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堀河右大臣

おじいさんのありがた~い おはなし。

 定頼が比叡山に、頼宗を訪ねて数日後、頼宗の出家予定が取り消され、謹慎も解かれることとなった。   

 ただ頼宗は能信と共に自主的に三か月の間、参内を自粛することにした。


 この三か月の間、頼宗は古今のあらゆる歌集はもちろんのこと、私的な歌集、物語や文献に取られている和歌を読みあさっては覚え、口にした。そうしているうちにその和歌を詠んだ歌人の心境を考えるようになった。詞書や記録などからその背景がわかるものについてはそれを読み、それでもわからないものは、その度定頼にたずねた。定頼は次第に自分には答えられないような質問が出始めると、自分も学ぶとともに父の公任に教えを乞うた。


「ふむ。頼宗殿がこのようなことを」

 頼宗はただ質問するのではなく、自分はこう解釈すると、まず自分で推論を出した上での質問を繰り返したので、その心境や技量の進歩は公任にも手に取るように分かった。


「定頼、今度、頼宗殿を連れてきなさい。」

 公任邸を訪れることを許された頼宗は、教通が来ているときも構わず、毎日のように公任邸を訪れ、教えを乞うた。次第に公任にも解釈が分かれるようなものや、微妙な心理を歌ったものが話題となった。

「頼宗殿、もうあなたは私と共に和歌を語ることができる。」

と、ついには公任も認めるような和歌に対する深い理解を見せるようになった。その評価に頼宗は少しうれしそうな顔をしながら

「いえ、人の心を言の葉に紡ぐのは、どれほど難しく、奥が深いことなのかが分かり始めてきました。まだまだ公任様の域には到底届きません。」

「それは、わしがこの道に身を入れて学んだ年月との差ですよ。頼宗殿もこれから、今のように精進することを続けることです。」

頼宗は公任の文机に置かれた三つの紙の山をみた。どの紙にも和歌が書きつけられている。そして、それぞれの山にある和歌を読み比べ始めた。

「これは、こちらが文句なしにいいもの、それから悪いもの、評価が微妙なものですね。」

「そうじゃ、しかし全て、もう一度時間をおいて見ることにしておる。」

「悪いと思ったものの中にも見るべきものがあることを知るためですか。」

「いや、良いと思ったものももう一度時間をおいて読んでおる。」

「それはなぜですか。」

「それは読み手の私の心じゃ。読む側の心の持ちようで受け取り方も変わる。」

「同じ歌なのにですか。」

「歌は誰かに自分の思いや、感動を伝えるために書くものじゃ。」

「詠み手の思いや感動ですか。」

「そう、そしてそれを生かすのが技量だ。そのための技巧の工夫なのじゃ。」

「今まで私は、古来誰かが使って評価の高い表現を取り入れれば上手い歌になると思っていました。でもそれは浅い解釈でした。どのような思いを伝えるためにその表現、技巧を凝らしたのかを考えることなしに詠んでいました。それで私の歌は上手いけど平凡だと評されていました。本当に最近になって………。」

 頼宗は気づいたら涙を流していた。

「思いや感動を言葉に紡ぐのは難しいことじゃ。わしもずっと苦しんで、悩んでおる。」

「公任様もなのですか?」

「和歌の道は一生の精進じゃよ。今までの歌に満足してはならぬのじゃ。次の一首、次の一首とより良きものを詠むように己を磨くのじゃ。」

「ありがとうございます。精進いたします。」


 藤原頼宗はその後、精進を重ね紀貫之・平兼盛と並び称される程の歌人へと成長し、「堀河右大臣」として、和歌の歴史にその名を残すことになる。その孫の基俊は、後の御子左家(長家の子孫)の和歌の隆盛を導いた藤原俊成(定家の父)の師となった。



「十兵衛殿、歴史は修正されたのかわかりますか。」

 関東への遠征が決まった源頼義が、藤原保昌に挨拶にやってきた。しかし、目的は十兵衛に会うことであった。

「いや、もう怖くてなかなか戻る気にならん。」

 十兵衛は大江山騒動以来、保昌宅に長逗留している。

「じゅうべー、あそばー」

「じゅーべー、じゅーべー」

 四歳になった(うた)と、二歳になってよちよち歩き始めた(まどか)が十兵衛の背中に乗ったり、袖を引っ張っている。よく見ると二人とも左目に眼帯をしている。

「しかし、すっかり懐かれたものだな。」

「保昌さん忙しいし、小式部さん身重だしで、すっかり子守になってる。」

「お揃いの眼帯は?」

「小式部さんが作ってくれた。二人ともこの通り大喜びで……。」


「なあ、十兵衛。この遠征は歴史にあるのか?」

「ああ、ただしまだ実際より数年早いが、本来なら関東に忠常が健在だ。」

「忠常の子たちが関東の武士たちを集めて抵抗しているということだ。で、やはり悪霊は憑いているのか。」

「多分な。ただ教通殿がいい対策を出してくれた。」

「関東武士を源氏の指揮下に置くという案か。」

「上手く、関東から荘園制を崩していこうという考えだな。」

「不満を失くせば悪霊も利用できなくなるのはいいとして、今憑いていると思われる悪霊はどうしたらいいのだ。」

「解放されてたりして帰国した兵たちにまぎれて関東に行ったらしいがな。」

「いや、だから俺はどうしたらいいんだ。」

「八幡様に祈れってさ。」

「誰がそんな無責任なこというんだ。」 

「観音様だよ。」

 頼義は首に掛けた八幡様のお守りをぐっと握った。

<日本の未来と、源氏の将来はあなたの動きにかかっていますよ。>

 頼義に八幡様の声が聞こえた。


【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

真の自信はたゆまぬ努力からじゃぞ。

史実と虚実が混ざってますが、歌論は概ね合っていると思います。

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