清水寺
おじいさんのありがた~い おはなし。
帰り道、静は、帰宅する保昌と真と別れて、一人で公任邸に向かった。
公任は一人、思いつめた顔をしているかわいい義孫の様子を見て、自分の部屋に招き入れた。
「どうした。何があったのじゃ。」
「おじいさま。観音様にお祈りしなさいとはどういうことなのでしょうか。」
静は、公任に検非違使庁での出来事を語った。
「晴明殿がそのようなことを……。そうじゃな。」
そういうと、公任は仏壇から一冊の巻物を取り出した。
「これは観音経じゃ。これをまずよく読んで覚えて、それから三七日参りをすることからかな。」
「観音に祈るということは経をあげることか、三七日参りをすることじゃろうな。三七日参りは、ことし九歳になるお前にはちと厳しいから、まずは経からじゃろうな。」
「それで、真の助けになりますか。」
「うむ。そこは分からんが、それぞれの役目があるのじゃろうな。」
「真はいろいろな霊と会っているようで守られているようです。今まで、僕が守って来たつもりなのに役に立ってないようです。」
「まずは、焦らず観音に祈ることだと思うよ。」
そういうと、公任は家の従者をつけて静を家に帰した。
「まだ九歳というのに、一端の青年貴族のようなことをいう。将来が楽しみじゃのう。」
静は家に帰ると、三日三晩、観音経を読み、暗唱し、唱え続けた。そして小式部らの前に来て、清水寺で三七日参りをすると宣言した。
「静、大丈夫なの?もっと大きくなってからでもいいと思うわ。」
「母上、今必要なんです。」
心配する小式部を横目に祖父母になる二人は、
「じゃあ、近くに寝泊まりする庵を用意する必要がありますね。」
「護衛は、寺のものに連絡しておこう。」
「この歳で三七日参りって、やはり優秀な孫ですわ。」
「安倍の兄弟にも連絡しておこう。きっと晴明殿も守ってくれるだろう。」
と、年少で三七日参りをする静に興奮気味であった。
翌日、さっそく静は、清水寺に向かうことになった。
静は清水寺に着くと本堂に向かい、観音経を誦み、近くに用意された庵に入った。その夜のことである。
<これ、静や。起きなさい。>
静が、目を覚ますとそこには観音様が立っていた。
「観音様?まだ一日目ですよ。」
<待っておったのじゃ。>
「待っていらっしゃったんですか?」
<結縁が出来なければ、話しかけることも出来んのでのう。お前に大事な伝言があるのじゃ。>
「伝言?」
<お前を守護しておるものからじゃ。>
「私を守護しているもの?大物だということだけは伝え聞いていますが」
<それは、おいおいわかるじゃろう。それよりも急がねばならぬ。>
「それで、三七日を待たずにいらっしゃったのですか。しかし、私は何もできません。」
<それは、陰陽師の素質はなかろうな。>
「はい。私は真の力を借りて晴明様の声を聞きました。」
<しかし、お前にはそれを上回る法力を持つ素質が眠っておる。>
「法力?」
<仏法の力じゃ。三日で観音経を身に付けることなど、普通はできないことじゃ。ましてまだ子供なのにじゃ。>
「そうなのですか。」
<ああそうじゃ。これから真言、台密、東密を学び明王達に学ぶのじゃ。>
「それは、山で修行を行えということですか。」
<ああ、大人になってからでよいが、心に留めておくことじゃ。じゃが、今は時間がないのじゃ>
「何か起こるのですか?」
<ああ、お主にも関わりがあるものの命が尽きようとしておるのじゃ。>
「それは?」
<ここ数年で、つづけて起こることじゃ。>
「今の私には何の力もありません。」
<だからこその伝言じゃ。大峰山の天狗に会えとのことじゃ。>
「天狗?」
<お主はもう天狗たちとは会っておるな。>
「はい。」
<それも宿縁じゃ。それからよいか、怪異に会ったら観音経を読むのじゃ。>
「経を?」
<それで身を守ることができるじゃろう。とにかく急ぐのじゃ。>
「大峰山ですか?何が起こるのですか?」
<酒呑童子がまもなく亡くなる。>
「酒呑童子が?具合が悪いとは聞いてます。悪霊に取り込まれると危険だということも」
<そうじゃ。それを防ぐ手立てだそうじゃ。とにかく急ぐのじゃ。>
と、いうと観音は姿を消した。
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
読むと誦むは同じ読みだが意味が違うぞ。
誦むは意味が分かったうえで声に出すんだ。
静開眼か?




