「小しきぶ」6
おじいさんのありがた~い おはなし。
その後、帝は住吉神宮へお出かけになった。和泉式部もお供することになった。帝が神社の境内を巡っておられると、ちょうど千鳥、鷗など様々な水鳥が、海に浮かんで波に揺られているのをご覧になって、面白いとお思いになったのか「あの水鳥を射て、持ってこさせよ。」とご命令をなさった。北面の武士たちが弓矢をを持ち、渚に下り立ち狙っている様子を本当に面白がってご覧になり、「この様子を歌に詠んで見なさい。」と和泉式部に命じた。和泉式部は「私の歌など珍しくはありません。ここに娘を一人連れてきています。彼女に詠ませましょう。」と帝に申し上げると、「こちらに連れてきなさい。」とおっしゃり、娘にこのことをお話になると、この娘はか細い声で「ちはやぶる」と詠みだしたので、和泉式部は「ああ!」としかりつけたので、娘は詠むのをやめてしまった。「なぜそのように諫めるのだ」と帝がおっしゃるので、和泉式部は「神の御業に『ちはやぶる』という枕詞を使うのに、これは鳥、翼あるもののことです。それで諫めました。」と申し上げた。帝は「和歌が下手でも幼いものが読むのだ悪くない。まずは詠ませなさい。」とおしゃった。「それならば詠みなさい。と母が許したので
ちはやぶる 神の斎垣に あらねども 波の上にも 鳥居立ちけり
(神社の垣根ではないけれど、波の上にも鳥居が立っている)
※注 鳥居立っている→鳥 射たっている に掛けている
帝をはじめこの場にいた者たちは、一度にどっと感心の声を上げた。帝は褒美に衣を下され、名を小式部内侍とつけられ、宮中に召されるようになった。
「ママ、せっかくの出番を私に譲ったんだ。」
「そうね。これじゃ私、娘の才を理解しない母親だわ。」
「でも、帝の命令に反してまで、娘に詠ませているのは、認めているのではないか。」
「まあ、ここは小式部の才を言いたかったんでしょうね。」
「しかし、この帝はどなたのことであろうな。」
「そうね。神宮に集まる鳥を面白がって射ろって、ちょっとひどくない。」
「まあ、この一件で、小式部内侍って、名が付いたみたいよ。」
ようやく、題名の小しきぶの活躍が描かれ始めたので、小式部は楽しそうに声に出して読んでいる。
「それにしても、残りわずかだわ。」
十三の年、小式部は内侍の役職に任じられた。その後、和泉式部は、丹後にある久世の戸(知恩寺)に参りたいと申し出、その日数分の休みをいただき、この久世の戸へ参拝した。本尊を拝み、この本尊の光に当たったものは、来世の闇に迷うことはないと聞いて、すぐに死後の自分を弔うための石塔を建て、その地のものに供養を続けさせるた。今でもなおその供養は続けられている。そうしているころ都では、帝が大切にしている小松が急に枯れ始めたのを、非常に惜しまれて、「神も草木も和歌に靡くものだ。和泉式部を急いで呼んで、松のために祈りの歌を詠ませよ。」とお命じになった。その命令を受けた小式部内侍は「母のいる丹後までは遠い道のりです。まずは私が詠んで差し上げます。」という返事を出した。「急いで参上して詠みなさい。」とのご返事であったので、小式部が参上して、この松の周りを一回りして
理や 枯れてはいかに 姫小松 千代をば君に 譲ると思えば
このように詠むと、この松はしきりに動いて、わずかの間に青々とした葉を出したので、帝は非常に感心なさって、様々な褒美を小式部に与えた。ある人が、「この歌は、昨日丹後から使いが来たと聞きました。母の和泉式部が詠んで送ったものです、」と讒言した。そのことについて小式部は問い詰められたが、「今日の夜になって、丹後の母よりいろいろなものが送られてきましたが、急ぎのお召しでしたので、手紙など見てません。」と申し上げて
大江山 生野の道の 遠ければ まだ文も見ず 天の橋立
と詠むと、帝は大変感心なされた。それで丹後に人を派遣して見たところ、和泉式部は天の橋立にある知恩寺に和歌をささげて籠っていた。
与謝の海や 月澄み渡る 浦風に 雲も変わらぬ 天の橋立
※与謝の海 天橋立付近の海のこと
このように読んで、知恩寺の文殊菩薩に奉った。和泉式部は、その後、都に戻って富み栄え、非常に栄華を誇ることとなった。
そのようなことがあるので、世の人は、是非とも歌の道をたしなむべきだと言っている。この話は、そのような素晴らしい歌についての話である。
「え?」
「これでおしまいなのか?」
「不自然な終わり方ね。」
どうも、小式部の話の後半が不自然に書かれていない。
「ママはなんだか老後が暗示されているけど、私、最後まで現役?」
「ふむ。題名は『小しきぶ』だが、どうも和泉の話中心だな。」
「この話には道長様や、頼通様、教通様どころか。大江山の時の定頼さんまで出て来ないわ。」
「摂関家のことについての記述がないって、600年後の世界には、今これほど栄えている藤原氏は忘れ去られているのか?」
「何か歴史が書き換えられているのかしら」
「もしかして、この後の私って存在していないことにされているのかな。」
そこに、鞍馬山から戻った十兵衛が、保昌から借りた刀を返しにやってきた。十兵衛の手には、一本の保昌の剣と同じものが持たれていた。
「ほう、見事なものですな。わしの剣と見分けがつかないほどだ。まあ柄の糸がすれているのが私のものだと分かるが、天狗は何者なのだ。」
「われわれよりも遥かに進んだ技術をもっていますね。」
「ね。十兵衛さん。600年後には藤原氏はどうなっているの?」
「あまりにも枝分かれして、みんな氏が藤原なんで、『近衛』とか「九条」とか「鷹司」とかいう名字を名乗っている。氏は普段は使わなくなったな。」
「やっぱり消されちゃうのかしら。」
「どうことですか。」
「十兵衛さんが持ってきた『小しきぶ』って、私についての記述が中途半端だと思うの」
「最近の江戸では、小式部ブームが起きてるけど、それまでは『大江山』の歌が残っていたくらいだったな。」
「ね。天神様が、霊はそれを信仰したり、祈ったり、思ったりする人たちがいるほど力を持つって言ってたわ。」
「ということは、その逆もあるということか。」
「十兵衛殿、どういうことですかな。」
「後の時代の人に伝わらないようにして、力が増えないようにできるということなのでは」
「よくわかりませんわ。」
「つまり、この後、意図的に小式部さんたちの痕跡を消していった勢力がある。ということです。」
「それって、死んで霊になる私の力を弱めるため?」
「道長殿、頼通殿とかは、600年後の人々は知ってますよね。」
「頼通は宇治に建てた寺が有名で、道長は望月の歌が有名かな。」
「建物が残れば、名は消えないということでしょうか。」
「あのさ、大江山にみんなの像を建ててもらわない。そうすれば記憶に残るよね。」
十兵衛は、大江山の「酒呑童寺」にある銅像のことは知っていた。そしてそこに小式部内侍のものはないことも
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
これで「小しきぶ」の話はおしまいなんじゃ。
それからどうした?
「小しきぶ」全編口語訳しました。
しかし、本当に中途半端に終わってますね。




