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枇杷殿皇太后

おじいさんのありがた~い おはなし。

「内裏の中に道鏡の悪霊ですか。」

「私たちが狙われてるのかしら。」 

 今や宮中の女性で最も力を持つ二人は心配そうに顔を見合わせた。

「ちょっと待ってください。」

 真は何やらこそこそと一人で話している。そして片手を祖母の手に重ねた。

「大丈夫よ。私にも聞こえてますわ。」

「和泉も霊と話せるのか?」

「私は悪意のない霊の声は聞こえるんです。」

「恨みを持つ女性が取り込まれやすいから、注意しなさいって、多少力がある人に注意って」

「恨みを持つ女性って、花山帝の時代から数えたら何人になるやら」

「亡くなったのは仕方ないとして、藤原氏のために失脚した人ですね。」

「近年でいうと、やはり三条帝と敦明親王の関係者ね」  

 

 三条天皇の実子、敦明親王は、当時の風習として次代の天皇(ここでは後一条天皇)の皇太子となることになっていたが、素行が悪く、何度も自身や従者によって暴行事件が起こっていた。温厚な定頼や実質の従者とまで問題を起こしている。また次代の摂関職を狙っていた能信との関係は良好で、頼宗とも親しくしていた。しかし、三条天皇が譲位し、後一条天皇の皇太子となったが、敦明親王の性格や、道長の権勢を恐れて、だれも東宮関係の役職に就きたがらず、結果十四歳も年下の天皇の皇太子を退位していた。

 道長は頼宗らの実妹、寛子を妃とし親縁関係を結び、准太上天皇としてその子にも親王の資格を与え厚遇することで懐柔していた。


「問題は、亡くなった延子妃とその父である元左大臣顕光殿ではありませんか。」

「それは正妻の座を奪われて、追放されたらねぇ。」

「うんうん、その二人は悪霊になっているって言ってるよ。」

「でも、生きているほうがもっと問題だとおっしゃってますわ。」

 教通の洞察に答えた霊の言葉を真が伝えると、和泉式部が補足する。

「あの真さん。それ晴明さまの言葉ですか?」

「いえ、多分一条さん。」

「え?主上がいらっしゃっているの?」

「お父上がいらっしゃるの?」

上東門院と、脩子が口々に驚いて、その話を聞こうとしている。

「まずは、家族を固めなさいって」

「こちらから恨みを買うようなことはしないこととですって。」

「家族?恨み……? 能信、頼宗は身贔屓って言われないように出家させたし……。」

「ああ、わかりました。」

 上東門院は、ある人物を思い浮かべた。その様子に脩子も思い当たったようであった。

「本来なら皇后として権勢をふるえ、太后としてその権勢をふるえたはずの人。」

「公費あれだけ無駄遣いしてくれましたからね。」

「私が言うことは聞いてくれないどころか、かなり嫌がらせを受けましたよ。」

 教通も脩子も誰のことか思い当たってしまった。

「妍子さまですか?」

 和泉式部がおそるおそる訊ねた。



 道長は源倫子との間の四人の娘を次々と入内させた。この時点では、後一条天皇の母であり一条帝の中宮であった長女の彰子、そして、三条天皇の中宮となった妍子、そして後一条天皇の元服を待って入内した現中宮の威子、そして現皇太子である彰子の子、後一条天皇の弟である敦良親王には末の娘の嬉子。

 結構無理があったようで、当時二十歳であった一条天皇の中宮となった彰子が十二歳で中宮に、既に四人の子がいた当時三十四歳の三条天皇の中宮となった妍子が十六歳、後一条天皇が十歳になるのを待って中宮となった威子が十八歳、十二歳の敦良親王に嫁いだ嬉子が十四歳。この歳の差を考えると妍子の十八歳差が最も大きく、妍子は皇太子を退位させられた三条天皇の子、敦明親王と同じ歳であった。


 妍子は道長の娘の中で最も美しいといわれていた。自らもそれを自覚し、自分回りの女官たちも能力よりも美しさ、華美さを基準とした。そして、それに惹かれて集まる若い貴族たちに様々な宴を競うように開かせた。子も一人生まれたが女児で、父の道長が残念そうな顔をしていたが、自分はまだ若い、三条帝も若い私の美貌に夢中だし。そのうち皇子も生まれる。敦明親王が顔を合わせる度嫌そうな顔をし、女児が生まれたときは喜んでいたことは気になったけど、若く美しい自分にみんながちやほやしてくれる楽しく過ごした五年間であった。しかし、あっという間だった。夫の三条帝が譲位し、出家して間もなく亡くなってしまったのだ。

 妍子は二十歳そこそこで一人娘をかかえて未亡人となってしまったのだった。前中宮ではあるが、皇母でもない。宮中はいろいろ小煩かった姉彰子が皇太后として、母倫子が従一位准三宮として君臨している。それに許せないのが父の道長だ。自分を十八歳も年上のおじさんに嫁がせたくせに、その三条天皇に譲位をさせたのは父であった。そんな実家に帰る気もなく、妍子は三条帝が残した枇杷(びわ)殿でひっそりと一人娘である禎子と過ごしていた。


「妍子をあちら側に行かせないためには……。」

「そうですね。娘の禎子さんが成人したら、敦明のところに入内させましょう。」

「嬉子が怒りますよ。」

「今は威子のところも男子が生まれないのですよ。一人でも身内を入れておかないと。」

「そうですね。まだ冷泉(故三条天皇の一族)や能信の勢力も侮れませんしね。」

「それには考えがありますわ。」

 上東門院はにっこり笑って教通に言った。

「あなたが、三条さんの娘さん禔子(しし)さんを継室にしなさい。」

「えっ、兄上が断った方ですよね。」

「だから、あなたがもらっちゃうの。」

「あの、彰子様、とりあえず教通様はうちの婿なんですけど」

「ママが増えるの?」

 黙って話を聞いていた和泉式部と真もびっくりしている。


「いい、ここだけの話として聞いて」

「今の摂関家は他に恨みを買い過ぎているの。」

「そうですね。今回の呪いもありますしね。」

「特に父上と頼通はやり過ぎたわ。」

「そうですね。朝廷よりも広い荘園とかないですよ。それで税収は減るばかりで、まともに納めない国主まで出ています。」

「だから、この後、男子が生まれない場合も含めて、その後に備えておく必要があると思うの。」

「そのための継室ですか。」

「いい、教通はそこのところに気を配っておきなさい。能信たちもうまく使うの。」


【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

歴史は女性が作るものじゃ。

少し重複しますが、歴史の勉強ですね。


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