禎子内親王
おじいさんのありがた~い おはなし。
上東門院の居室の外でカラスがうるさく鳴いている。
「なんでしょう。不吉ですね。」
「ちょっと見て参りましょう」
和泉式部が真を連れて縁にでると、カラスがこちらを見ている。
「大ママ、あのカラス、頭が禿げてるわ。」
「そうね。変わったカラスね。」
<道満ですよ。緊急の要件らしい。>
真が腕を伸ばすと、その手にカラスが飛んできて止った。
<道鏡の奴が、元中宮の妍子を篭絡した。>
<それはいつの話だ。>
<最近だと思う。自慢げに話していてな。>
「娘の禎子ちゃんは?」
<狙いはそっちらしいんだが、これは時間がかかるって>
「三条帝が守られているのですか。」
<三条帝が生前、この子に護身の呪を施していたらしい。>
「幼い娘をかわいがっていたという話でしたわ。」
<この娘は将来の鍵となる人物になるらしいぞ。>
<ところで、あなたはなぜこんな姿に>
<いや、みんなで能信について比叡山にいったら、まとめて祓われた。>
「さすが、霊山ですね。」
<では、悪霊たちは>
<それぞれ、憑く奴を見つけたみたいだ。>
<わかりました。残りの二人のことも調べておいてくださいね。>
<わかったよ。それじゃ>
頭の禿げたカラスが飛び去って行った。
「どうしました。」
上東門院の部屋に戻ると教通が心配そうな表情で待っていた。
「ええ、やはり妍子さまが道鏡に取り憑かれているようです。」
「それについては今、報告があって」
「なんでも自分が雇っていた若い女官たちを集めて、若い貴族を呼ぶみたいよ。」
脩子が呆れた顔をして言った。
「今の妍子に従う人っているのかしら。」
「わかりやすいですね。さすが道鏡さん。」
「え、もう憑いているんですか。」
「篭絡されたみたいです。」
「でも本当の狙いは、禎子ちゃんだって。」
「禎子?」
「わたしですか?」
上東門院の隣には真とそれほど歳の違わない十歳ぐらいの女の子が、ちょこんと座っていた。
「はじめまして、私は真と言います。」
「あなたが評判の真さんね。いくつなの?」
「今、九歳です。来年裳着する予定です。」
「だったら、私がお姉さんね。私、彰子様に腰結いをやってもらったのよ。すごいでしょ。」
裳着とは女子の成人の儀式で、男子の加冠に相当する儀式で、親族の女性の有力者が介添え役を務める。彰子はこのちょっとおませな賢い禎子をとてもかわいがっていた。
「ね、真さん。静さんってどんな人?」
「兄ですか。本ばかり読んでるけど、とっても頼りになって、いいお兄ちゃんよ。」
「うんうん、それでそれで」
「今、修行の旅に出てるわ。」
「え?修行って山に籠ったり、滝の水にあたったりするやつよね。」
「滝は知らないけど、小角さんについて行ってるわ。」
静の活躍は同年代の子供にとって関心の種であった。
「ねえ、それくらいにして、禎子。」
「は~い。」
「で、妍子がどうですって、もう一度説明して」
「何日か前から様子が変なんです。夜中にうめき声が聞こえて見に行ったら、目がうつろで顔を赤くして、布団が濡れているんです。」
「それって……。」
「それが、毎晩続くんですけど、朝になると顔がつやつやしているんです。」
話の内容が理解できる女性たちは顔を真っ赤にしている。
「さすが、噂に違わぬ道鏡ですね。ていうか姉上も女なんですね。」
教通もこういうしかなかった。
「おじさん、何言ってんの。ママは女に決まってるでしょ。」
<これは、しばらくは道鏡は禎子さんには手は出しませんね。>
晴明の声に和泉式部だけが黙って頷いた。
<居場所がわかっている今がチャンスですね。>
「晴明さん。どうするの?」
<いいですか。ここで封印しましょう。>
「ここで、封印できるの。」
「え、真さん晴明様と話しているの?」
「わー、初めて見た。真ちゃんすごーい。」
<これからいうものを用意するように吉平たちに伝えなさい。>
「それから?」
<真さんの回りには優秀な悪霊退治隊がいるでしょ。>
「ああ、四天王さんたちね。」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
女にかまけて油断するとひどい目にあうぞ。
あの世からあいつらがやってくる。




