝦夷の民もまとめて属国にされて、奴隷として売られるんだ。>
<ソレ ホントカ>
「ああ、六百年後の未来から来た俺が見てきた。」
十兵衛が思わず、言葉に出したが、阿弖流為にも伝わったようであった。
<北と東と西に分かれて争っている間に、大陸から攻められるそうだ。>
<ナンデ ナカマワレ……キタハエゾカ>
<いや、蝦夷を利用した奴らが力を持ち過ぎたのだ>
<ソレハ アクリョウノ セイカ>
<本当は皆が力を合わせて追い返すんだが、争いを大陸に利用されるんだ。>
<ジャア エゾノ ミンナガ チカラヲ カサナイヨウニ スルノカ>
<源氏に味方するか、北の大きな島に移住するかだな。>
「史実では蝦夷を利用した安倍氏が、朝廷に逆らって、六十歳を越えたこの頼義殿が九年間も戦って、そのあとその領地をめぐって更に三年、十二年も戦があるんだ。」
「私はそんなに長く戦うのですか。六十歳を越えた私が?」
「まあ、頼義殿の子が活躍するんだがな。」
「八幡様も言ってたな。その子いつできるんだ?私は未婚だぞ。」
「それは言えないけど、まあそのうちわかるさ。」
「それで、奥州を従わせればいいのか?」
「いや、支配者が変わっても金が大量に見つかって、また力を持つことになるんだ。」
「では滅ぼして朝廷が支配したら、どうなるんだ。」
いつの間にか十兵衛と頼義の話に霊たちも聞き入っていた。そのとき部屋の板戸が空いた。
「その話、俺たちも混ぜてくれないかい。」
そこには能信が立っていた。十兵衛と、頼義は思わず刀に手をやったが、能信と一緒に出てきた人物を見て二人は手を止めた。
「みんなを驚かせたようですね。このことは内密にお願いしますよ。」
教通がにっこりと笑った。小式部も皆の驚く様子を見て笑った。
「今の朝廷なら、奥州やら金山やら手に入れたら、公家どもが自分の荘園にしちまうな。」
「そうですね。滅ぼさずに従わせた方がいいですね。」
「まあ、それで今のボロボロの御所もまともになるな。」
能信がまともなことを言っているのに十兵衛も頼義も驚いていた。
<ソレデハ エゾノミンナ ドウスル>
「元の歴史では、奥州の勢力が滅亡しかかった源氏の将軍を匿うんだ。それでその力を借りて、鎌倉の源氏を助け、朝廷を支配していた武家を滅ぼす。しかし、その将軍は鎌倉に追われて奥州に逃げる。奥州は最初は匿うが、裏切ってその将軍を殺してしまう。そして鎌倉に滅ぼされる。」
「その将軍っていうのが十兵衛の言っていた『薄緑』を持つことになる奴なんだ。」
「ところが、奥州の勢力と、朝廷が強すぎて、鎌倉が統一できないんだ。それで争っているところに大陸から侵攻されて、更に奥州が大陸側に味方して挟み撃ちにされてしまう。」
「朝廷は真が道鏡を封印したから力は持ちませんよね。」
「それはわからない。朝廷内の対立を利用して武家政権が作られることになる。」
「朝廷を支配していた武家ってやつか。ただな俺は思うけど、元の歴史から外れすぎてはいけないと思うぜ。」
「そうだな。二百五十年後に国内が一丸となって撃退したというのが元の歴史。そこにたどり着くための流れを考えるべきだ。」
<そこで、奥州と蝦夷を上手く使うんだ>
「そうだな。」
「え?」
十兵衛と頼義がうなずいているところで、小式部はそっと教通の手を握った。能信だけが何が起こっているのか霊の声は聞こえない。
「真子、能信さんの手」
真子は嫌そうに母の言葉に従った。さすがにまだ嫌悪感は消えないようだ。
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
昨日の敵は今日の友だぞ。




