間諜
おじいさんのありがた~い おはなし。
<道満は、私の敵に味方するんだな。>
「げっ、この声は……。」
道満は頭の中に響いてくる声に驚いている。真は静の手をそっと握った。
<私の敵になるなら、ここで滅ぼしてもいいんだが……。>
「待ってください、晴明殿。私は決して……。」
「父が来ているのですか。」
「なぜ私には聞こえないんだ。」
吉平と吉昌は悔しそうな表情を浮かべる。その二人に真はもう片方の手を伸ばした。
二人の兄弟はその手を急いで取った。
<よいか。道満よ。その娘と、私が守ろうとしているものたちを守るんですよ。>
「この娘と、守ろうとしているものたち?」
<この兄妹は、これから先、大切な存在になります。今、現界で守れるのはあなたしかいません。>
「父上、申し訳ありません。」
<いや、お前たちは関白殿たちを守るという役目があります。>
「僕もなんですか。」
静は学問でも、何をやるにしても自分についてくるだけだった真が、ここ最近、信家の母の時や、鞍馬山の一件で、自分より遥かに優れているのを感じていた。そして霊視もできない自分がなぜ大切なのか分からなかった。
<そうです。>
「いろいろな書物を学んでも、武術を学んでも、今の僕には何の力もありません。」
<そうですね。まず観音様にお祈りしなさい。>
静は考え込むようにうなずいた。
<とにかく、道満。あの男たちに憑いているものたちに気を付けなさい。>
「父上、祓えばいいのでしょうか。」
<いや、祓ってあの男たちを殺したとしても、別の対象に取り憑くだけです。>
「でもなぜ、能信殿や頼宗殿には取り憑かないのでしょうか。その方が面倒はありませんよね。」
「ん?じいじ、聞こえてるの?」
「ああ、この剣から聞こえてくるんだ。さすが『神通剣』だな。」
「クマラのところで、複製したときに細工してもらったんだ。」
保昌と十兵衛にも話の内容は聞こえていたようだ。
「これは、みんなには秘密ですよ。」
保昌は、小式部と和泉式部が霊たちとよく話をしているのを知っていた。
<藤原家の者たちは祖霊の数が多くてな。道長殿を守っているものたちがほとんどだが、今の摂関家に不満を持つもので、能信殿を守護しているものたちもいるんだ。>
「それで、近づけないわけか。」
「なるほど、従者を取り込んだわけだ。」
口々に納得すると、吉平が
「それでは、捕えている者たちはどうしましょう。」
「今は、悪霊は結界から出られません。」
<そうですね。そのうちその従者たちは釈放されるでしょうから、泳がせましょう。>
「ならば、私が探るのがよさそうですね。」
<それがいいですが、道満、分かってますよね。>
「裏切りませんよ。約束は守りますよ。その代わり霊界では……。」
<わかりました。吉平、吉昌。道満の体は守ってくださいね。>
「わかりました。これで戻った時に情報がもらえますね。」
「こんな間諜、初めて聞いたな。」
十兵衛は感心している。しかし、これで起こりうる事態に対応できると、しかし
「ここで、その悪霊たちを切ることはできないのですか。せっかく捕えているのに」
<捕えているのは悪霊たちの本体ではないし、悪霊は切っても封印はここにいるものでは無理だ。真や静がもっと成長すれば可能になると思うが>
「それで、この二人を守れということなんですね。」
「よくわかった。二人に悪霊たちの注意が向かないように動きますよ。」
安倍兄弟と、道満がそれぞれ返事をすると、
<みなさん、くれぐれも注意してくださいね。>
と言うと、晴明は消えて行った。
その翌朝、能信の従者五名は釈放された。
十兵衛は。道長に報告するため法成寺に向かう保昌に同行した。
「紫は無事だったと頼信から聞いたぞ。」
「ええ、守護している霊が強力ですから。」
「それで、その霊が生まれないように消そうとしたということなのか。」
「そういうことらしいです。」
「うむ。あれはわしも一度読んだことがあるが、秘本でな。しかし、『光源氏』はそれほど強力な霊なのか。」
「光源氏は私の時代でも、道長様より遥かに有名で、新たに二次創作が作られたりしていますよ。それに最近、ますます力を増しているという話です。」
十兵衛が答える。もちろん十兵衛は自分の後の時代を知らない。
「しかし、能信には困ったものじゃの。」
「父上、また謹慎させますか。」
「いや、今回の放火は頼宗が紫邸に入るためということで、責められるのは頼宗だけじゃ。能信が直接関与した証拠がない。従者の監督不足しか責められん。」
「頼宗は別として、能信は、謹慎させても効き目がありませんしね。」
頼通も能信への対応には苦慮しているようであった。
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
どの時代にも無敵の人はいるものじゃ。
よく気を付けるんじゃぞ。
事態は有利になるのか?




