表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/86

「小しきぶ」5

おじいさんのありがた~い おはなし。

和泉式部は、想い切って子を捨てたものの、昼夜思い出しては人に忍んで涙を流していた。その心中、どれほどのものかと想われてあわれな様子であった。

 ちょうどその頃、河内の国から清水寺に参りにやって来ていた老夫婦がいた。自分たちの菩提を弔ってくれる子が生まれるよう、三七日参りを行っていたが、その(しるし)もなく、泣く泣く清水寺から帰り、その帰りに東寺に寄ってお参りをするために。周り角を過ぎて、少し進んだところで、非常に立派な箱が置いてあるのを見つけた。取り上げてみると、何とも言えない高貴な薫りがしている。ふたを開けてみると中には、様々な色の布にくるまれた、玉のような姫が入っていた。これはどのような高貴な方のお子様であろうかと、不思議に思い、周りにいる人にたずねても、誰も知らないという。この老夫婦は、これは清水の観音様のお計らいだと嬉しく思い、抱きとって大和の国へ帰っていった。

 老夫婦は、観音様から授かった大切な姫だからと、わが身がその分、年を取るのも忘れて、早く大人になってほしいと、とても大切に育てた。この姫は普通の子と違って、大人になるにしたがって、その姿形は言葉にできないほど美しく、その心は上品でこまやかな心遣いをして、朝夕、老父母をいたわるようになった。また、誰かに習わせたわけでもないのに、歌を詠み、一人、月や花に心を澄まして日々を過ごしていた。その間に小さな薪になる枝を拾い、若菜や根芹を摘んで老夫婦を助けたのであった。老夫婦の心の中は、老い先短い自分たちが、この娘と、どれくらい一緒に過ごせるのかと思うと、ますますこの娘がかわいく、大切に思われるのであった。


「なんか。泣けてくる。」

「うむ。和歌とか神霊に習ったのかな。」

「わたし、親孝行のいい娘ね。」

 今日も小式部と和泉が続きを読んでいるところに保昌が混ざって、続きを読んでいる。

「清水の観音様って、関係が深いようね。」

「何でママ、東寺の前に捨てたの?」

「さあ、私じゃないから知らないわよ。」

「それは、そうだな。」


 そうしているうちに、小式部ははや11歳になった。そのころ和泉式部が心に思うようになったことには「もう私も年が明けると30歳になる。30歳になると白髪が2本生えると聞く。私の一生を思うと、草葉に結んだ露のように短く、今までの年月も一夜の夢のようだ。昔からその名を残すような人々で死ななかった人がいるだろうか。高名な東方朔・西王母・陶淵明、このような人々も、その名だけが残っている。それほど有名なわけでもない私ならなおさらのことだ。だれも私の亡き後を弔ってくれる忘れ形見となるものが出来ないのは、東寺の門に捨てたわが娘の恨みだろうと思える。その娘がどうなったのかたずねたい。」と思い立ち、保昌に、しばらく家を留守にして初瀬に籠りたいと願い出ると、保昌は、輿(こし)など旅の用意を整えて、送り出してくれた。

 長谷寺に着くと、供の者たちを皆帰し、乳母の冷泉だけを連れて寺に籠った。ところが、何かのお告げがあったのであろうか。和泉は旅姿になって長谷寺を出て、気もそぞろに訪ねまわり。河内の奥山の方に迷い行ってしまった。慣れぬ旅のことなので、身も疲れ、足から血を流し、乳母に手を引かれ、あちらこちらとさまよっていると、冥途への旅をしているのだろうかと思うほど心細く思われた。そうして歩いていると山深くにみすぼらしい一軒の家があり、そこで一夜の宿を借りようと立ち寄った。出てきた老婆は「なんと気品のあるお姿でしょう。さぞや名のあるお方だと思われます。どのようなご用件で、こちらにいらっしゃったのですか。」と尋ねると、「人を恨むことがあり、都を出て、山の奥ででも粗末な庵を作って籠り、生き様を変えたいと思い。あてもなく迷っています。一時の旅の出会いも、前世からの約束であると聞きます。どうか一夜の宿をお貸しください。」と苦しそうな声でいうと、老夫婦は優しい様子で招き入れて、二人の寝床を用意してくれた。


「子供を捨てたのは若気の至りだったってことね。」

「旅慣れないって、ママ、丹後に行ったり、あちこち歩いてるよね。」

「貴船神社の石段も、清水の坂も元気に上ってたな。」

「まあ、長谷寺の境内に行くのもかなり歩くわよ。」

と、まあツッコミを入れながら、楽しそうに読んでいる。



 慣れない旅のことなので、少しも眠れない。軒から漏れてくる月の光に向かい

   都にて 見馴れし月と 思へども  草の枕に 宿りぬるかな        

   山里は 寝られざりけり 夜もすがら 松吹く風に 驚かされて      

 (山里は寝られないものだ。一晩中吹く風に起こされて)

