異母兄弟
おじいさんのありがた~い おはなし。
頼通は宣旨を出すために内裏に戻っていった。頼通を見送りに倫子が出て行って、教通は横になる道長と二人きりになった。
「教通、わが藤原家はどうなるのだ。」
教通はここで、十兵衛から聞いたすべてを話すことはできなかった。きっと今の兄なら藤原摂関家の力を維持する方向に、不満を持つ勢力を排除していくだろう。それは下手をするとこの国を消滅させることにつながるかもしれない。
「武家が力を持つ時代が来るのか。」
「はい。」
「その時の朝廷の立ち位置は?」
「本来の歴史では、源氏の将軍が武家の棟梁として鎌倉に幕府を開きます。源氏の将軍が三代続いた後は親王が将軍となり、赴任しますが、幕府の実権は執権と呼ばれる武家が主導するようです。」
「うむ。ここが落としどころじゃな。」
道長には武家が関東に幕府を開くという事態が理解できた。東国は武人の国である。
「はい、将軍は朝廷しか任命できません。」
「うむ。将軍宣下は朝廷が行う。それによって対等な協力関係を構築する。」
「父上、そのためには土地制度を改革しなければなりません。」
「荘園か。」
「はい、現在の武士団は荘園領主を兼ねたり、雇われています。そして、その荘園は摂関家に寄進されています。」
「直接、領地を持たせる代わりに税は納めてもらう。」
「それですが、なるべく軽くして、代わりに兵役を担ってもらいます。」
「うむ。」
「ただこの領地を将軍から功績のあった武家に下賜させます。これによって武家は将軍に忠誠を誓います。そして、朝廷がその将軍に宣下と領地を下賜します。」
「まあ、結局人をつなぐのは実利じゃからな。」
「ただここで邪魔になるのは、公家や寺社が私有する広大な荘園です。」
「じゃな。かなり強い反対があるだろうな。」
「この後、南都興福寺や比叡山は、その広大な荘園を背景に僧兵を組織します。」
「寺僧が武器を持つのか。」
「その武力を背景に朝廷に要求を始めます。」
「なるほど神仏を盾にするのか。」
「今のうちに、荘園の整理と共に寺社が兵力を持つことを禁じる必要があります。」
「確かに今は荘園の警備に武装しているものを雇っているようじゃな。」
「寺社の警備は武士団に任せましょう。」
「うむ、その武士団が後の将軍の家来となるよう、今から頼信や保昌に指揮させよう。」
「それはいい考えですね。」
「この国の者すべてが力を合わせねばならぬ国難じゃからのう。」
教通は法成寺を出ると、比叡山に向かった。
出家を前提に能信と頼宗は、従者から離され、延暦寺から少し離れた無勤寺に幽閉されていた。ここは二人の兄弟顕信が出家した寺であった。
「最近落ち着いてきたようで、頼宗兄は古い和歌を読み、能信は史書を読んで生活しているようです。」
二人が幽閉されている坊まで、法名、長禅となった顕信が案内した。
「従者たちに問題がありましたからね。」
「ええ、早速問題を起こして、懲罰坊に入れられました。」
「奴らを操っていた悪霊は離れたはずなのですが、本質は変らなかったのですね。」
「検非違使が連れに来ると連絡があったそうです。」
「彼らがここまでやってきたことは重罪にあたることが多かったので、多分一生牢からは出られないでしょうね。」
教通は二人の兄と従者たちを比叡山に送った際、除霊を施すように依頼していた。従者たちは、追放しても蘇我親子の怨霊に再び利用されることを考えると、処刑するか、牢に監禁するべきだが、悪霊に利用されただけであったのなら重罪にするのも気の毒に思っていた。しかし、霊が去っても粗暴な性格は変わらないと聞いて、この一件が解決するまで牢に監禁しておこうと考えた。
「教通、失脚した俺を笑いに来たのか。さぞ面白かろう。」
能信がいる部屋に入ると、能信は読みかけの史書を置き、教通に挑発的な目を向けた。
「兄上、今日はご相談があって参りました。」
「俺の出家の日取りが決まったのか。」
「能信兄の力が必要なんです。」
「おや、頼通に反抗でもするのか。」
「最終的にはそうなるかもしれません。」
軽口を叩いていたつもりの能信は、真剣な教通の表情にただならぬ決意を感じた。
「それではお前もここに来ることになるぞ。」
「まず、私の話を聞いてもらえますか?」
教通は、藤原氏に恨みを持つ、悪霊たちの働きの結果、200年後に日本そのものが滅びてしまうことを話した。
「そんな未来のことがわかるのか。」
「未来は今の行動の結果です。今のわれわれの行動が将来のこの国に影響を与えてしまうのです。実際、今回の大江山の事件の結果、歴史が変わり、日本が滅びてしまったのです。」
「じゃあ、その前は滅びなかったのか。」
「はい。最初は大江山の銅像が、600年後には別の人物に変わるという小さな変化でしたが、今回は日本がなくなり。朝廷が滅びるという最悪の変化が起こったのです。」
「どうしてそんなことになるんだ?200年後に何が起こるんだ。」
「外夷が攻めてきます。」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
敵対している相手と腹を割って話すことで
解決することがあるぞ。
この二人初めてまともな会話をしたのかも




