戦後利権
おじいさんのありがた~い おはなし。
一通り話が終わったころに頼通が報告に現れた。
「父上、平忠常とそれに協力した者たちの所領を受領に向かった平直方ですが、」
「ああ」
「解任しろと、公家衆や寺社がうるさいのです。」
「受領が遅れているのか?」
「一族が頑強に抵抗しているのに加えて、公家衆や寺社が乗り込んで、自分の取り分を主張しているのです。」
「今回、公家で働いたものはいたか?」
「自分の家で雇っている武士団が活躍したとか主張しています。」
「寺社って、経をあげて結界を張ったり、怨霊を払ったのは静だぞ。」
「それが、受戒も受けていない子供にそんなことができるわけがない。悪霊を祓えたのは我々が加持祈祷を行ったからだとか。われわれが守護していたからだとか言って」
「それでは、直方も困っているだろうな。」
「陣中に使者を送って、自分の欲しい領地を没収するように指示したり、少しでも良さそうな領地には勝手に柵を立てたりしているそうです。」
「困ったものだな。」
「それで、自分の思うとおりにならないからと、こちらにも苦情を言ってくるんですよ。」
「兄上、それだけではありませんよね。」
頼通は少し、困ったような顔をした。教通には起こりうる状況が容易に想像できた。
「ああ、まだ確保していない荘園を私に寄進して、私の名を借りて摂関家の物だと言って、自分のものにしている者も出ていて……。」
「今回は公が没収することになってますよね。」
自分たちは一滴の血も流さずに、戦後処理のどさくさに自領を増やそうと群がる公家衆や寺社に教通は吐き気がした。荘園という制度自体を変えないと朝廷は持たない。
「父と兄に話しておきたいことがあります。」
「なんじゃ、改まって」
「これは、大江山の事件の後、十兵衛から聞いた話です。
「未来のことか。」
「はい。」
教通は十兵衛から聞いた変更された未来について語った。当然、日本が大陸の支配を受けることになるという話は衝撃を与えた。
「それでは、今回の道鏡封印でどうなったかじゃな。」
「奥州政権という問題が残っていますね。」
二人は実際に十兵衛に会っているだけに、事の信憑性について間違いはなかろうと、それぞれに考え始めた。海を渡っての外夷の侵攻がありうることは、近年、壱岐対馬や筑紫の北部に女真族が侵攻し、なんとか撃退した「刀伊の入寇」という事件も起こり納得できた。
しかし、日本が消滅するという未来はあまり想像が出来なかった。
「わざわざ海を渡って来るのだから、上陸するところで迎え撃てばよいのではないか。」
「対馬、壱岐と道筋もわかっているのだから迎え撃つ準備をしておかなかったのか?」
「その二島を通るルートで一度目は五万、それから二度目は十六万の大軍なのだそうです。」
「今回は対馬でかなり抵抗できたから、筑紫に上陸しても駆逐するのはたやすかったぞ。」
「そうです。父上、そうやって来襲したのは三千にも満たない兵力でした。しかし、その元は、あの宋を滅ぼした上に桁違いの戦力を従えて来襲するのです。」
「それでも、改変される前の歴史では撃退できたのだろう。」
「はい。朝廷が全国の武士団の指揮権を将軍に与え、挙国一致で撃退したとのことです。」
「朝廷が指揮したのではないのか。」
「ええ、前回の『刀伊の入寇』で実際に撃退したのは朝廷貴族でしたか?」
「いや、大宰府の指揮の下、地元の武士団が……。」
「大宰府の役人は戦いましたか?」
「いや。戦ったのは武士団だ。」
「それで、一番褒美を受け取ったのは?」
「………大宰府の貴族と、寺社だ。」
「武家には?」
「新たな領地が入ったわけではないからのう。官位を与えたくらいだな。」
「それで、彼らは黙って従ってくれますか?」
「そうじゃの……。」
「あの時でさえ、貴族や寺社には恩賞として公地を分け与えました。今回、忠常を退けたのは頼信、保昌ら武官たちが指揮する武士団でした。ところが、房総の利権を求めて公家や寺社が群がっています。」
教通は房総のかなりの荘園が頼通に寄進されようとしていることをを知っていた。それでは今回朝廷に従ってくれた武士団からも不満を持たれることになる。
「そもそも、なぜ兄上は平直方を派遣したのですか。」
「それは公家衆からの強い推薦があってな。坂東は平氏の縄張りだってな。」
「戦ってもいない武家貴族に坂東武者が従うと思いますか?」
「今回は頼信の働きは見事だったと聞いてるぞ。頼信に任地を与えないのか?」
「いえ、父上、頼信には将軍位を授けました。」
「あのな。われらに忠実な頼信親子まで遠ざけるのか?」
「朝廷や我々が信頼をおける者に東国を任せて統率させないと、また不満がたまると反乱がおきます。将門の乱、忠常の乱どちらも平氏ですよ。彼らは武を尊びます。」
教通は鎌倉幕府の話は聞いていた。源氏は頼義とその子の代で、関東武士たちを源氏の家来とした。将門以来の平氏の基盤を源氏のものとしたことが後の鎌倉幕府につながっていく、しかしその幕府が朝廷と敵対するものとなってはならない。朝廷の、日本の守護者としての幕府となってもらわなければならないと教通は考えていた。
「わかった。源頼信を派遣しよう。」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
いつの世も利権に群がるものはいるものじゃ。
いつの世にも利権に群がるものがいるんだよね。




