石山寺
おじいさんのありがた~い おはなし。
「保昌殿、どういうことか説明してください。」
石山寺までの道を急ぐ中、十兵衛は保昌に尋ねていた。
「五四帖ある源氏物語は本当は六〇帖あるんだ。」
「その足りない六帖分とは?」
「光源氏がなくなる『雲隠』の話で、これを石山に封印したらしいんだ。」
「『小しきぶ』の話ですか?」
「ああ、どうも気になっていたのだが、これが棄損されていたら」
「霊も生まれないということですね。」
「それをやろうとするのは……。」
馬を走らせ、大津にある石山寺に着いたのは夕刻であった。
中が騒々しい。見ると岩山の向こうから煙が出ている。
「燃えているのは小さな庵です。」
様子を見て来た袴垂が報告する。
炎は本堂の方へ風によって運ばれようとしている。僧たちを捕まえて尋ねると、出火したのは紫式部が寄進した観音堂であるということだ、中には死後の紫式部を弔うために生前に永世供養を依頼したものであった。安倍兄弟が風向きを操作し、本堂への延焼を何とか防ぎ、鎮火したのはすでに深夜となっていた。
「ここは火の気のないところで、出火するのは考えられません。」
僧たちが失火の可能性はないと口々に言っているところで、袴垂が一人の男を捕えてきた。
「こいつが岩山の陰に隠れていたのを見つけました。」
「この男は……、能信殿の」
「ふん、知らねえな。」
その時、頼信、頼義親子が到着した。
「途中で、不審な奴らがいたので捕えてきた。」
「こいつらも……。」
「能信殿の配下のものか。」
「放火は能信殿の指示なのか。」
頼信たちが捕えた男の一人が、保昌がとらえた男を指して
「こいつが勝手にやったことだ。能信さまや俺たちは関係ない。」
「俺たちは止めに来たんだ。」
「なぜ、火をつけたんだ。」
「頼宗様の言いつけで、大弐三位様の部屋へ行くように壁を壊しに行ったら、ひどい目にあったんだ。」
「ひどい目?」
「何か小さな車輪がついた靴を履いた男たちが邪魔をして、何でも紫式部様を守っている霊って話でな。」
「それで、紫式部殿の庵を?」
「ここを焼けば問題はないって」
「ちょっと待て、誰がそう言ったんだ。能信殿か?」
「いや、ちょっとな。」
「こいつが夢でもみたんだろ、俺たちは関係ないから帰してくれよ。」
「とりあえず都まで連行します。」
「どうせ、すぐ出されるよ。」
「いいから黙って歩け」
頼信親子は、能信の配下たちを捕らえて、連れて行った。
保昌は、石山寺の住職に耳打ちして、人払いをしたのち本堂に入れてもらうことにした。そして一人で何やら本堂の中をみてまわり戻ってきた。そして十兵衛にこっそり言った。
「これで、多分元に戻りますよ。」
「あっ、そういうことか。」
「小しきぶ」の記述では失われた六帖がしまわれたのは、紫式部の庵の中ではなかった。
「延焼を食い止められてよかったですね。」
「これで、焼き払ったと思ってくれればいいのだが」
「十兵衛さん。あいつら操られていると思いますか。」
「操る?」
「悪霊たちは自分で手を下せないから、悪意を持つ人を操ろうとするんですよ。」
「なるほど、人の悪意を利用する訳ですね。」
「あの賢い斉信殿が操られることとなったのも、教通殿への嫉妬心があったからだということでした。今ではなくなっているようですけどね。」
「だとすると、あいつら早いうちに何とかしないと、また何かやらかしますよ。」
「払っても、奴らにはねのける強い心がなければ、何度も利用されますよ。」
「先ほど俊賢殿が、吉昌殿にいわれていたことですね。」
ちょうどそこに吉平、吉昌兄弟が合流してきた。
「庵は尋常じゃない燃え方をしていました。」
「地面から全て焼き払う勢いでしたね。」
「ただの火つけではないのか。」
「何かの呪符が使われていたのかもしれません。」
「呪符?」
「まさか。」
「蘆屋道満か?」
「そうであったら、われわれだけの力ではどうにもなりません。」
「小式部さんが手を貸してくれたら」
「いや、今、娘は安定してなくてな。しばらくはあまり動かせんのだ。」
「あの子たちの力を貸してもらえたらいいのだけれど」
「まさか?」
「はい、真様と静様です。」
「あの二人は、この間九つになったばかりだぞ。」
「もう真様の力はわれわれを上回っていますよ。」
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
嘘はばれるものだ。
従者たち語るに落ちていますね。気づきました?




