異界の霊魂
おじいさんのありがた~い おはなし。
「前回、完全に確認したわけではありませんが、見た者の話では、道長殿の像はあったそうです。」
十兵衛が丁寧に答える。さすがに高位貴族に対しては話し方を考えているようだ。
「しかし、これでは黒幕の正体を明かしているようなものではありませんか。」
「そうですね。明らかに時代が異なるものが四体」
「わたしが、遠江の廃寺で見聞きした三人と」
「わしを操ろうとした道鏡か。」
教通と斉信はすぐに思い当たったようであった。
「わしは何も知らんぞ。今回は盗み聞きされておらぬはずだ。」
自らの名が記されることとなった源俊賢が青い顔をしている。
「道満さんですか。あの人父が亡くなってからは元気がなくって、どうなったのやら」
「藤原姓が消えている中、能信や頼宗は残っておるんじゃの。」
道長は考え込んでいる。自分の死後の兄弟での権力争いを想像したようであった。
「武家では源姓が、頼光兄を始め、われわれが消えていますね。保昌殿、四天王は変っていませんが。」
「この平忠常、安倍頼時、安倍貞任というのは何者ですか。」
「この平忠常は元私の家来で、いまは東国におります。」
「この安倍はわれら陰陽師とは関係はありません。」
「この安倍は陸奥六郡を収める俘囚長ですな。」
公任が答えると、教通と、武官たちの表情が変った。
「蝦夷ですか。」
「阿弖流為を取り込もうとした答えですかね。」
「ゴホゴホ…、この陸奥からはここ数年貢租が届いておりません。」
行成がせき込みながら答えた。かなり具合が悪そうであった。
「ふん、整理しましょう。」
教通は、改変されている12体を仕訳けている。
一、悪霊となっているもの 蘇我入鹿、蘇我蝦夷、伴善男、道鏡
二、利用されたことがあるもの 五月姫、源俊賢
三、利用されている、または利用される可能性があるもの
蘆屋道満、藤原能信、藤原頼宗、平忠常、安倍頼時、安倍貞任
「三の六名が警戒ですね。」
「念のため、わしを見てくれんかな」
俊賢は自分の無実を証明しようとかなり焦っていた。
「今のところは問題なさそうですね。でも一度利用されると利用されやすくなるかもしれません。父が残したこの守呪が書かれた護符を差し上げます。身に付けておいて下さい。」
吉昌が五芒星の呪符を渡すと俊賢は安心したような表情を浮かべた。
「しかし、俊賢殿の像ができるということは、何か彼らに貢献したということですよね。」
斉信は内心、自分でなくてよかったと思いながらも別の可能性についても考えた。
「俊賢殿から流れた情報が何かの役に立ったということではありませんかな。」
「ゴホゴホ……。最近、道風殿がよく現れるようになりまして、私はそろそろ寿命なようなんです。それで、悪霊に連れ去られないように見張ってくれているそうなんです。」
行成の話から、教通は妻の臨終に立ち合わせた真の言葉を思い出した。
「生きているうちに乗っ取られなくとも、臨終時に連れ去られる可能性がありますね。」
ここで十兵衛が自分が知った、霊について語り始めた。
「霊というものは、それを信仰したり、好意をもったり、記憶している人から力を得るのだそうです。観音様や八幡様は信仰する人々の思いが力となるそうです。皆さんが亡くなった後、皆様の業績、事跡が皆様の記憶となって後の世に伝えられます。」
「ということは忘れられているということは、霊的な力を失うということなのか。」
「そういうことになると思います。そして恨みを強く持った霊は、異世界のものの霊を取り込み災厄を起こすそうです。」
「異世界のものとは」
「鬼や天狗などですね。彼らは地球の輪廻の輪に入らず、霊として彷徨うそうなのです。そして、地球の悪霊に取り込まれることになります。」
「鬼や天狗? 大江山とか鞍馬山にいるという者たちじゃな。」
「大江山のダンスは楽しかったのう。」
道長が思い出すように語った。
「その酒呑童子は、私の時代では酒を飲ませて酔わせたところを頼光殿や保昌殿に殺されます。」
「悪霊となるのか?」
「ここで分かったことと合わせると、阿弖流為の霊に取り込ませて、大災厄を起こそうとしたようなんです。」
「十兵衛殿の歴史では起こったのですか。」
「多分、起こっています。陸奥の国で」
「陸奥!安倍氏か。」
「この時代では、阿弖流為は八幡様に従っておりますし、酒呑童子は健在です。」
頼義は自分がかかわることになる陸奥の戦いを予告されていた。そして十兵衛の話では、安倍氏との戦いで命を失うように改変されていることも聞いていた。
保昌が頼義の言葉を引き継いだ。
「しかし、酒呑童子は病床にあるそうです。先日もかなりやせ細っていました。」
「その魂を月世界に返してやらないと利用される可能性があります。私がいた元の世界では、大江山の鬼は三匹になっていました。ところが、こちらに来る前には2393頭になっていました。」
「増えたのか?」
「ええ、正しい歴史では私の時代には絶滅しているそうです。」
「なぜ、改変してまで増やすんだ。」
「毎年、数頭が鬼退治で悲惨な最期を迎えているそうです。」
「異界の霊の供給源」
「ということですかな。」
俊賢と斉信が結論を出した。
「とりあえず、一門のものには銅像の設置に寄進するように呼びかけましょう。」
二人は自分がその数に入らないことを分かったうえで像の設置に協力することを約束した。教通は酒呑童寺の結界図をみながら考えた。
「寄進者は、石碑を作り後の世まで残すことにしましょう。その筆頭はお二人ですね。」
「それは一番出資しろということですかな。」
「教通殿も考えますな。」
二人は笑いながら、教通の思惑に乗ることになった。教通は権力者の財力について考えさせられた。老朽化した内裏の改装もままならないのに……。
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
人は名を遺すとき石碑に刻むものだよ。
藤原一族の財力はかなりのものだったらしい。
それに比べて御所は……。




