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上東門院

おじいさんのありがた~い おはなし。

 和泉式部は、真を連れて報告のため宮中に向かった。

「そうですか。安らかに逝けたのなら、幸いですね。」

 上東門院彰子は寂しそうにそう言った。何度も再出仕を依頼したが、代わりに娘を出仕させ、自らは亡き定子に忠義をたてて隠棲していた清少納言とは亡き一条帝や敦康親王の思い出を語り合いたかった。下手な和歌を詠んで父の評判を落とすまいと、漢籍に力を入れた清少納言だけに「忠臣は二君に仕えず」を実践したのだろうと好意的には見ていたのだが、やはり自分の中宮時代の人々がいなくなるのは寂しい。     紫式部も最近は隠居と称して寺にこもりがちでめったに顔を出さない。


 十三歳で、まだ三歳になったばかりの定子の遺児、敦康親王の養母となり、年の離れた弟のように面倒を見て、母倫子と共に育てた。二十歳になって誕生した初めての実子、敦成親王が誕生しても、敦康親王に冷淡になった道長とは違い。その愛情は変らなかった。


 一条帝も彰子も敦康親王を皇太子にと望んでいたが、赦免されて政界に復帰した伊周ら定子の兄弟と、現在実権を持つ道長との対立を危ぶんだ藤原行成が、政治の安定のためにも敦成親王の立太子を進言し、一条帝はそれを受け入れ、さらに三条天皇に譲位し、出家してしまった。

 その父や夫の決定に彰子はかなり怒ったようだが、まだ二十四才であった彰子にはどうにも出来なかった。そして間もなく、一条帝が崩御し、彰子は四歳になる敦成親王、二歳になる敦良親王と、養子の敦康親王を養育することになった。 


 三条天皇には既に正妻と後継男子がいたが、道長は彰子の妹、妍子(けんし)を入内させ、中宮とした。道長が権力を握ってから成長した妍子は、たびたび贅沢な宴会を催し、自らや自分の女官たちに華美な服装をさせるなど、その父の権勢を誇示することが多く、その度、他の貴族からの反感を恐れる彰子や教通がたしなめていた。

 その妍子に男子が生まれず、また三条天皇も眼病を患ったため、道長が譲位を迫り、皇太子であった敦成親王が、八歳で後一条天皇として即位、ここで道長が摂政となった。


 この時代、天皇は63代冷泉天皇系とその弟64代円融天皇の両統迭立状態であった。円融天皇は、冷泉天皇の子、65代花山天皇に譲位し、花山天皇は、円融天皇の子、66代一条天皇に譲位した。一条天皇は、花山天皇には皇子がいなかったためその弟、67代三条天皇を皇太子としていた。

 この時代の慣習として、八歳の68代後一条天皇は、皇太子を14歳年上の三条天皇の皇子、敦明親王にした。

 しかし、道長の権勢を恐れた官人たちは皇太子関係の役職に就きたがらず、敦明親王は皇太子を辞退し、道長は後一条天皇の弟、敦良親王を皇太子にした。彰子は敦康親王を皇太子にするように働きかけたが希望は受け入れらなかった。また道長は八歳の後一条天皇に、叔母にあたる九歳年上の威子(彰子の妹)を嫁がせ、「一家立三后」を達成した。そしてここまで強引にことを進めた後、摂政を頼通に譲り、藤原家長者として権勢をふるうこととなった。

 

そして、この話の時点では、敦康親王は二十歳で亡くなり、また、彰子の二人目の子で皇太子となった敦良親王には、道長の末娘、嬉子(きし)が嫁ぎ、懐妊中であった。道長が出家して法成寺に入って以降は、上東門院彰子が天皇の母、皇后、皇太后、皇太子妃の姉として、そして頼通、教通兄弟の姉として内裏内に大きな影響力を持つに至っていた。

 

「うん、上東門院様には多くの女の人がついているみたい。」

「和泉よ。その子は?」

「孫の真ですよ。」

「教通の子ですね。そういえば小式部に似ていますね。」

「もう年が明けると十歳になるんですよ。」

「霊たちが見えるって評判ですね。少納言さんのところはどうでしたか?」

「公任様の話では、私が見たのは一条帝と定子様、それから亡くなった敦康さまと媄子さまだったそうです。」

「わぁ、私も会いたかった。」

 彰子が話している横では、脩子内親王が涙を流している。

「私、もう父も母も兄弟もいなくなって、みんなに会いたいなぁ。」

「脩さん。しっかりしてね。あなたがいなくなっては私が困るわ。」

 上東門院は、故一条帝の長女、二代の天皇の姉となる脩子を頼りにしていた。

「それで、和泉さん。その子を連れてきたのは? 入内なら教通の長女生子からよね。」

「いえ、それがこの子は、お二人をお守りしたいと。」

 そこで真は、上東門院の目をまっすぐに見て

「悪霊がお二人を狙っていると安倍晴明様の霊がおっしゃりました。」

「このところの悪霊騒ぎね。聞いてるわ。異界の門の時はまだかわいげもあったけど」

「そうですね。稚児として傍にいてもらったらどうでしょう。」

 脩子も狙われている可能性については想像していた。

「でも、誰が?って、やっぱりあの三人だとね。」

「まあそうでしょうね。」

 和泉式部も好色そうな坊主を思い浮かべていた。


「姉上、今日、清少納言が……え?」

 突然、教通が部屋の中にバタバタと入ってきた。

「義母上、真、来てたのか。」

「はい。父上からも私が女官として上東門院さまにお仕えできるようにお願いしてください。」

「え?聞いてないぞ。でもそれは名案だな。」

「教通、どうしました。」

「いえ、最近、ただでさえ子が少ない兄の娘に男子が生まれないことで、父が焦っていて」

「それで、お前の娘を」

「養子にして入内させると」

「それは困りましたね。生子もまだ十一歳ですよね。」

「信家も養子に取られましたし」

実は教通は、兄頼通を支えながら大事なことは必ず、彰子と相談するようにしていた。父道長が引退した今、実質朝廷内を仕切っているのはこの賢い姉であった。

「それで、教通。関東の反乱はおさまりそうですか?」

「それがどうも不穏で、平常忠に協力した武士たちに関わる荘園が」

「取り合いになっているのね。」

「ますます。地方で不満や反発が起きるのは間違いないと思います。」

「どうしてそこまで考えないのかしら。」

「朝廷の財政は最悪なのに」

 教通が朝廷の財政のことを気に掛けているのは、この姉の影響が大きかった。何しろ老朽化した内裏の修理もままならないのだ。

「父と頼通の荘園が多すぎるのよね。恨みも買うわよ。」


【こぎょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

家の中のことは女性が強いのjじゃよ。

ちょっと歴史の勉強でした。

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