「小しきぶ」2
おじいさんのありがた~い おはなし。
このような折り、都に恐ろしい鬼がやってきて、美しい稚児の姿で夜ごとに人を襲い食らっていた。その名を酒呑童子といった。都の人々が恐ろしがることはこの上なかった。
帝はこの鬼を討伐することを源頼光、藤原保昌の二人の将軍に命じた。この鬼の城は西山・愛宕老の山の二カ所にあったところを、頼光・保昌の二人の将軍は官軍を率いて「この鬼は、神に通じるような強い鬼なので、このままにしておけば、わが日本だけでなく唐までも攻め上るだろう。けっして逃してはいけない。」と、頼光は綱をはじめ武勇に優れたものたちを連れ、保昌は、武者を一人だけ連れて、酒好きの鬼だということで、小筒に酒を入れて、山伏の姿に偽装してこの山を三日三晩捜し歩いた。
「いよいよ。酒呑童寺の事件ね。かっこいい爺じの活躍があるわよ。」
「あの人、どんな風に書かれているのかしら。」
「じいじ、かっこいい。」
母とばあばが楽しそうに書物よ読んでいるのを見て、歓も読んでというので、結局小式部の読み聞かせになっていた。ちょうどそこに保昌が屋敷に帰ってきた。
「本物の保昌将軍のお出ましね。」
「なんだ。その将軍って」
「十兵衛さんが持ってきた未来の本、わたしたちのことが書いてあるみたい。」
「ただし、私は紫さんの娘。」
「なんだそれ、私はどう書いてあるのだ。」
「あなたは今、出てきたところ。小式部さんもう一度読んであげて」
「はいはい。」
この鬼は多くの人間を捕え、自分の城に連れ帰っていたのだが、ある時、大好きな酒の匂いがしてくるので、気になって捜すと、山伏四、五人が小筒に酒を入れてやってくるではないか。そこでこの鬼はいつものようにたとえようもないほどの美しい稚児の姿になった。その姿は、はっきり見ることができないほど光輝く美しさであった。頼光と保昌もこの稚児の正体に気付いてはいたが、歌を歌い、舞を舞い、お酌をして強く酒をすすめるので、深く酔ってしまっていた。この鬼にも強くすすめたので、鬼も酔ってしまい、双方とも酔って横になって寝てしまった。保昌が少し目を覚まして見ると、この稚児は思っていた通りの赤い鬼の姿になっていた。その頭が八つ、足が九つ、目が十六の赤い鬼が、炎のような熱い息を吹きかけて、山伏たちを捕えようとしていた。しかし、両将軍はそれをかわし剣を抜いて切りかかると、鬼も剣を抜いて抵抗したが、神通剣や髭切などの名刀の力に鬼の剣は折れ、この剣で鬼の首を取った。これも住吉三神を深く信仰していたからであろう。
「頭が八つって、どの首を取ったんでしょうね。」
「目が十六っていうから、8人いたんじゃない?」
「それだと、足が九つが合わなくなるぞ。しかし、わしの剣は『神通剣』だったのか。」
「最後に住吉様が出てくるのが不思議だわ。」
「まあ、源氏が絡むから、でるなら八幡様よ。」
「まあわしは、住吉様に和歌を収めたことがあったな。」
「え!どうして?」
「武運長久と、美しい妻をと願ったな。まあ叶ったからご利益はあると思うぞ。」
さて、この鬼の首を持って、都に戻り、帝にお目にかけると、この二人の将軍に天下を預けるとの宣旨であった。頼光には褒美として、非常に恵まれている領地が与えられた。保昌にも望みがあればなんなりとも申せとのことであったので、保昌は「おそれながら、和泉式部を私の嫁に下さりませ。」と申し上げた。帝は惜しくは思ったが、すぐに保昌の嫁としてお与えになった。ただし、和泉式部は保昌の屋敷から、昼間は内裏の女官として勤め続けることになった。こうして保昌は、和泉式部を深く思っていたので、どのようなことにおいても不足ということはなかった。
「わしは、天下や領地より、和泉を望んだんだ。これはあってるかもな。」
「まあ、嫌ですわ。恥ずかしい。でも一番ドキドキしたのは花盗人事件なんだけどね。」
「うん、その話、私も何度も周りの人から聞いたし、模倣犯は出るし」
「頼宗さんですね。」
「ホント自分で考えろって、歌は下手でも教通さんとは大違いよ。」
「結婚しても女官を続けたのはあってるわね。」
「真も、はあばのような優秀な女官になりたいって言ってるわよ。」
「あの子が女官になったら、きっとすごいことになりそうね。」
「まあ、皇子の嫁にと望まれるかもな。」
「本人それは嫌みたい。政略の道具になりたくないって、誰が吹き込んだのかしら」
「きっと静だわ。あの子最近政治の仕組みに詳しいんだもん。」
母の和泉式部の話から、小式部の話、そして真の将来の話と話は続いている。
都にそのころ、道命法師という歌詠みの名人がいた。和泉式部が時々、和歌の大切なことを習っていたところ、二人の仲を疑うものがいて、この人々が保昌に告げ口をしたため、保昌との関係が悪くなったことがあった。母の紫式部が、このことを聞いて、和泉式部を呼び寄せ、世の女性にあるべき振る舞いを教えた。これはとても大切な秘訣である、誰彼構わず見せてはいけない。
紫式部の言葉には「人付き合いは、全て大切なことです。相手の話をよく聞きなさい。主人から気に入られているからと、わがもの顔で振舞って、同僚に憎まれては行けません。すぐにどんな些細なことでも言いつけて、讒言されるものです。また人と交わるときは、眼で相手を見てはいけません。顔を向けて見るのです。眼だけで見ていると憎らしく見えるものです。うつむいて眼だけで見るとにらんでいるように見えます。また面白いことがあって人が笑っているときには、自分も少し笑いなさい。それだけで口を開いて笑ってはいけません。また、人が話をしているのに、悪く言ったり、訳知り顔で出しゃばってはいけません。また、もし問いかけられたのなら少しは話しなさい。全く言わないのは、ものを知らない者になってしまう。だいたい多く話してはいけない。またあまりものを言わないと、人を妬んでいるように見える。また、思いを寄せる夫に向かっても、相手から思われていると油断してはいけない。だからといって深く妬んでもいけない。そのまま本当に夫が遠ざかっていってしまう。でもまた一向に妬む様子もないと、かえってこちらの心変わりを疑われるだろう。」
「道命さんとのうわさはあったけど、誰も信じなかったわよ。」
「定頼おじさんとか、頼宗君と親しい人よね。」
「そうね。和歌を教わったことはないわ。まねされたけど」
「なるほど、頼宗君側の人か。」
「でも、これ確かに紫さんが、清少納言に言ってる言葉ね。」
「まあ、この辺りはあまり面白くないかな。」
「女の駆け引きの秘密を語られても、保昌さんは面白くないでしょうね。」
まだまだ、『小しきぶ』の話は続くようである。紫式部のお説教の場面で歓は寝てしまっている。
【ごきょうくん】
おじいさんとのやくそくだよ。
THE日本人、このころから変わらないものじゃの
現代語訳は続きます。




