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頼通と教通

おじいさんのありがた~い おはなし。

 藤原道長は「一家立三后」をなしたあとは、健康状態が悪化し、出家して自ら創建した法成寺で療養生活を送っていた。それでも頼通の後見という立場から政治の実権は握り続けていた。今日も頼通は法成寺を訪れていた。

「それで頼通、なぜ降嫁を受け入れんのだ。」

「父上、私には隆姫が降りますから一人で十分でございます。」

「男がなぜ一人の妻で止まるのか。まして継嗣がいないではないか。」

「教通の子を養子にしますので、継嗣は問題ございません。」

「子がたくさんいて一族は繁栄するんじゃ。娘がいないと入内させられんぞ。」

「姉や妹が入内してますし、教通たちの娘を養女にいたします。」

「まあ、無理に決めてまた病気になられても困るしの。でも教通のように子に恵まれてほしいものじゃ。」

「教通は、自分の思い人と親が決めた正妻とバランスを取っているんですよ。私は親が決めた正妻が思い人なんで一人でいいんですよ。」

「いや、あれは公任の娘と養女で、他の一門からも妬まれとるよ。」

「小式部さんは狙っている者が多かったのですから、妬まれましょう。」

他の問題に関しては素直に道長のいうことに従う頼通だが、この件に関しては頑なに拒絶していた。

「まあ、能信あたりに、足元をすくわれないようにすることだな。」

 頼通は道長の長男で、同母弟の五男教通が支えてくれているが、次男頼宗、三男顕信、四男能信、六男長家は異母弟であった。顕信は出家し、頼宗、長家は頼通に協力的だが、暴力沙汰の多い能信だけは、公然と頼通に反抗していた。

「この間、教通のところといざこざがあったようですね。」

「あれも血の気が多いからな教通の従者を監禁して暴行したらしいな。」

「まあ、教通もやり返したみたいですけどね。」

「あの教通が、暴力沙汰か?」

「いえ、能信の従者の家を完全破壊したそうですよ。跡形もないそうです。」

「なにか、昔、そんなことがあった気がするな。」

「彼女が嫌ってますからね。」

 二人は酒呑童寺での一件を思い出して笑い出した。



 十兵衛が藤原保昌邸を探し当てて、やっとたどり着くと中が騒がしい。土壁の一部が壊されて、中から剣戟の音が響いて、玄関先からは煙が上がっているようだった。 

十兵衛が土壁の壊されたところに近づくと、中から女性を肩に担いだ男が出てきた。

「あっ、小式部さん。」

 男を素早く、倒すと十兵衛は小式部を抱き起こした。

「あなたは?」

「俺は、十兵衛と申す素浪人だよ。」

「待てー、娘を返せ!」

 壊された土壁の向こうから、保昌が刀を片手に飛び出してきた。突然切りかかってきた保昌の剣を十兵衛はひらりとかわすと、自分の剣を抜き正眼に構えた。

「ん、隙がない。あいつらとは違うようだ。」

「パパ、この人が助けてくれたの。あそこに倒れてるのが一味よ。」

 保昌は剣を収め、倒れている賊の男を取り押さえ、続いて出てきた袴垂に男を渡すと、屋敷の中に駆け戻っていった

「あの…。火が、つけられていませんか?先ほど玄関先から煙が見えましたよ。」

と、後ろから十兵衛が声をかけると、更に十兵衛の背後から声がする。

「それは大丈夫です。消しておきましたよ。」

「あっ、吉平さん。」

「何か危険な卦が出てましたので、見に来たらこれでした。」

 安倍晴明の長子、安倍吉平は、そう小式部内侍に声をかけると、この時代にない恰好をした十兵衛を見て

「ん?あなたは……。もしや扉渡りの人ではありませんか?」

「え?どうしてそれを」

「父が申しておりました。小式部さんが危険な目にあったときには、時空の扉を越えて助けるものが現れると。」

「もしや、父とは安倍晴明殿のことですか。」

「ええ、父をご存じでしたか。私は長子、安倍吉平と申します。」

「私は、時空の旅人、柳生十兵衛と申します。」

 十兵衛は、江戸時代の京で、半実体化した小式部内侍と安倍晴明に会って面識はあったが、もちろん小式部にそんな記憶はない。

「あなたは、式神さん?」

「いや、そうではない……まあ…そんなものかな。どころで家の中は大丈夫?」

「あっ!」

 そこに既に刀を収めた保昌が戻ってきた。 

「みんな無事だよ。静が、3人とママをうまく隠してくれてたよ。」

「さすが、静だね。」

「まあ、ここでは何だから、家に入ろう。吉平さんも、十兵衛さんだったかな、ご一緒に。」


 中に入ると、庭に5人の男が両手、両足を縛られ転がっていた。十兵衛は伝説に残る武人、藤原保昌の剣の腕前を垣間見たようであった。保昌が倒した4人の男は全員、切り傷一つなく気絶していたのであった。

 十兵衛が時空の旅人であるという話を保昌は素直に受け入れた。そして笑って

「いや、もうこの10年ほど不可解な出来事が多くありましてな。もう何が起きても驚きませんよ。」

「それは、私もそうなんですよ。もちろん今から600年後の世界ですが。」

「600年後?」

「私はその世界で、霊体となった小式部さんと一度お会いしていました。」

「霊体となった私?」

「ええ、美しい女神さまでしたよ。」

 十兵衛は江戸の町に出現した小式部の姿は見ていなかったが、江戸の町から全国に広がった小式部降臨の話はたびたび聞いていた。



【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

概して夫婦仲が良いのに子宝に恵まれないというのは

よくある話じゃのう。

時空の旅人登場

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