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神通剣

おじいさんのありがた~い おはなし。

 翌朝、十兵衛は保昌邸を訪れ、昨日の出来事を語った。

「それで、『鬼切』は三本になったのですか。」

「天狗の仕業だったのか。」

「これで、解決ってこと?」

 和泉式部、保昌、小式部それぞれが感想を話していると、「小しきぶ」を読んでいた静が部屋に入ってきた。

「お爺様、この『神通剣』って、何のことですか? お爺様の剣の名ですか。」 

 静は「酒呑童子」の話まで読み進めていたのだった。保昌は、傍らにおいていた剣を持ち。

「まあ、この剣で、土蜘蛛や怪異は切ったが、酒呑童子は切っておらぬな。」

「でも、この記述だとお爺様のですよね。」

「この剣が後の世に『神通剣』と呼ばれるのかのう。」

「そうなると、十兵衛さんが捜している怪異を切れる剣ってお爺様の剣も入りませんか。」

「うむ。そうなるのかのう。しかし、わしが一番怪異を消したり、封じたのは剣ではなく、笛だったからなぁ。」

「笛?」

「ああ、源博雅殿から借り受けた『葉二』という名器でな。その音色が邪悪なものを祓うんだ。」

「博雅さん懐かしいな。また一緒にライブやろうって言ってたのに」

 小式部は数年前に亡くなった博雅のことを思って思わず涙を流していた。

「怪異や邪悪なものを祓うのに、笛なんですか。」

 十兵衛は、信じられない様子であった。保昌が答えた。

「あの時、怪異や邪悪なものを一番祓ったのは博雅さんの管弦だったかもしれません。」

「あの時はすごかったわね。一気に京の町が清浄になったんだから。」

「いや、お前の歌も将門殿を感動させたじゃないか。」

「お話に聞いた。『異界の門』の時の話ですね。」

「そうだ。和歌、管弦、経、人がなすいろいろなものが邪悪なものを祓う力になったんだ。」

「経?」

「頼光四天王の碓井貞光殿、それから藤原定頼殿の誦む経にはそんな力があったな。」

「和歌を詠んだり、経を誦めばいいのか」

「ただし、それは霊界のものを感動させるものでないと力は貸せないみたい。」

 小式部がそう話すと、十兵衛は観音様のことを思い出していた。

「そう、霊界では小式部さんのファンが多いって聞きました。力を貸してくれているんですね。」

「うん、業平様が話してくれたけど、霊はそれを信仰したり、愛したりする人の数が多いほど力を持つんだって、そして信じている人の思いは必ず霊に伝わるんだって、それで、わたしが子供のころに業平様の歌物語をまとめていた時に守護してくれるようになったんだって言ってた。田村麻呂様は一度お話して願いを叶えてあげたら、それから守護してくれてるみたい。天神様は……何でだろ?」

<それは、子供のころから賢くなりますようにとお祈りしてくれていたからじゃよ。>

「あっ、天神様、いらっしゃったんですか。」

<天界では、小式部を守護したいと申し出るものが多いのじゃよ。代わりに娘のところに行ってるものも多いのう。>

「え、本当ですか。八幡様もそんなことをおっしゃってましたが。」

<あのレベルの神様も気にかけておるのじゃよ。まああの方は守護する源氏がこれから大変だからの。おおそうじゃ、そこの男に礼を述べておったぞ。>

「十兵衛さん?」

<この後の源氏の歴史に関わる大切なきっかけを作ってくれたそうだ。>

「わたしが何か?」

 霊と対話できない十兵衛は何が話されているのか分からなかったが、小式部に名を呼ばれて、自分のことが話されていることが分かった。

「源氏さんのためにありがとうって、八幡様からの伝言みたい。」

 十兵衛は昨日、クマラにお願いをしたことだと気づいた。

「あれで、悲劇は回避できるのでしょうか。」

<うーん、わしじゃわからんのう。>

「天神様では分からないみたい。」


「剣にも霊が宿るのでしょうか?」

 黙って聞いて考え込んでいた静がたずねた。

<剣であれ笛であれ、物はそれを作ったものの魂が宿るものじゃ。それが清澄であるほど神霊は力を貸しやすくなるのじゃ。>

 天神様の返事を小式部が静に伝えると

「それでは、「膝丸」「髭切」を作った刀匠の魂が関わっているのですね。」

<あの刀匠が精魂込めて作ったものはどれも神霊たちが力を貸しやすいと言っておるな。>

「では、それを複製したものはどうなんでしょう。」

<見た目や中身は同じじゃが、魂までは無理だと思うぞ。>

小式部が伝えた言葉を聞いた十兵衛が、話に入ってきた。

「では、『鬼切丸』や『薄緑』には霊力はないのですか?」

<物には作ったものと、使うものの魂が関わる。これからその剣を使うものたちによって神霊が力を貸しやすくなるのじゃ。だから八幡様も礼を述べたのじゃろう。>

「九郎判官殿の魂か。」

「その人は誰ですか?」

「100年先の未来の源氏の鍵となる人物かな。」

「では、お爺様の『神通剣』も刀匠の力なのですか?」

<あれは刀匠の魂もなかなからしいが、それよりも保昌の魂と、もう一つな。>

「もう一つ?」

<保昌の身を誰よりも案ずる思いに神霊たちが力を貸しておるの。>

「ママ?」

 小式部が和泉式部をみて、天神様の話をすると

「実は私、お参りに行くたびに保昌様の無事と、保昌様の剣がその身を守りますようにって祈ったり、和歌を捧げたりしているの」

「どこの神様?」

「観音様や住吉様、八幡様………。」

「そんなにたくさん。」

「まさに『神通剣』というわけですね。」

 十兵衛には結論が見えてきた。

「ということは、心を鍛えて、清澄な心で無心に剣を振れば、次第に魂がこもる。そして私を思う人たちの心がこの剣に宿るということですね。」

<そうじゃ、それを作ったものの魂、使うものの魂、使うものを想う人々の魂が剣に力を与えるのじゃな。>

「そうですか。それでは保昌殿、お願いがあります。」

「ん。どうしました。」

「私にその剣をお貸しください。」

「どうするのですか。」

「同じ剣に魂を込めたいんです。」

 十兵衛は、保昌の「神通剣(仮)」を借り受けて鞍馬山に再び出かけた。


【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

物には作ったものと、使うものの魂が宿るんじゃ。

大切にするんだぞ。


銘刀誕生秘話

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