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藤原公任

おじいさんのありがた~い おはなし。

 四条大納言藤原公任は関白であった藤原頼忠の長子で、摂政関白を務めた藤原実頼の孫、そして摂政関白であった藤原忠平の曾孫、そして最初の関白であった藤原基経の玄孫である。つまり四代続いた摂関家の嫡子であった。また母は醍醐天皇の孫、妻は村上天皇の孫と、藤原家の中でも名門中の名門の出身であった。まだ若かった頃は、後に三舟の才と称えられる文芸の才もあり、順調に昇進を重ねていた。しかし一条帝になってからは、同じ年の道長にあっという間に位階を抜き去られ、十四年間も昇叙が止まり、蔵人頭を三年半も務めるなど参議になるのにも時間がかかってしまった。そして一歳年下の藤原斉信にも昇叙が遅れた際には、辞表を出し七か月間も参内をしなかった。しかし、道長との仲は良好で、その後は一条帝の四納言として活躍することになる。

 道長の権威が高まり、公任自身は教養人としての名声が高まると、自分の立ち位置を悟ったのか、昇進にこだわることはなくなった。教通に長女を嫁がせ、養女として小式部内侍を嫁がせる頃には、子の定頼、婿の教通、そして孫たちや、多くの歌人たちの相談役、師としてその教養を生かしていた。


 教通は、比叡山から戻ると公任邸を訪れた。義父でもあり師匠でもある公任に相談事を持ちかけるのはもう十年以上も続いた習慣であった。


「ふむ。それで能信殿は話がついたということかな。」

「はい、あえて嫌われ役をお願いしました。」

「それで、教通殿が調整役ということですな。」

「はい、これで朝廷や公家が対立して目先の利益だけを追いかけなくなるとよいのですが」

「そうじゃの。日本が亡びると元も子もないわけだしな。それで、頼宗殿はどうなさるのかな。」

「今日は、その件でご相談に参りました。頼宗兄とは冷静に話せそうもないのです。」

「乱暴な能信殿の方が話しやすいとは……。もちろん小式部ちゃんが原因ですよね。」

「そうなんです。自分のところにこないと不幸になるとか、保護するとか。話になりません。そのくせ大弐三位さんも熱心に口説いているようですし、訳が分かりません。」

「それは彼の自信のなさが原因じゃな。」

「自身のなさ?」

「わしは若いころは順調に出世しておったんじゃ、ところが一条帝になって、道隆殿、道長殿と権力者が代わっていくと、同年や年下の貴族たちにどんどん抜かれて行くようになってな。自分の才に自信があっただけに縁故で出世が決まる貴族の世界に失望したんじゃ。」

「義父さまは、名門中の名門ですからね。不満も出るでしょう。」

「どころが、官位が低い私にも和歌の世界では、皆が敬意を持ってくれるのじゃ。ちょうど、勅撰集選者になれるような歌人がいなくなっておったんじゃ。それで、わしはこの道を支えるのがわしの使命だということを悟ったのじゃ。そうなるとな。官位とか叙勲とか些細なことに思えてきたのだよ。わしが相手にしているのは古今の大歌人だとな。」

「和歌の道で自信を持ったということですね。」

「そう、一つでも自分に自信が持てると、心に余裕ができるものじゃよ。」

「頼宗兄は、和歌には自信があるようですが、最近は末弟の長家の評判を気にしてまして」

「長家殿は独創的で優秀です。それに対して頼宗殿の和歌には芯がありません、常に評判のいい誰かの作品の模倣になっていますな。評判のいい誰かと同じような歌を詠めれば自分の評判が上がると評判ばかりを気にしていますな。」

「それで、女流歌人ばかりを追いかけているのでしょうか。」

「そうすることで、自分の歌の力量が上がると思っているのでしょうね。」

「だから、よく小式部が『頼宗殿には自分がない』って言っているんですね。」

「自信はたゆまぬまっすぐな努力の中から生まれるもので、評判は後からついてくるものじゃよ。それがどうやったらわかってもらえるかじゃな。」

 公任と教通はここまで話して、頼宗の更生には和歌であろうとは思うが、本人の努力、精進がないとどうにもならないことに打つ手がないという雰囲気になっていた。


「父上、教通殿。私に任せていただけませんか。」

 途中から二人の話を黙って聞いていた定頼が、話に入ってきた。

「義兄上、何か考えがあるのですか。」

「はい、偉大な父の子として自信が持てなかったところが、私が頼宗殿に通じる部分があると思うのですよ。」

「うむ。お前はある時から、わしを驚かすような歌を詠むようになったな。」

「はい。私は父の子であることを忘れました。大歌人公任の子だから父に恥じない歌をと意識して自分を忘れていました。まず心を磨き、一人の人としての思いを形にする、言葉と技巧ということを考えました。」

「うむ。もうお前は公任の息子ではなく、一人の歌人、藤原定頼じゃよ。」

「それで、義兄上、どうするおつもりで」

「すでに、手は打っています。まずは古今の多くの歌集を送りました。」

「ああ、山では古歌を一日読んでいると聞きましたが、義兄上が贈られたのですか。」

「しっかり読んでいるようですね。それならきっとうまく行きますよ。」

「なるほど、古来よりの歌の心、幾万もの歌が心にあればそこから見えてくるものがあるだろう。まさに温故知新じゃ。」


 定頼は自分がまず一人で頼宗と話をすると、比叡山に出かけて行った。


「定頼も立派になったのう。」

「いえ、義兄上には助けられてばかりですよ。義父上を紹介してくださったのも義兄上ですし、小式部についても本当にお世話になりました。」

「ふむ。まあ我が家は安泰かの。それで、斉信の娘とは?」

「いえ、三条帝の娘、禔子(しし)様を継室に迎えます。」

「なるほど、頼通殿が断った娘じゃの。小式部ちゃんはそれでいいのか?」

「賛成してくれました。これで安心だと」



【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

自信はたゆまぬ努力からじゃぞ。

公任親子は順調ですね。

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