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石鎚山

おじいさんのありがた~い おはなし。

 酒呑童子の魂は無事、役小角によって回収された。

 保昌は、清水で三七日参りをしているはずの静が、この場にいて、しかも悪霊を近づけない結界を維持し、霊だけでなく人の戦意や悪意を吹き飛ばしたと聞いて、驚くどころか見知らぬ人のように感じていた。

「お爺様、援軍お疲れさまでした。」

「お前。何でここに? 清水はどうなったのだ?」

「観音様が時間がないとおっしゃり、一日で三七日参りは終了しました。」

「一日で?」

「はい最初の夜に観音様が現れて、大峰山で大天狗に会えとおっしゃりました。」

「なるほど、それで吉野の天狗たちがいたんだな。」

「でも、これから修行を積まなければなりません。」

「修行?」

「はい、これからもこのような霊をめぐる争いが続くそうです。」

「そうだろうな。道長様も行成殿も体調が悪いしな。」

「それまでに私は、真言を授かり、霊峰で修行を積まなければなりません。」

「お前はまだ九歳だぞ。加冠の儀もまだ先なのに」

「とにかく時間がないそうです。」

<うむ。静よ。これから石鎚山に向かうぞ。>

「さあ、静様参りましょう。」

 静の脳内に小角の声が響き、前鬼坊が声をかけた。

「それでは、お爺様、皆によろしくお伝え下さい。」

 一人前の大人のような口ぶりで、静は大天狗たちと飛び立っていった。


 その後、平忠常は死罪となったが、自ら降伏してきたことでその首は晒されることはなかった。大江山の銅像は道長、頼通をはじめ藤原斉信、源俊賢らの出資で24体全てが作られ、「酒呑童寺」は文字通りの聖地となった。



 石鎚山に到着すると、小角は大きな岩を前鬼坊にどけさせて、中に安置されている後鬼の体を運ばせた。後鬼の体は銀色に輝き、金属質な皮膚が全身を覆っている。

 小角の霊体がその後鬼の体をすり抜けると、後鬼の目に光がともった。

「これが後鬼なのですか。」

<ああ、後鬼は元々は古代の金星で作られたものでな。魂の器となるものなのだ。>

「魂の器ですか。それでは中身は酒呑童子様なのですか。」

<いや、あの器だったから酒呑童子になったのだ。この器なら後鬼になる。>

「よくわかりません。」

<魂はその器にあった形になるんだよ。>

「それでは、酒呑童子様は?」

<酒呑童子の魂はこの後鬼の魂の中にあるよ。その魂の一面だと思えばよい。>

「わかりました。しかしこの目立つ体のものは連れ歩けませんね。」

<だから、わざわざこのようなところに隠しておいたのだ。山での修業に連れて行くとよいだろう。>

「でも、普段は?」

と、たずねると、後鬼は立ち上がり、静に臣下の礼をとると、その姿を白いカラスに変えた。

<後鬼、これからはこの静をわしだと思って前鬼と共に守護するのだ、> 

「ワカッタ、シズカマモル」 

「よろしくお願いします。」

<これから、静は高野山に登り空海から学ぶのだ。>

「出家するのですか?」

<出家は成人してからでよい。寺ではなく、山で空海の霊が待っておる、自ら真言を授けたいそうだ。>

「わかりました。」

 前鬼は静を抱えると、高野山に向けて飛び立った。


「静が高野山で修行を?」

 天狗たちから静の消息を聞いた真は早速母に報告した。今日は小式部の様子を見に教通も来ている。

「静が跡継ぎには一番優秀なのだがな、この歳で僧籍に入ってしまうのか。」

 教通は複雑な表情をしている。教通の五人の息子の内、唯一小式部との間の男子で、一番年長で、最も賢い、そんな静を後継にできないで、僧籍に入れてしまう。次男の本来なら跡継ぎになるはずの信家は頼通の養子となっている。将来的に最も頼りになる息子が手を離れてしまうことへの不安が、教通にはあった。

「まだ、お坊さんになるんじゃなくって空海さんと修行をするんだって」

「空海さん?って、弘法大師か。もう百年も前の方じゃないか。」

「教通君、うちの静は天才よ。霊たちが英才教育をするって張り切ってるらしいの。」

「英才教育?」

「なんでも、伝教大師も比叡山で待ってるらしいわよ。」

「比叡山に入るって本格的に出家じゃないか。」

「いや密教の問題ね。東密と台密で綱引きしているみたい。」

「それで、山で修行か。」

「いくつかの霊山で修行するみたい。」

「いつ帰って来られるんだろう。」

「一年もかからないと思うわ。」

「そんなに早く修行が終わるのか。」

「いえ、修行は一生続くんでしょう。ただ霊たちは急いでいるみたい。」

「やはり、急いでいるのには理由があるんだな。」

「ええ、私どうやらあまり長くないみたいなの。」



【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

修行の道は一日にしてならずじゃ。

一生が修行だのう。

静の修行が始まるのか?

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