 心を落ち着かせこのように歌を詠むと、これを老夫婦が聞き「ああ、面白いことだ。本当に空の上にある月であるが、貧しい我が家の軒に映り、また妙なる姿のお方が、粗末な我が家の泊っていらっしゃる。面白い面白い。ところでわが娘よ。今の旅人の歌を聞いたか。何も知らないわしらに、歌だ、連歌だと言っているのに、どうして返歌を詠まないのかい。」 するといかにも幼い声で「私も聞いて、おかしくって、恥ずかしくって、心の中で笑ってました。」と答えたので、和泉式部はこれを聞いて「あら不思議なことね。都の中でも私の歌を笑う人はいないのに、あの幼い声で笑うのはどういったものかしら。」と思って、「そもそもどうして、このような子がいるのだ。そういうなら返歌を詠んでみせてよ。」

といった。老婆が娘に「早く、お返ししなさい。というので、幼い声で「山風に罪はまったくないわ。」と言って

   山里に 寝らるればこそ 夜もすがら 松吹く風に 驚きもすれ

(山里で寝たから、夜中に松吹く風に目が覚めたんでしょ。)



「このずばずばと言うところ、小式部らしいわね。」

「ママ、こんな歌詠んだの?」

「さあ、覚えてないわ。」


 和泉式部はこれを聞いて「本当にその通りだ。間違えて笑われたのは恥ずかしいものだ。」と思って、表情を変えて「この幼いものを見せてください。」というと、「みすぼらしいものを着せておりまして」と恥ずかしがると、「見苦しくはありませんから連れてきなさい」と何度も願うと、翁が松明を灯して連れてきた。このような山奥の貧しい家の子供には思えず、気品があった。「この娘は幼く、老夫婦と遥かに年が離れている。本当の子には見えませんがどういうことなのでしょうか。」 老夫婦は「この子は捨て子であったのを拾ったんです。」というと、式部が「いくつになりますか。」と尋ねると、「今年十一歳になります。」と答える。「どこで拾ったのですか。」と聞くと、「東寺の門の石敷に捨てられていた。」と答える。「それでどのように捨てられていた。」とたずねると、「美しい蒔絵のついた箱の中に、色々の衣を着せて捨てていた。」という。やはりこれはと思い「その箱はありますか。」とたずねると、「まだあります。」という。「その箱には歌が書かれてませんか。」と問うと、「あります」と答えた。

「これは間違いなく、私が捨てた子だ。できることなら私に返しなさい。」というと、老婆は笑って「都は広く、いろんな人が捨て子をしている。全くあり得ません。」と笑った。

「それなら、箱に書かれた歌を、その歌を見る前に言ってごらんなさい。」というので和泉式部はまず読んで聞かせた。その歌は

   みなかみに 百夜の霜は 降らばふれ 七日七日の 月と言はれじ       


と詠んだ。その後箱を出して確認すると、少しも違わなかった。「これはどのような意味ですか。」と老夫婦がたずねると「その心は、たとえ髪が白くなろうとも、子持ちだと人に笑われたくないと詠んだ。七日七日で、十四日。月を子持ちといい、十五日の月を望月(子を持つに掛けている)といいます。」と詳しく教えた。「私がこの子を都に連れ帰るように、私はわが子を捜してさまよいました。私の子です。さあ返しなさい。」というと「思いもよりません」と老夫婦はかたく断った。あまりにも強硬に言うので「そういうのなら、娘にたずねなさい」と言った。

 娘が言うには「一緒に行くなんて思いもよりません。そもそも私に何の罪があって、何が憎くて捨てたんですか。また訳も分からない老父母がかわいそうに思って私を大切に育ててくれたのに、何の罪があって、何の情けもなく老父母を捨てて行くのですか。この老夫婦が私を拾ってくれなかったら、鳥や獣の餌食になっていたかもしれません。それを今になって、父母の長年の恩を忘れて、あなたのところに行くことなど決してありません。」

と涙を流して、恨みごとを言ったので、和泉式部は面目なく、恥ずかしくも思い、返す言葉もなかった。

 そうではあるが、心にかけていたことが叶ったのは、観音様のおかげだと長谷寺の方向に向かって、伏し拝み、このことを都に知らせたところ、老夫婦も共に連れて戻りなさいとご命令があって、老夫婦の衣装まで下さり、皆を引き連れて都の戻った。このことを帝がお聞きになり、本当に老夫婦をあわれとお思いになり、丹後の国、与謝の郡を下さった。

 老夫婦をまずそこに送り、豊かな生活を送らせた。 


「なんか後味が悪いわね。」

「体裁が悪いって捨てた私を、自分が年を取って忘れ形見にしたいって取り返すんでしょ。」

「うむ。この老夫婦結局、娘を取り上げられたんだな。」

「私、何か悪い人になっているみたい。」

「そんなことは、ないのになぁ」

「みんなを引き取ったのは、結局パパってことかしら。」

 あまり、今後の展開に関わりそうにもなかったが、乳母、老夫婦とは誰のことなのか思い当たるところはなかった。まあ小式部が捨て子の時点で事実とは違うのだが。



【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

生みの親と育ての親、昔からあるテーマじゃな。

貴族とか権威を振りかざすのは後味が悪いぞ。

口語訳「小しきぶ」残り1回です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