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「小しきぶ」3

おじいさんのありがた~い おはなし。

昔にもそのような話があった。在原業平という人がいらっしゃった。この方は阿保親王の第五皇子、母は伊登内親王とおっしゃった。この業平という人は、天下に知られたモテ男で、並ぶものがないほどの美男子であった。その姿は気品があり、顔つきは直視できないほど輝いて見える美形であった。その身からは蘭麝(らんじゃ)の香りがして、業平が通るとその香りが離れていてもわかるほどであった。管弦の奥義を極め、特に笛の名人であった。和歌の道は、柿本人麻呂、山部赤人の奥義を極めていた。その心建ては誠に立派で、世の人々より優れていた。この人の素晴らしい理由は簡単に言い尽くすことはできず、神にも勝るほどであった。そういう訳で、どんな女御、后、雲上人から卑しき身分の女まで、心を惹かれないということはなかった。そのことは伊勢物語に書かれているので読んでみなさい。

 この人の本質は言い難いところがある。自分に心を惹かれ、近づいてくる女は、それを縁として関係を持とうと誓いを立てていた。そのことをいい加減だと言ってはならない。それで書ききることができないほど、業平には、いろいろな妻がいた。


「なるほど、業平様があなたを助けてくれるわけね。」

「自分に心惹かれる女は、縁として関係を持とうってことなのかな。」

<いや、それだけでもないんだよ。>

「え、業平様聞いてたの」

<興味深く聞いてたね。>

「どうお思いました。」

 今では、悪意のない霊とは会話ができる和泉式部も話に入ってくる。もちろん保昌は話に入れないが、紫式部のお説教のあたりから、ずっとうつらうつらしている。

<うん、褒めすぎですね。>

「それだけじゃないって、どういうこと?」

<私が、小式部のことを知ったのは、まだ君が10歳ぐらいのことだよ。まだ10歳そこそこの娘が、私の歌物語を集めて、まとめてくれておどろいたんだよ。>

「ママが、業平さんの歌を学びなさいっていったから、いろいろ集めたの。」

<他の人がまとめたものより、時系列的には正しいんじゃないかな。まあ、その後、君を取り巻く、いろんな悪意に気が付いたんだけどね。>



  秋篠の里に一人の業平の妻がいた。しかし業平には河内に別の女もいた。それで業平が夜ごとにその女の元へ通っていくのを、元の妻は本当に妬む様子もなく、業平が出かける用意を手伝い、見送っているので、業平は不思議に思い。自分が出かけた後、浮気をしているのではないかと疑い、ある夕暮れ時に河内へ行くと嘘をついて、庭の植え込みの中に隠れて、女の様子を見ていると、夜も更けて、人々が寝静まり、月がほのぼのと出るころになって、簾を高く巻き上げて、手慣れた琴を弾き始めた。「想夫恋」という夫を想う曲を繰り返し、返し繰り返し弾いている。不思議に思って聞いていると

 風吹けば 沖つ白波 立田山 夜半にや 君が一人 越ゆらん

と詠んで、恋焦がれる思いを休めようと、銚子に水を入れて、胸の上に置くと、その水がすぐに湯になるぼどであった。立田山という山には盗人が多く、白波とはぬすびとのことである。このような山を業平が一人で越えることが心配だと思って詠んだのであろう。その時、業平は庭の植え込みから出てきて、「私はここにいるぞ」といって、その妻のことを深く思って、それから河内には行かなくなった。


「これは有名な筒井筒の話ね。」

「『ここにいるぞ』は保昌パパもやったわね。」

「ん?呼んだか?」

 急に自分の名を呼ばれて保昌が目を覚ました。

「『ここにいるぞ!和泉。』ってかっこよかったなぁ。」

「わたし、キュンとしましたわ。」

<そうですか。それは著作権使用料をいただかねばなりませんね。>



 「それで業平は、三千七百三十三人の女性と関係しましたが、その中より十二人の女房を選び、伊勢物語には書かれています。その十二人の中には伊勢斎宮、小野小町、女御、后も多く入っていますが、この心遣いを喜んで、この秋篠の里の妻の話を第一話に置いたのです。詳しくは伊勢物語を読みなさい。」

 紫式部はこのように様々に、和泉式部に教えて、源氏物語六十帖の中から五、六帖を取り出して、深く石山の観音に収めた。源氏の雲隠れの行方は様々な説があるが、これはその一説である。とても大事な秘密であるので、むやみに話すと石山の観音の(ばち)があたるだろう。くれぐれも秘密にするようにと書かれている。

 そうはいっても深い言い伝えもある。その内容は多いのであえて書かないが、そのことについて書かれた書や歌も多い。詳しく詳しく学びなさい。



「三千七百三十三人!!!!」

「業平様、これは引くわよ。」

「業平様は、偉大な男なんだ。」

なんだか、保昌一人が妙に感心している。

<そんなにはいないと思うんですけど、そんなにいたら私の子孫に困りませんよ。>

「そうか。誇張もあるわよね。」

「それより、気になっていたのが源氏物語ね。確か五十四帖だったはずよね。」

「幻の秘伝が六帖分あるってことね。でも私、読んでないわよ。」

「そうか、ママが読んで学んだことになってるもんね。」

<あれは、確かに六十帖あるはずだよ。地上では見つかってないみたいだけど。>

「え、そうなの?」

<こちらでは読むことができるよ。あれで光源氏が亡くなったせいで、霊が生まれたんだよ。>

「え、まさか、あの?」

<本来は生きているものが死んで、霊になるのだけどね。>

「紫さんを守っていた霊ってことですか。」

<あまりに多くの人たちに時代を越えて読まれてね。霊としての核を持ったんだよ。>

「そんなことってあるんですか?」

<霊たちはどれだけ多くの人たちから思われるかでその力を得るんだ。観音様や八幡様がものすごい力を持つのは、信仰する人たちの力なんだ。>

「じゃあ、あのヒカルげんじさんは神様?」

<神じゃないね。観音様たちとは桁が違い過ぎる。>

「ということは、もしかして十兵衛さんが言ってた将軍様や副将軍って」

<そのとおり、後の時代の多くの視聴者が元の霊に力を与えて、変えてしまったんだよ。>

「じゃあ、聞くわ。葛葉ちゃんの話だと600年後にわたしはすっかり忘れられて、私がやったことも全てなかったことになっているらしいんだけど。」

<霊としての小式部さんの力は女神に近いんですよ。それで、その力を削ぎたい人たちがいるんです。>

「私が女神?ああでも八幡様が、天神様や業平様が守っているって」

<詳しくわかるのはこちらに来てからです。とにかく悪霊や悪意には気を付けなさい。>

「ね。それって私、もうすぐ?」

 それには答えず、業平は消えて行った。


【ごきょうくん】

おじいさんとのやくそくだよ。

伊勢物語には「小式部内侍」本というのが存在したらしい。

でも、それは残っていないんだ。

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